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前世の記憶?厨二ノート?無駄に派手な異世界冒険譚!  作者:
【第3章】力に手を伸ばす

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【31話】実践訓練・夕刻

午後になり、ダンジョンの空気が少し変わった。


午前中にいた場所より、魔力が濃い。

肌にまとわりつく感覚が、はっきりと分かる。


「ここからが実践です」


セラはいつも通り淡々としているが、

足を止める位置が、午前よりわずかに後ろだった。


――つまり、俺たちが前に出ろ、ということだ。


「……来る」


リュカが低く告げた直後、岩陰からモンスターが姿を現す。

数は多くない。でも動きが速い。


「午前と同じ制限でいきます」

セラの声。


リュカは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに弓を構えた。


一本目の矢が放たれる。直撃ではない。壁を掠め、モンスターの進路をずらす。


「今!」


リュカの合図。


俺は前に出る。午前中に何度も繰り返した動き。


闇を集める。……出力は、低い。

それでも、迷わず放つ。

闇の塊がモンスターを弾き飛ばすが、倒しきれない。


「ちっ……!」


反撃が来る。一瞬、判断が遅れた。

その隙を、リュカが矢で埋める。

急所を外さず、確実に仕留めた。


「今の、遅いわよ!」


「分かってる……!」


息が荒くなる。午前の訓練とは違う。


相手は“待ってくれない”。


次のモンスターが飛び出してきた。

今度は俺が先に動く。


詠唱なし。

出力は……少しだけ、上げる。


胸の奥が、ざわつく。

――まだだ。上げすぎるな。


闇が刃のように走り、モンスターの動きを止める。

完全には倒せない。

でも。


「十分です」

セラがそう言った。


一歩踏み出し、

残った一体を素手で叩き伏せる。

「今の判断は、悪くありません」


リュカが悔しそうに舌打ちする。

「最後、私が外した」


「詰めが甘いですね」


セラはリュカを見て、そう言い――

そのまま、俺を見る。


「トウマ様は、問題ありません。このまま続けましょう」


「……なんでよ」

リュカが小さく呟いた。


俺自身も、少し意外だった。


まだ全然足りない。

出力も、判断も、怖さも残っている。


それでも。

午前中より、確実に体が動いている。


「午後は、これを繰り返します」

セラが言う。


「倒しきれなくても構いません。ですが――逃げないでください」


その言葉が、妙に胸に残った。


逃げない。

それだけで、今の俺には精一杯だ。


それでも。

――午前よりは、前に出られている。

そう思えた。


夕方になると、ダンジョンの中の空気がわずかに冷えた。

戦闘を何度も繰り返したせいで、体のあちこちが重い。

魔力を大きく使ったわけじゃない。

それでも、集中を切らさずに動き続けるのは、思っていた以上に消耗する。


「最後に、一度だけ奥へ行きます」


セラの言葉に、リュカが小さく息を吐いた。

「……やっと、ね」


進んだ先は、午後よりさらに見通しの悪い場所だった。

岩と岩の隙間が多く、動きを読みづらい。

嫌な予感がした瞬間、四方から気配が膨れ上がる。


「来る!」

リュカが叫ぶ。


同時に、複数のモンスターが飛び出してきた。

昨日までの俺たちなら、確実に混乱していた数だ。


でも――

「右、二体!」

リュカの声が、早い。


矢が放たれる。

一本目は壁に当たり、跳ね返って進路を塞ぐ。

二本目が、動きの止まった一体の急所を射抜いた。


残りが、俺に向かってくる。


「俺がやる!」

叫ぶ前に、体が動いていた。


闇を集める。

午前中に覚えた“溜めすぎない”感覚。


出力は低い。でも、狙いは正確だ。


闇が走り、モンスターの脚を断つ。


倒しきれない。

――それでいい。


次の瞬間、リュカの三本目の矢が飛び、動きを止められた個体の喉を貫いた。


一体、残る。


背後から迫る気配。

振り返るより先に、セラが一歩前に出た。

「リュカ様は詰めが甘いですね」

短くそう言って、拳を叩き込む。


重たい音。

モンスターは、そのまま動かなくなった。


一瞬の静寂。


俺とリュカは、顔を見合わせた。


「……今の」


「噛み合ったわね」


はっきり言葉にしたのは、リュカだった。


胸の奥が、少しだけ熱くなる。


セラは、何も言わない。

ただ、少し後ろで腕を組んでいる。


「次は、私が外さない」

リュカがそう言って、弓を握り直す。


俺も、闇の残滓を払って息を整えた。


完璧じゃない。

まだまだ足りない。

それでも。

――戦えている。


昨日までは食らいつくだけで精一杯だったが、今は考えながら動くことが出来る。仲間の動きが少しだけ読める。


「今日は、ここまでにしましょう」

セラの声が、いつもより柔らかかった。

「十分です」


ダンジョンを出ると、外はすっかり夕暮れだった。

疲労は、はっきりと残っている。

それでも、足取りは午前より軽い。


「……明日も、やるわよね」

リュカが前を向いたまま言う。


「ああ」

迷わず、そう答えられた。


――少しずつでいい。

確実に、俺たちは噛み合い始めている。

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