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前世の記憶?厨二ノート?無駄に派手な異世界冒険譚!  作者:
【第6章】竜人の村

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【60話】譲れない誇り

グレイフォルドの拠点に戻った俺は、真っ先にドランを呼んだ。


工房の机に村の状況を書き出しながら、俺は説明する。

濁った水場、簡素な排水溝、洗浄の概念の薄さ。

強靭な肉体を持つはずの竜人が、生活環境のせいで弱っている現状。


「……なるほどな」

腕を組んだドランが、低く唸る。

「病も怪我も、原因は戦ではない。衛生だ」


「だよな」

「石鹸、水の循環、排水の整備。戦力はいらん。必要なのは環境だ」


俺は頷いた。

倒すことじゃない。整えること。

それなら、俺たちができる。


「よし。もう一度、村に行こう」

セラも、リュカも、異論はなかった。


再び訪れた竜の村。

前回よりも、空気は重かった。


村長は、年老いた男だった。

背は低いが、目だけは鋭い。

人の姿でありながら、確かに“竜”の威圧がある。


「人間が、何の用だ」


俺は一歩前に出る。


「手当と、水場の整備をさせてほしい」

「……施しをしに来たか」


空気が冷えた。


「違う」

俺は即座に否定する。

「このままだと、村が持たない。ただそれだけだ」


「余計なお世話だ」

村長の声が低く響く。

「我らは竜人。人よりも強き種族だ」


「でも、今は弱ってる」

俺は引かなかった。

「強いかどうかと、生きられるかどうかは別だ」


村長の目が細まる。


「……人間の基準で、我らを測るな」

「測ってるんじゃない。見てるだけだ」


ざわり、と周囲が騒めく。

竜人たちの視線が、俺に集まる。


「自分たちより弱い種族からの施しなど、受けるつもりはない」

村長は吐き捨てるように言った。

「それは、誇りを捨てることだ」


「誇りで腹は満たせない」

俺の声も、次第に熱を帯びる。

「誇りで病は治らない」


「黙れ!」


村長の魔力が膨れ上がる。

竜の威圧が、周囲を押し潰す。


「若造が……!」

「じゃあ聞く」

俺も一歩踏み込んだ。

「このまま誰か死んだら、それも誇りか?」


一瞬、沈黙が落ちた。


村長の表情が歪む。


「……ならば証明しろ」

「何をだ」


「お前たち人間が、我らに口を出す資格を」


村長は杖を突き立てる。


「決闘だ」

「勝てば、村に手を入れることを許そう」

「負ければ……二度とこの村に関わるな」


竜人たちが息を呑む。


俺は、少しだけ目を伏せ――そして、笑った。


「いいだろう」


闇属性の魔力が、静かに滲む。


「俺が勝ったら、誇りはそのままで生き延びろ」

「それが、俺の条件だ」


村長の口元が、僅かに吊り上がった。


「……面白い」


こうして。

人と竜、誇りと現実。

譲れぬもの同士の決闘が、決まった。


円の中央に立った瞬間、俺は一つだけ深呼吸した。


――使う。

でも、解放はしない。

ノートを全開で使えば、この村ごと終わる。

だから“縁”だけを掴む。

力の入口に、指を掛けるだけだ。


「……来い」


村長が踏み込む。

竜人の身体能力は確かに高い。

正面からまともに力比べをすれば、俺は一瞬で押し潰される。


だから。

戦いになる前に、終わらせる。


闇属性の魔力を、極限まで薄めて全身に巡らせる。

強化じゃない。

補正だ。


世界が、少しだけ遅くなる。


拳が来る。

重い。速い。殺意もある。


――でも、届かない。


半歩。

たったそれだけ横にずれる。

次の瞬間、俺はもう村長の懐にいた。


ノートから剣を抜く。

刃を立てない。

柄で鳩尾を打つ。


「がっ――」


息が詰まる感触。

体がくの字に折れた瞬間、膝裏を払う。

倒れる前に、首元に短剣を添える。

刃先は、皮膚に触れていない。


――三秒も、かかっていない。


「……終わりだ」


静かに告げると、周囲が凍りついた。


村長は膝をついたまま、荒く息をしている。

反撃しようにも、体が言うことを聞いていない。

俺は、そこで初めて魔力を完全に引いた。


――これ以上は、危ない。


「……今の一撃」

村長が、かすれた声で言う。

「本気では……ないな」


「ああ」

俺は剣をノートに戻した。

「本気でやったら、あんたは死んでた」


ざわめきが走る。


驕りじゃない。

事実だ。

ノートの力は、制御を誤れば全てを壊す。


「誇りがあるのは分かる」

俺は、村長を見下ろしたまま続ける。

「でもな、誇りを守るために命を削るのは、強さじゃない」


しばらく、沈黙。


やがて村長は、地面に手をついた。


「……負けだ」


その声には、悔しさよりも疲労が滲んでいた。


「竜である前に……我らは、生きねばならんな」


「手当と水場の整備だけだ」

「村を変えるつもりはない」

そう言うと、背後で誰かが小さく息を呑むのが聞こえた。


――これでいい。


全力を振るわなくても、

俺は、守りたいものを守れる。

そう、証明できたのだから。

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