【69.5話】幕間/隣に立つために
「息抜き、ねぇ」
近くに新しいダンジョンができた、という話を聞いた時、
リュカは半信半疑だった。
息抜きになるのか、それ。
隣を歩くルシアは、いつも通り気楽そうだ。
「気張る必要ねぇって。適当に見て、さっさと帰るぞ」
「……分かりました」
ダンジョン内部は、新規発生らしく構造が単純だった。
魔物の気配も素直で、危険度は低い。
だからこそ――
「ほら」
ルシアが指を鳴らす。
次の瞬間、魔物の動きが止まった。
炎でも、氷でも、雷でもない。
“魔法を使う前に、戦闘が終わった”
そんな感覚。
(……今の、何をしたの?)
リュカは目を凝らし、魔力の流れを追おうとする。
けれど、見えない。
いや、正確には――
多すぎて、整理できない。
「……もう一度、同じのを」
「ん? ああ」
ルシアは軽く頷き、今度は別の魔物に向けて手を振る。
今度は、はっきりと属性が分かった。
火と風と雷が、同時に、無駄なく使われている。
(同時詠唱……?ううん、そもそも詠唱してない……)
リュカは必死で記憶する。
魔力の立ち上がり、流れ、収束。
――理解できない。
「……あの」
戦闘が終わった後、リュカは思い切って聞いた。
「今の魔法、どういう理屈で……?」
ルシアは少し考えるように顎に手を当てる。
「理屈?」
「はい」
「んー……」
数秒。
「魔物の癖見て、一番楽なやり方で潰しただけだな」
「……魔力配分は?」
「適当」
「属性の切り替えは?」
「勝手に切り替わるだろ?」
リュカは、思考を止めた。
(……だめだ)
感覚派。
それも、極まったやつ。
ショックは、不思議と無かった。
比べる土俵に、最初から立っていない。
それが、はっきり分かってしまったから。
「……すごいですね」
素直に、そう言った。
「今さらだな」
ルシアは笑った。
「でもさ」
少しだけ、声音が柔らかくなる。
「アンタはアンタだ。トウマの隣にいるのも、アンタだろ?」
その言葉に、リュカは小さく息を吸った。
(……そう)
規格外には、なれない。
同じやり方も、真似できない。
でも――
(だからって、止まる理由にはならない)
拳を、ぎゅっと握る。
もっと強くなる。
理解できる範囲で、積み重ねる。
トウマの隣に立つために。
彼の“背中を預けられる存在”でいるために。
ダンジョンの出口が見えた。
「飯食って、帰るか」
「はい」
一歩、踏み出す。
リュカの中で、
静かな誓いが、確かに形になっていた。




