【71話】制裁、思わぬ収穫
朝。
新店舗の窓から差し込む光を浴びながら、俺は腕を組んで考えていた。
昨夜の件。
あれが偶然なわけがない。
「準備いいか」
背後から声。
振り向くと、ルシアが外套を羽織って立っていた。
表情はいつも通りだが――目が、完全に仕事モードだ。
「やりすぎるなよ」
一応言ってみる。
「“やりすぎ”の基準は?」
「……死ななきゃセーフで」
「了解」
軽すぎる返事が、一番信用できない。
不動産屋は、昨日と同じように薄暗かった。
扉を開けた瞬間、店主の顔が引きつる。
「ひ、ひぃっ!?き、昨日の……!」
「おう。朝から悪いな」
ルシアがカウンターに肘をつく。
「ちょっと、話そうぜ」
逃げ道を塞ぐように、背後の壁が――凍った。
「昨夜、ウチに賊が入った」
ルシアの声は低い。
「偶然か?それとも、心当たりがあるか?」
「し、知らない!本当に知らないんだ!」
震える店主に、ルシアは一歩近づく。
「じゃあ聞くが」
ぱき、と氷が軋む。
「アンタが持ってる物件、いくつだ?」
「……っ!」
沈黙。
それが答えだった。
「全部だ」
「……は?」
「物件も、現金も、全部、譲れ」
店主が絶叫しかけた、その瞬間。
「拒否権はねぇぞ」
床一面が凍り、椅子が砕け、天井から霜が落ちる。
「選択肢は二つだ。今すぐ全部差し出すか」
一拍。
「この世に“住めなくなる”か」
数分後。
机の上には、権利書の束と、金貨袋が積まれていた。
「……街を出ろ」
ルシアが淡々と言う。
「今日中に。別の街で、まっとうに生きろ」
「は、はい……!」
店主は転がるように逃げていった。
不動産屋への制裁は、あっけないほど簡単に終わった。
表向きは「合法的な譲渡」。だが実態は、持っている物件と資金のすべてを差し出させ、二度とこの街に戻れないよう別の街へ送り出す――完全な追放だ。
「……これで、この一帯は全部俺のものか」
トウマは地図を広げ、並ぶ建物の数に思わず息を吐いた。
倉庫、空き家、半壊した店舗、使われていない集合住宅。
数だけはあるが、どれも中途半端だ。
「使い道、考えないとな」
まず必要なのは、人だ。
これから雇う従業員、職人、護衛――彼らが安心して暮らせる場所がいる。
「従業員用の寮は必須だな」
老朽化していた集合住宅を改装し、食堂付きの寮にする。
家賃は格安、仕事とセットで住める環境。
人手不足のこの街では、それだけで十分な魅力になる。
次に目をつけたのは、大きめの倉庫だった。
「……缶詰工場、いけるな」
保存食は冒険者にも街にも需要がある。
狩った魔物の肉、余った作物、海産物――
加工して保存できれば、価値は跳ね上がる。
そして最後に残ったのが、街道沿いの立地のいい建物。
「ここは……宿屋だな」
冒険者用の宿屋。
安価だが清潔で、食事付き。
情報掲示板と簡易ギルド窓口も設ける。
さらにその奥に、商会の本部を置く。
「宿・工場・商会本部。全部つながる」
冒険者は宿に泊まり、仕事を受け、素材を持ち込む。
工場で加工し、商会が流通させる。
金と人と物が、自然に回る仕組みだ。
トウマは地図を畳み、小さく笑った。
「……不動産屋一人潰しただけで、街一つ動かせそうだな」
これが、彼の最初の“街づくり”だった。




