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前世の記憶?厨二ノート?無駄に派手な異世界冒険譚!  作者:
【第5章】王女と期待

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【51話】王女が認めた価値

エリシアが訪ねてきたその夜、俺たちは試作品を使った。


この世界では、基本的に湯に浸かるという習慣がない。

井戸水や桶の水で身体を軽く流し、汚れを落としたらそれで終わりだ。


贅沢品である石鹸も、使えるのは一部の富裕層だけ。

ましてや、湯を張った浴槽など――エリシアのような貴族以外使用していないだろう。


だが。


「……思い切ったな、これ」


拠点の一角。

新しく設えた木製の湯舟を前に、俺は正直な感想を漏らした。


「売上も安定してきましたし」

セラは穏やかに微笑む。

「試作を行うには、環境も大切ですわ」


石鹸と拭き布の売れ行きは好調だ。

工場のほうはドランに任せ、拠点は完全に“作る場所”として整えられていた。


試作の入浴剤を湯に溶かすと、淡い色とほのかな香りが広がる。

初めて張った湯に、少しだけ緊張しながら足を入れた。


「……なんだ、これ」


身体を包む温かさが、じわじわと染み込んでくる。

ただ汚れを落とすだけの水浴びとは、まるで別物だった。


「疲れが……抜けていく」


湯から上がったあと、セラが化粧水を差し出す。


「こちらも、お使いください」


この世界には、化粧水も保湿液も存在しない。

肌は乾くもの、荒れるもの――それが常識だ。


半信半疑で使ってみると、肌にすっと馴染み、違和感が残らない。


「……これ、戻らなくなるな」


「はい」

セラは静かにうなずいた。

「一度知ってしまうと、もう“前の生活”には戻れません」



王女が持ち帰った試作品は、王宮で話題になった。

王宮に湯舟がないわけではない。

むしろ、貴族にとって入浴は日常の一部だ。


だがそれは――

我慢する贅沢だった。


「湯に浸かると、どうしても肌が荒れますから」

侍女の一人がそう言った。


香油を浮かべても、香木を焚いても、

湯はただの湯だ。

身体を温める以上の意味はなかった。

だからこそ、違いが際立った。


エリシア王女が持ち帰った入浴剤を使ったのは、

ほんの出来心だった。


だが。


「……これは」


湯に溶けた瞬間、香りが広がり、

肌にまとわりつく感覚がまるで違う。


「湯が、柔らかい……?」


入浴後、化粧水と保湿液を使った侍女たちがざわつく。


「乾きません」

「赤みが出ない……?」

「翌朝も、同じままです」


湯に浸かること自体は、もう知っている。

だからこそ。


“今までの入浴が未完成だった”

その事実が、王宮の中で静かに広がっていった。


王宮での反応が広がり切った、数日後。

エリシア王女から、正式な使者が訪れた。

場所はグレイフォルドの拠点だ。


「王女殿下より、正式な発注です」


差し出された書面には、はっきりと記されていた。


石鹸。

入浴剤。

化粧水。

保湿液。


数量は――思わず息を呑むほどだ。


「……これは」


リュカが声を失い、セラは静かに背筋を伸ばした。


「石鹸につきましては、工場で対応可能ですわね」


「問題は、それ以外だな」


俺が言うと、使者は頷いた。


「王女殿下も承知の上です。

 入浴剤、化粧水、保湿液については――

 現時点では量産体制が整っていないことを理解した上での発注とのこと」


つまり。


「……俺たちで作れ、ってことか」


その言葉に、ドランが一歩前に出た。


「問題ありません」


淡々とした声音。

だが、その目には覚悟があった。


「試作と同等の品質を維持したまま、可能な限りの数を揃えます」


エリシア王女は、無理を承知で注文してきた。

それでも欲しいと、価値を認めた。


石鹸は工場へ。

それ以外は、この拠点で。


俺とドランは顔を見合わせ、小さく頷く。


「……忙しくなるな」


「はい。ですが――」


セラが微笑んだ。


「ようやく、本当に届く場所へ届いた。

 そういうことでしょう?」


王女からの大量発注。

それは、俺たちの商品が

貴族社会に正式に足を踏み入れた証だった。

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