【66話】新商品
翌日。
トウマは朝一番で、ドランの管理する工場を再び訪れていた。
石造りの建物の中には、すでに湯気と薬草の匂いが立ちこめている。
作業台の上には、試作途中の石鹸や液体の入った瓶が並び、職人たちが慣れた手つきで作業を進めていた。
「おう、トウマ。今日も早いな」
声をかけてきたのはドランだ。
腕を組み、こちらを値踏みするような目で見ている。
「昨日の話の続きだ。新しい街に出す店の件と、新商品の案を詰めたくてな」
トウマがそう言うと、ドランは軽く顎を引いた。
「なるほど。工場としても、先に方向性が分かるのは助かる」
少し遅れて、リュカも中に入ってきた。
紙束を抱え、すでに頭の中ではいくつか考えがまとまっているらしい。
「新しい街に出すなら、既存の商品だけじゃなくて、“ここでしか買えないもの”を用意したい」
リュカの言葉に、トウマはうなずいた。
「それでだ。まず一つ目の案なんだが……」
トウマは作業台の上に、丸めた紙を広げた。
「汚れを取る石鹸、疲労を取る入浴剤これらの効果を簡易的に再現したものを作りたい」
ドランが眉を上げる。
「今ある石鹸や入浴剤とは違うのか?」
「冒険者向けだ。長時間の戦闘や遠征で溜まった疲労、筋肉痛、軽い魔力消耗までまとめて回復する」
リュカがすぐに反応する。
「宿に泊まれない人向け、ね」
「そう。野営中でも、桶一杯の水があれば使えるようにしたい。足や手だけでも浸かれば効果が出るような」
「石鹸や入浴剤よりも大きく効果は下がるが、できないこともないな……薬草と魔力触媒を少し調整すればいけそうだ」
ドランはそう言いながら、頭の中で配合を組み立てている様子だった。
「私からも一つ」
リュカは少し間を置いてから、案を口にする。
「野営をよくする冒険者向けの保存食があればいいと思って」
「……缶詰とか?」
俺はつぶやく。
リュカが首をかしげる。
「何それ」
「ああ。長期間保存できて、開けたらすぐ食べられる。」
トウマは、自分が元の世界で当たり前のように使っていた知識を、慎重に言葉に変えた。
「肉や豆、野菜を調理して密閉する。魔法で軽く防腐処理すれば、十分実用的だ」
ドランが低く唸る。
「食料か……確かに保存食は不味いからな」
「味のバリエーションを作れるね。塩味、香辛料強め、スープ系とか」
リュカの目が楽しそうに輝く。
「新しい街に出す店の目玉商品として、野営用の石鹸入浴剤、保存食この二つを前面に出したい」
トウマの言葉に、二人は顔を見合わせた。
「悪くないな」
ドランははっきりそう言った。
「工場としても、石鹸や布だけじゃなく、“生活全体を楽にする品”を扱う流れができる」
リュカも深くうなずく。
「新しい街の人たちに、“あの店に行けば便利なものが揃う”って印象を持ってもらえそうです」
トウマは胸の奥で、小さく息をついた。
――スマホに頼らなくても、この世界で、この世界なりのやり方で、ちゃんと商売はできる。
そう確信しながら、彼は次の工程――試作品づくりへと話を進めていくのだった。




