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前世の記憶?厨二ノート?無駄に派手な異世界冒険譚!  作者:
【第7章】広がる仕事の幅

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【68話】缶詰、改良。新たな訪問者。

翌日。


工場の作業台の上には、昨日仕込んだ試作缶が整然と並んでいた。

見た目に異常はない。膨らみも、歪みもない。


「……とりあえず爆発はしてないな」


俺のその一言に、全員が小さく安堵する。


「でも、まだ安心できない」


リュカは一つ手に取り、缶の表面を指で軽く叩いた。


「中の熱が抜けるまで時間がかかりすぎる。このままだと、夏場は特に危ないと思う」


「確かに。昨日は自然放熱に任せてたが……」


ドランは腕を組み、缶詰と睨み合うように考え込む。


「熱いまま密閉するのはいい。だが、その後が遅い」


その時だった。


「……水魔法でも冷やせるけど」


そう前置きしてから、リュカは首をかしげる。


「もっと早く、確実に冷却できた方がいいよね」


「水だと温度が上がった瞬間に意味がなくなる。だったら――」


「氷魔法」


俺とリュカの視線が合い、同時に納得する。


「表面を一気に凍結させれば、内部の熱も短時間で奪える」


「急冷には最適だ」


ドランも異論はないようだった。


すぐに再試作が始まる。煮込みを熱々のまま缶に詰め、密閉。


「いきます」


リュカが魔力を集中させる。


「――氷よ、留まり、閉じよ」


発動した氷魔法が、缶の外側を覆う。薄い霜が走り、次の瞬間には氷膜が形成された。


ぱき、と小さな音。


缶の温度が一気に奪われ、

内部の圧が安定していくのが魔力感知でも分かる。


「……速いな」


ドランが感心したように呟く。


「これなら雑菌が増える暇もない」


「しかも、水気が残らない」


俺は氷が自然に砕けて落ちるのを見ながら、深く頷いた。


「工程として組み込める。魔法が“技術”になったな」


リュカは少し誇らしげに微笑んだ。


氷が溶けきった缶を手に取り、俺は宣言する。


「よし。次は試食だ」


氷が完全に溶け、缶の表面が常温に戻ったのを確認してから、慎重に蓋を開けた。

ぷしゅ、と小さな音。

次の瞬間、食欲を直撃する匂いが立ち上る。


「……これは」


思わず声が漏れた。


肉は崩れすぎず、しかし箸を入れればほろりと解ける。

煮汁は濃すぎず、薄すぎず、香辛料の輪郭がはっきりしている。


まずは俺が一口。


――うまい。


想像していた「保存食」のラインを、明らかに超えていた。


「……正直に言うぞ」


次に口にしたドランが、少し目を細める。


「これ、普通に店で出せる味だ」


「ですよね?」


リュカも自分の分を口に運び、驚いたように目を見開いた。


「保存食特有の臭みもないし、冷めても味が落ちない……むしろ落ち着く感じです」


「……成功だな」


その空気を、ドランが少し引き締める。


「ただし、問題もある」


「……氷魔法か」


俺の言葉に、ドランはうなずいた。


「工場内で安定して氷魔法を使えるのは、今のところ俺だけだ」


リュカが少し眉をひそめる。


「他にもいなかったっけ?」


「いるにはいる」


ドランは言葉を選ぶように続けた。


「だが魔力が少ない。一日に何度も使えるほどの余裕はないし、一日中冷却工程を任せるのは無理だ」


「つまり……量産がネックになる」


ドランがそうまとめた、その時だった。


工場の扉が、静かに開いた。


工場の空気が、わずかに張り詰めた。


扉の前に立つ女性は、見た目だけなら――間違いなくセラだった。

だが、漂う雰囲気はまるで違う。


姿勢は崩し気味。

口元には自信ありげな笑み。

そして、魔力の“圧”がはっきりと伝わってくる。


「名乗りが遅れたな」


彼女は親指で自分を指す。


「ルシアだ。魔法使いだ。よろしく」


トウマの頭の中で、前世のノートが蘇る。


(……書いた。確実に書いた)


「工場で氷魔法が必要って話、聞いたぜ。一日中でも使える。魔力切れ?心配すんな」


ドランが一歩前に出る。


「……失礼だが、どの程度の魔力量だ?」


「測ったことねぇな」


ルシアは笑いながら言う。


「王国の魔力測定器、三回壊したことはある」


「……十分だ」


即答だった。


「魔法は何でも行ける。制御も任せろ。工場に常駐してもいい」


俺は額を押さえる。


(まただ……また前世の設定が、この世界に引きずり出されてる)


だが、目の前の“姉御魔法使い”は、確かに必要な人材だった。


「……よろしく頼む」


そう言うと、ルシアはニッと笑った。


「任せとけ。妹の世話になってる礼も兼ねてな」


「……別に、世話は」


「はいはい」


俺の言葉を軽く流しながら、ルシアは工場を見渡した。


「いい場所じゃねぇか。気に入ったぜ」


俺は内心でため息をつく。


(……これでまた一人、ノートの住人が増えたな)

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