【76話】一歩一歩着実に
翌日。
店の運営は、リュカ主導で進められた。
俺が口を出す必要は、ほとんどなかった。
「棚の配置、少し詰めるね」
「セラ、その箱お願い」
落ち着いた声で指示を出すリュカ。
セラは静かに頷き、商品を並べる。
「承知しました」
フィオナは元気よく動き回る。
「これ入口の方に置きます!」
新商品の《アクアリュクス》と缶詰は、
開店と同時に並べられた。
客の反応は、上々だった。
「おお、これいいな」
「遠征にちょうどいい」
初日から、かなりの数が出た。
俺は少し離れた場所から、その様子を眺める。
「……問題なさそうだな」
リュカが一人で店を回せることは、
もう証明されている。
むしろ俺がいるより効率がいい気すらする。
街の動きは、店だけじゃなかった。
食堂にも変化があった。
ギルドに出していた求人に、
新たな応募が来たのだ。
三人。
いずれも、ホール経験者。
「接客は任せてください」
「配膳、慣れてます」
「忙しい店ほど燃えるタイプです」
ガルドとミーナに確認してもらい、
即日採用。
これで食堂の体制はこうなった。
厨房
ガルド
ミーナ
ホール
新規三名
一気に余裕ができた。
昼営業も、かなり回しやすくなるだろう。
そして。
いよいよ、本題だ。
「……銭湯、作るか」
街の外れにある空き地。
そこに立ち、俺は設計図を広げた。
隣には、腕を組んだルシア。
「で?」
「どんな形にするんだ?」
「まずは浴槽ですね」
俺は図面を指差す。
「ここが大浴場」
「こっちが洗い場」
ルシアはふん、と鼻を鳴らした。
「簡単だな」
次の瞬間。
彼女の足元から魔力が広がる。
「――土よ」
地面が、動いた。
ぐぐ、と盛り上がり、
まるで粘土のように形を変える。
壁が立ち、
床が整い、
巨大な浴槽が形作られていく。
職人が何日もかけて作るものを、
ほんの数分で。
「……相変わらず規格外だな」
思わず呟く。
ルシアはキョトンとした顔で
「これくらい普通だろ」
と言う。
普通ではない。
だが、そのおかげで――
銭湯の骨組みは、
あっという間に完成した。
俺は新しく出来た浴槽を見渡す。
「……いいな」
この街に、人が集まる場所。
ただ体を洗うだけじゃない。
疲れを落として、
話をして、
また明日を頑張る場所。
「絶対、ノクシアの名物になるよ」
そう言うと、
ルシアは、にやりと笑った。
「そりゃ楽しみだな」
街は、また一歩前に進んだ。




