【72話】街づくり
小さな街というのは、支配するには都合がいい。
ノクシアはまさにそうだった。
商業、住居、宿、工場――主要な不動産と金の流れを押さえた時点で、
街の人間は自然とトウマを見るようになっていた。
名目上の領主はいる。
だが実質的な舵取りをしているのは、間違いなくトウマだった。
「……一度、ルミナス王国の店は休みにしてもらおう」
無理に二拠点を回す必要はない。
今はノクシアを固めるのが先だ。
俺は使いを出し、セラとフィオナを呼び寄せた。
数日後、二人が街に着く。
「相変わらず、動きが早いですね」
セラは街並みを見渡しながら苦笑した。
「気づいたら、街の中心人物じゃないですか」
フィオナは楽しそうに目を輝かせている。
「まだ途中だ」
俺は首を振った。
「この街、冒険者ギルドがない」
それは致命的だった。
仕事の斡旋、討伐依頼、素材の管理、冒険者の統制。
それらが存在しない街は、発展しきれない。
「だから、ギルドを作る」
「自前で?」
セラが少し目を見開く。
「できなくはないが……問題は信用と認可だ」
しばらくして、屈強な体格の男が現れる。
「話は聞いた」
ヴァルドは腕を組み、頷いた。
「確かに、この街にはギルドが必要だな」
「心当たりはありますか?」
「ある」
ヴァルドは即答した。
「旧知のギルド関係者がいる。掛け合ってみよう」
そのまま馬を出し、街を発つヴァルド。
あまりに迷いがなかった。
「……早いな」
トウマが呟くと、
「人脈のある人は、動きも早いんですよ」
セラが笑いながらつぶやく。
数日後。
ヴァルドは、まるで散歩の帰りのような顔で戻ってきた。
「話は通った」
「もう?」
「条件付きだがな。形だけでも正式なギルド支部にできる」
街に、冒険者ギルドができる。
それだけで人は集まり、街は動き出す。
だが、フィオナはそこで首をかしげた。
「ねえ、もう一つ――街の目玉、欲しくないですか?」
「目玉?」
「うん。人が“わざわざ来る理由”」
フィオナは指を立てた。
「お風呂はどう?」
「お風呂?」
「ただのお風呂じゃなくてですね」
彼女は少し楽しそうに笑う。
「入浴剤を使うんです」
「……入浴剤?」
「しかも、特別なものを」
フィオナは少し声を落とす。
「疲労回復、軽い状態異常の緩和、魔力循環の補助」
「効果は弱いけど、毎日入れる」
冒険者向けとしては、破格だった。
「それは……流行りそうだな」
俺は正直に言った。
「でしょ?」
フィオナは胸を張る。
「宿とギルドとセットにしたら、絶対流行るよ」
冒険者が泊まり、仕事を受け、風呂で回復し、また街に金を落とす。
俺は少し考え――そして笑った。
「やろう」
街は、もう止まらない。




