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前世の記憶?厨二ノート?無駄に派手な異世界冒険譚!  作者:
【第5章】王女と期待

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【53話】本質を見る

工房の机に並べられた紙の中から、俺は一枚を取り上げた。


「贈答用についてだが……」


三人の視線が集まる。


「これは、量は出さない」


リュカが眉を上げた。


「断るの?」


「正確には、“応じない”だ」


俺は紙に指を置く。


「流通量を絞る。品質は、今まで以上に上げる。包装にも力を入れる」


「……プレミア路線、ですわね」


セラがすぐに理解した。


「贈るための商品なら、簡単に手に入っちゃ意味がない」


「王宮相手でも?」


リュカが確認する。


「ああ。大量発注は受けない」


少しの沈黙。


だが、反対の声は上がらなかった。


「製造は――」


俺はドランを見る。


「ドラン、任せたい」


ドランは一瞬だけ目を細め、それから静かに頷いた。


「承知しました。品質のばらつきは出しません」


「数は少ない。だが、一つ一つが“顔”になる」


「理解しています」


その声音には、迷いがなかった。


「贈答用は、“特別な人のための特別な品”ですわ」


セラの言葉に、俺は頷く。


「だからこそ、俺たちが手を抜く理由もない」


量を追わない。

価値を落とさない。

それは、簡単な道じゃない。


だが――


(これでいい)


この一手は、

俺たちの立ち位置を、確実に一段引き上げる。


そう、確信していた。


方針が決まると、拠点の空気が一段落ち着いた。


「では……贈答用は、この拠点でのみ製造。

 数量は限定、品質最優先ですわね」


セラが確認するように言う。


「ああ。

 量は追わない。

 欲しいなら、待ってもらう」


「承知しました」


ドランは既に作業台の前に立っていた。

試作時よりも慎重な手つきで、素材を一つずつ確認している。


「同じものは作れます。ですが――」


「全く同じには、ならない?」


俺が続きを言うと、ドランは頷いた。


「はい。わずかな差は出ます。ですが、それも含めて“一点物”です」


「それでいい」


俺は迷わず答えた。


贈答用だ。

均一である必要はない。

むしろ、“同じものは二つとない”方が価値になる。


「石鹸の量産は今まで通り工場に任せる。拭き布も同じだ」


「通常品は、今まで通り問題なく回せる」


リュカは書類から目を上げずにそう言った。

声に余計な感情はない。

いつも通り、確実だ。


「助かる」


それだけ言うと、リュカは小さく頷いた。


それぞれが、それぞれの持ち場に戻る。

その流れが、もう自然になっていた。


数日後。


王宮からの正式な受領確認とともに、

追加で一通の手紙が届いた。


差出人は、エリシア王女。


内容は短い。


――贈答用について、理解しました。

――量を求めるつもりはありません。

――“価値”を、お願いします。


読み終えて、俺は小さく息を吐いた。


「分かってるな……」


セラが微笑む。


「王女殿下は、本質を見ておられます」


ドランは何も言わず、黙々と次の仕込みを始めていた。


贈答用は、少ない。

だが、その一つ一つが

俺たちの名前そのものになる。


(手は抜けないな)


プレッシャーはある。

だが、不思議と嫌じゃなかった。


(これが――仕事ってやつか)


そう思いながら、

俺もまた作業台に向かう。


王宮に届く品は、

もう“商品”じゃない。


俺たち自身だ。

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