追放された!
人間にはパワーが必要だ。パワーパワーピワー。最強パワワー。粉砕パワー。
俺は怪力で知られるアルゴ・ロンド。ギルド『天下無敵』のトップパーティ『征制屍地』の一員として竜とか魔王とかを退治しまくってたら、名が轟いて都に招かれ、そのまま官僚になれちまったんだ!おまけに郊外に豪邸までもらえて、今は悠々自適、うまいものを食べたり、酒を飲んだり、まあやったことの割には慎ましく暮らしている。
「お前をギルドから追放する」
「え?」
人生ってのは何があるかわかんねえよなー、いきなり追放だっていうんだ!目の前で俺のこと偉そうに指差して(俺の屋敷なのに!)、追放を宣言したのは、『征制屍地』のリーダーにしてギルドのリーダー、ナハンド・アクス。『地上の太陽』なんて呼ばれてる。金髪のイケメンで、普段から王子様って雰囲気のヤツだが、今は鎧を着込んでるから、なおのことそう見える!
「今日はエイプリルフールじゃないぞ」
「問題ないな、何日だろうがお前は追放だ」
ホラや冗談じゃないらしい、訳を聞いてみようじゃないか。追放の心当たりはないんだけどな。
「お前自覚ないのか?」
「自覚だと?俺が何をしたっていうんだ。」
俺はずっとおとなしくしていたし、追放される理由なんてない。むしろギルドの仲間のほうにトラブルの噂があるくらいだ。
「お前は役立たずなんだよ」
「はあ?」
俺はこれを聞いて大変驚いたんだ。驚きの理由は語っても語り足りない。
「いやいや、俺は大活躍しただろ、俺一人で倒しただけでも、竜を40、魔王を3、それらの部下に至ってはたしか80くらい…」
「魔王なんて、ギルド全体で13匹倒している。もちろんお前の分は除いてだ」
「でも、俺の成果は飛び抜けているだろ」
「これまでが良くても、これから駄目なんだよ。」
「どういうことだ」
「いいか、俺達は魔物をほとんど抑えきって、きっと今後数百年は大規模な戦いは起こらない。そこでギルドが生き延びるためには、貴族の中に入っていって、政治で勝つことになる。それをお前はなんだ?詩も音楽も覚えず、考えることといえば、酒と飯のことばかり。お前のような者はもういらないんだ。」
そう言われて、俺は少しムッとしたが、抑えて、こう返した。
「別に追放することはないだろう」
「いいや追放する。ギルドが舐められるんだよ、お前がいると」
「はいはい、そうですか。好きにしろ」
「行動を改める気はないのか」
「ないね。お前こそ改めるべきだ。」
「なに?」
「お前さっき、これからは戦いが起きない、なんて言っただろ。怪しいところだぜ、それは。魔物と戦うという名目で、地方の領主たちは長年大きな権力を与えられていたんだ。地方に限らず、中央に近い貴族でも、戦いの褒美として特権をもらっている者が多い。土地が足りてなかったから、その代わりだな。要するに王が弱いんだよ、今は。対魔族の機運が薄れた今、野心家たちは何を考えているだろうな?」
全部知り合いの受け売りなんだけど、いいよね。
「馬鹿め!皆消耗しているはず!」
「今はな。中央が権力を奪い損ねれば、そのうち反乱が起こるぞ。そのとき役に立つのは?詩や楽器をやってみるか?」
「貴様…!」
おっと、煽ったのはまずかったかな。
「…とにかく、お前はギルドから出ていってもらう。」
「そうすべきね」
「まったくだ」
アクスの後ろから、二人、新しい冒険者が現れる。一人はパーティの紅一点、ラー・ヒドロ。あだ名は『新時代魔術の母』で、青く美しく長い髪と整った顔、蛇などの飾りがついた黒いローブが特徴的な美人の魔法使いだ。見た目はいいが贅沢好きで、屋敷は滅茶苦茶デカいんだ。一度見せてもらったきり行っていなくて、もう一回行ってみたいと思っていたが、そんな雰囲気じゃなさそうだ。
もう一人はヨーゼフ・クローク。背の高い暗い雰囲気の男で、いつも眉間にシワを寄せているし、まだ二十代なのに結構老けてる。冒険のときは、戦闘よりも資金とか食料とか宿の調達を主にやってたし、そういう仕事をしていると苦労が多くて老けるんだろう。口うるさいから、俺は苦手だったけど。『鋼鉄のヨーゼフ』っていう呼び名も、そんな性格が関係してるのかもな。
