魔法使いを殺しにいこう
ギルドから追放され、同じパーティだった奴らに殺されかけた俺は、知り合いの商人ラッセルのもとに逃げ込んだ。
「それで、彼らとの戦いについてですが」
「なんだ?」
「敵はギルド全体、いやそれどころか国が相手になるでしょう。」
「そうだな。あいつらには王との繋がりもあるし、貴族への影響力を持ちたがっていた」
「はい。しかし国はまだ動いてません。とくに軍の動きなどもなく、おそらくはギルド内部だけで暗殺計画を立てていたのでしょう。」
「つまり、今のところ敵はギルドだけってことか」
「ですが、そのうち国もギルドに手を貸すでしょう。そうなる前に、ギルドに大損害を与えなければなりません」
「なら、酒場にでも奇襲をかけるか」
「それも愉快でしょうが、敵上層部に準備期間を与えることに繋がりかねません。あなたは強いとはいえ一人なのですから、優秀な人間を狙って討つのがよいと考えています」
「うん、そうだな。誰を狙うべきだ?」
「それはやはり『征制屍地』のメンバーです。」
「いきなりか」
「最初に頭を潰してしまえば、あとは軽いものです」
「なるほどな。誰を倒そうか。やっぱりナハンドか?」
「それもいいかもしれませんが、魔法使いラー・ヒドロを優先すべきでしょう。魔法使いは何をしてくるかわかりません。」
「あいつの魔法は、俺から見ても厄介だからな。よし、そうしよう。」
俺は数日後、ヒドロの屋敷に向かった。屋敷は王宮の近くにあって、立地でいえば最高級。俺は記憶を頼りに歩みを進めていくが、あそこだったか、ここだったかと迷ってしまった。とりあえず、その辺にいた身なりのいい商人に尋ねてみる。
「魔法使い、ラー・ヒドロの屋敷がどこにあるか知らないか」
「あのヒドロの屋敷を知らないとは、そうとう流行りに疎いとみえる。…鎧に籠手…その格好、冒険者!なら、きみ、私のような商人なんかより、よっぽど知っておかなくてはいけない。彼女は魔王を倒しただけじゃなく、たくさんの魔法を開発して…」
話が長いタイプの奴だったか。
「わかったから、それで、屋敷はどこだ」
「ううむ、屋敷は、この通りをまっすぐ行くと、紫色で、へんてこな形の窓がついた建物があるから、そこで曲がって、それからまっすぐ行って、そのうち右にとても広い庭がある。そこがヒドロの屋敷だ」
「ありがとう。あ、それから」
「何だね?」
「ここ最近、何か変わった動きとかなかったか。例えばこう、魔法の準備をしてたとか」
「思い当たることがあったような気がするなあ。金貨一枚があれば、思い出せるんだが」
がめついなあ。でも商人ってそんなもんか。ラッセルは鎧やら武器やらポンポンくれるけど、あいつってやっぱ変わり者なんだろうな。
「ほらよ」
俺は袋から金貨を取り出す。いつ遊びに出るにも困らないように、常に身に付けていたのがよかった。
「ふうむ、確かに金貨だ。思い出したよ、ここ数週間、ヒドロ女史はたくさん物を買っていたんだ。うちからは魔法のための道具を買っていたね。おかげで数年分のもうけを1ヶ月で出せたよ。でもそれだって、買ったうちのほんのごくわずからしい。珍しい魔物の素材、薬草、鉱石、そういうものを、倉庫がいくつも埋まるくらい買っていったんだ。私も二十年以上商人をやっているが、百台近くの馬車を一度の買い物で使うなんて、彼女のほかには王様くらいしか見たことがない。」
「つまり、ヒドロは魔法の準備をしていたってことか」
「うーむ、金貨もう一枚でもっと思い出せるぞ」
「ほら、もう一枚!」
