復活、そして反乱へ
目が覚める。知らない部屋の、知らないベッドの上だった。喉が渇いて、硬くなっている。体を起こし、人を呼ぼうとするが、声が出ない。仕方がないので、自分で水を探そうとベッドから出たところで、召使が扉を開けて入ってきた。
「お目覚めだ!タークサル様を!パルカラ様をお呼びしろ!」
その声を聞いてか、もう一人男が来た。服がきれいで、それでいて地味な色合いだから、きっとこの城にいる貴族の従者だろう。
「ロンド殿が目を覚ましたのか。生命力まで強いんだな。」
「…ぁ…」
「ロンド様、どうなされました」
「水が欲しいんだろう。井戸からもってきなさい、バケツ一杯分ね。」
俺は召使がボウルに入れて持ってきた水を飲んだ。顔面ほどの大きさのボウルを両手で持ち、直接飲んでいると、パルカラの声がした。
「アルゴ!」
「ん、パルカラ…」
扉の方を見るとパルカラが入ってきて、タークサルも続いた。
「心配したんだぞ…」
「あなたは三日間眠っていたのです。太ももに毒針を受けていました。」
「うーん、思い出してきた…そうだ、そうだ。俺はそれで倒れたんだ」
「そうだ、もう少しで殺されるというところに、私が弓を射かけて助けたんだ。私は暗くても問題なく見えるからな。どうだすごいだろう」
左の太ももには包帯が巻かれていて、下半身はそのほかにはパンツだけを着ていた。
「助けてくれたのか…ありがとう。」
「医者のところにあなたを運んだのもパルカラです。」
タークサルは俺の太ももを見て、そして言った。
「恐ろしい生命力ですな、あなたは。あの毒は一滴で牛を殺せるほど強いのに、生き延びてみせた。あなたを目の前にしてなお、信じがたい。」
「よせよせ、ただぶっ倒れてただけを、そんなに褒められちゃかえって恥ずかしいぜ」
「とにかく、生きていてよかった。」
「ああ。それはそうだが、飯くれねえか?今すげー腹減ってんだけど」
「ふむ、そうですね。すぐに食事を持ってこさせましょう」
「たのむぜ、なるだけ早く。」
俺はその後、飯を食った。たくさん食った。これまでにないくらい食った。食い終わったあとの皿が山のように積みあがったあたりで、ようやく満腹になった。
「今度は食い過ぎで死にはすまいな」
「縁起でもないことを言ってはいけませんよ、パルカラ。…気持ちは分かりますが」
それから数日間、俺は城で休ませてもらえることになった。その間、城の奴らは妙に忙しそうだったが、俺はその理由をすぐに知ることになった。
ある朝のことだ。朝食を食べ終わった俺は、パルカラに呼ばれた。
「私と、お前と、タークサル一等貴とで、大事な話がある。一緒に執務室に行こう」
パルカラに案内されて装飾のなされた鍵付きの扉を抜けると、タークサルが大きな机のそばで椅子に座っていた。机には絵が置かれている。タークサルは立ち上がり、俺をじっと見ると、「お座りください」と言った。俺が椅子に座ると、タークサルとパルカラは机を挟んで俺の反対側に座った。俺は机の上に置かれた紙を見て言う。
「これ…もしかして地図か?ということは、山賊討伐の相談か」
今は戦争がないから、地図を広げる用事といえば、山賊や魔物の討伐とか、資源の調達になる。俺をわざわざ呼ぶってことは、山賊か魔物の話になるが、最近は強い魔物もあまり出ないから、山賊討伐ってことだ。魔王軍は壊滅して、人間も弱ってるから、ろくでなしがはしゃぎ出すんだ。
「戦争でございます」
違ったぜ!でも戦争って、誰とだ?
「この前城に敵が来て、何人も殺されただろう。刺客の生き残りを拷問してみたところ、『征制屍地』から送られてきたものだとわかった」
「俺がいたギルドじゃないか。そういえば最後に俺が戦ったのもヨーゼフ・クロークだったな」
「ええ。そのとおり、ロンド様が元々所属していた組織ですが、あなたを危険視し、抹殺しようとした。」
「妙だな。俺を殺したいなら、この城に乗り込まないで別な時に狙った方が楽なのに」
「そこが重要なのです。私は以前、土地の権利のことで王と揉めたことがあるのです。王宮はそれ以来、私にあれこれと難癖をつけ、どうにかして力を削ごうとしておりました」
「…『征制屍地』は王と関係が深かったな」
「既存の貴族のように戦力にはなるが、土地などの基盤は弱い。そんな組織は王に都合が良かったのだろう。お前の元いたところに限らず、大小さまざまなギルドがはした金目当てに王の手先になった。『征制屍地』は特に熱心に成り上がりを試みているギルドだが、その分王の命令には忠実だ。力のある領主と戦えと言われても従う…」
「王と有力貴族との対立があるところに、ギルドとそのメンバー…アルゴ・ロンドの対立が起きた。わたくしタークサルはラッセルとのつながりから、ロンド殿を保護したが、それは王とギルド両方を刺激した…」
「向こうから見れば、俺という敵を、不穏分子が保護したという形になるな」
「そうです。そして想定外の被害を受けたギルドは、尾行か何かによってこの城にあなたがいることを知り、大急ぎで王に報告、そして王は私の反乱を予想して、敵を一気に殺してしまえと命じたのでしょう」
「ギルドの精鋭部隊か、あるいは王直属の工作員も混じっていたかもしれない。とにかくそういうエリート達が、お前が来た日の晩に城に侵入し、暗殺を試みた。王と不仲な有力貴族タークサル、それに仕える騎士パルカラ、ギルドの最上級メンバーを殺害可能なロンド、その他の有力な部下たち。寝込みを襲って全滅させれば、多くの問題がいっぺんに解決する、とそう考え、この城の人々を殺していった」
「大切な部下が多く殺されました。私やパルカラ、あなたなどは身を守れたが、そうでない者も多かった。私の勢力は打撃を受けましたが、だからといってこのまま王に従っているわけにはいきません。部下を殺された以上、あんなものはもはや私の王ではない。私は王を倒し、私の国をつくるつもりです。協力していただけますか?」
「ここ数日忙しそうだったのは反乱の準備か。いいぜ。協力する。」
「おお!」
「感謝するぞ、アルゴ・ロンド!」
「ただし、ギルドと国を滅ぼすところまでだ。そのあとは好きにさせてもらうぜ。面倒なのはごめんだからな。」
「十分だ。お前が来てくれれば百人力だ。…私だって八十人力くらいはあるが」
タークサルは咳ばらいをしてから、
「ありがとうございます。本当に、本当に心強い。」
と言って、手を差し出した。俺はその手を握る。さあ楽しい反乱の始まりだ!