「お前達まで…俺の活躍を見ていたなら、ナハンドのことを止めてくれてもよかったはずだが」
「あなた、そうしてもらえると本当に思っているの?パーティの、ギルドの評判を下げておいて?」
「なに?」
「貴族の間では、ウチは侮られている。力ばかりの畜生を飼っている、ギルドの品性も窺える、とな。私達の成果まで疑われている。せめてもう少し本でも読んで、格好をつけてもらわねば困るのだ。」
「貴族ぅ?あんな偉ぶってるだけで、大して強くもない奴ら…」
「そんな態度だから追い出されるんだ!」
ヨーゼフは怒鳴った。俺は面食らったが、貴族がそんなに大事だなんて、いまいち理解できなかった。
「まあ落ち着け、ヨーゼフ。…もう一度聞くが、アルゴ、行いを改める気はないのか?」
「ない。追放したければそうしろ!」
俺は腹が立っていた。後のことを考えれば、その場だけでも繕って、ギルドに残った方が楽だったかもな。
「…ならば、仕方ない。ラー、やれ!」
「わかったわ。縛り、苛み、責め立てよ!」
ラーがそう言うと、俺の体は急に重くなって、全身に激痛が走った!俺は立っていられず、床に倒れこんだ。
「アルゴ…お前は生かしておくには危険すぎる。死んでもらうしかないんだ」
ヨーゼフが俺のことを見下ろしながら言う。俺は苦しみながらも、あいつらを睨み付けていた。
「まだ気力が残っているなんて…結構手間かけて準備してたのよ?」
「拘束魔法のグレードを上げて正解だっただろう?」
そう言いながら、ナハンドは剣を抜く。このままじゃ、首を落とされる!気力と体力を出し尽くしてでも逃げないと!
「さようなら、強さだけの男」
ナハンドは剣を振り下ろす。そしてそれは、突如出現した黒い板に阻まれる。
「これは…」
「ステータスパネルだ。驚いたか?」
ナハンド達は呆気にとられていた。俺はその隙をついて、全力で走りだした。
「アルゴが逃げた!」
「ラー、魔法で!」
「駄目、それじゃ拘束が維持できない!」
「ちいっ!」
たぶんヨーゼフが魔法で炎を飛ばしたんだ。しかし速度も精度も連射速度も大したことなかった。一発たりとも俺の背中に当たらなかった。
「追いかけろ、逃がすな!」
「お前達、アルゴを仕留めろ!」
三つの足音に追われながら必死に走る俺の行く手に、何人かの鎧姿の冒険者が立ちふさがっていた。
「邪魔だ!」
兜の上から頭をぶん殴り、その辺にあった棚を投げつけると、敵は動かなくなった。
「あんなに暴れるの!?ひどい消耗なのに!」
「逃がさぬようにと散らばらせたのが仇になったか…!」
俺は扉を破り、庭を駆け抜け、道を走り、街に逃げ込んだ。目指す先は、友人の家だ。
「おや、その様子は…」
「頼む、匿ってくれ!」
「ふむ、いいでしょう」
友人─大商人ラッセル─は、眼鏡を光らせながら、俺を家に入れた。ソファへと案内され、出された水を一度に飲み干した。
「あなたがそんなになるとは、よほどのことがあったのでしょうね。例えば、かつての仲間たちによる粛清とか」
「ああ、そうだ。…えらく具体的だな。なんで知ってる?」
「噂は広まっていましたから。『山裂きのアルゴ』はもう長くはない、そのうち殺されるだろう、と。」
「知らないのは俺だけだったのか」
「無理はありませんよ、私も商会の上層部にいたから知れたようなものですから」
ラッセルは窓から通りを見ている。
「あなたを助ける以上、私もお咎めなしとはいきますまい。」
「…すまない」
「いえ、よいのです。私はものを売り買いするよりずっと面白いことを迎え入れた」
「面白いこと、か」
「ええ!最高に面白いことです!あなた、このまま大人しく逃げ隠れするつもりはないのでしょう?」
「…ああ!」
「それでこそ、助けがいがあるというもの」
俺は協力者を得た。戦いは、ここから始まるんだ!