「どうもどうも。魔法の準備をしていたってのは、多分合っている。魔法使い達が言うには、あれらは主に呪いに使われるものらしい。あんなにたくさんの材料で呪いをやるならそうとう大がかりなものになるんだが、どうもこれがおかしいという。大がかりな呪いなら、目的は強く呪うか、広く呪うか、というものになる。貴族王族を呪うには大げさすぎる。大きめの村を呪うにしても、なぜ村を呪うのか。魔物に呪いをかけようにも、大物はあらかた討ち取られた。周囲の国も、すでに荒れきって、この国が一番豊かなくらいだ。それじゃあ、何を呪うのか。あれこれ憶測が飛び交っているが、私が聞いた中で最も説得力があって、それでいて刺激的だったのは、アルゴ・ロンドの粛清だ。彼は日頃酒と女にふらふらしていたから、優雅な貴族の仲間入りをしたいギルドにとっては邪魔だった。それで殺そうとしているってことだね。」
「呪いか…」
「ああそれから、最後に一つ思い出せるよ」
「わかったよ、やるよ!また一枚か!」
「ヒドロは国中から弟子を集めたらしい。まいどあり!」
「くそっ、馬鹿みたいに取りやがって」
俺はやや不機嫌になりながら歩きだした。途中、Hの上にTを乗せたような形の窓がある紫色の建物を見つけた。
「なるほど、こりゃへんてこだ」
俺は商人に言われた通りに進んでいった。すると広く草のよく刈られた庭と、その奥に屋敷が見えた。
「おー、改めて見てもでかい屋敷だ」
レンガ造りで、デコボコしたシルエットの屋敷は、2階建ての部分と3、4階建ての部分が入り交じって、よく見ると半地下のところまであるらしかった。たくさんついた窓はどれも奇妙な形をしていて、そしてすべてが閉められている。ナントカの魔法に関係してるって昔ヒドロに聞いたけど、これから飛び込むことになると思うと不気味だなあ。
そんなことを思っていたら、庭から大きな爆発音が響いた。音のした方を見てみると、人が倒れていた。なんだなんだと観察していたら、門の前で通行人が門番に尋ねていた。
「おい、今のはなんだ。お前の主人の庭で爆発したぞ」
門番はうんざりしたという顔で答えていた。何度も同じことを聞かれていたんだろうな。
「罠ですよ。あれは盗人です。日に2、3人ああいうのが入るんです。庭から侵入しようとすると発動するんです」
なるほど、庭には罠があるのか。魔法なんて、大体は平気だけど、よくわからないからあまり喰らいたくはないな。つまり正面から大人しく入って、どうにかヒドロと対面してから暴れればいいわけだ。門番をうまいこと言いくるめられるだろうか。
「俺、今日ヒドロに用があって来たんだけど、入っていいか?」
「用?ヒドロ師匠からは客人が来るとは聞いていない。」
「伝え忘れていたんじゃないか。通してくれ。」
「ダメだ。いや、許可が出ているなら証明書を貰っているはずだ。それを見せろ。」
まいったな、そんなもんあるわけないぞ。…そうだ!
「なあこれ見てくれよ、ギルドのバッジ!俺、ヒドロと同じギルドにいるんだよ!」
「だとしても通せんな。第一同じギルドの人間だからとむやみに入れていては、警備の意味もなかろう。さあ、早く証明書を出せ。ないなら盗人として突き出すぞ。」
どうすれば…そうだ!
「お前、証明書を」
「くらえっ!」
腹にパンチを入れてやろうとしたが、水色で半透明の壁──魔法障壁で防がれる。
「おい…」
男は俺を睨み付けるた。俺が敵だと認識したらしかった。だが俺のほうが行動が早かった。
「そこだっ!」
俺は空いていた左腕で男の頭を横から思いきり叩いた。側頭部を守ろうとした咄嗟の魔法障壁もガラスみたいに砕かれて無意味に終わり、男は首が折れてそのまま倒れた。
「うわぁーッ」
「人だっ人が死んだァっ」
「あいつロンドだ!アルゴ・ロンドだ!」
できればこっそり侵入したかったが、仕方ない。俺は石畳を踏み鳴らし、屋敷の玄関まで走っていった。




