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前世の記憶?厨二ノート?無駄に派手な異世界冒険譚!  作者:
【第3章】力に手を伸ばす

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【30話】一歩だけ前へ

街の門をくぐった瞬間、背中が少しだけ軽くなった気がした。


目的地は決めていない。

宿も、依頼も、今はどうでもいい。


ただ――強くなりたかった。


理由は単純だ。

守られてばかりなのが、嫌だった。


リュカは強い。

セラは、論外なくらい強い。


それは分かっている。

それでも、戦闘のたびに「俺は何もできなかった」と思う瞬間が、確実に増えていた。


「……なあ」


街道を歩きながら、俺は口を開いた。

「俺、もっと強くなりたい」

我ながら、子供みたいな言い方だと思う。


でも、誤魔化したくなかった。


「ノートに頼らず……いや、頼るにしても、ちゃんと自分で扱えるようになりたい」


リュカは何も言わず、少しだけ歩調を緩めた。


セラは、俺の隣に並ぶ。


「理由をお聞かせください」


「……足手まといになりたくない」


しばらく沈黙が続いた。

街のざわめきが遠ざかり、風の音だけになる。


「分かりました」

セラは、淡々と言った。

「ちょうどいい場所があります」


「え?」


「修行に適したダンジョンです」


リュカが振り向く。


「ダンジョンって……いきなり?」


「安全性は確保できます」


即答だった。


「トウマ様の現状に、最適です」


そう言われると、断りづらい。


「……どんなダンジョンなんだ?」


「《灰結晶の回廊》」


聞いたことはある。

街の冒険者たちが、よく話題に出す場所だ。


「自然発生型の中規模ダンジョンです。階層は浅く、構造は単純。訪れる人もほとんどいないので修行にはうってつけの場所です」


セラは歩きながら説明する。

「出現するのは主に小型から中型のモンスター。個体は弱めですが、数が多い」


「初心者殺し、ってやつ?」


「正確には」

セラは首を振る。

「油断した者殺しです」


嫌な言い方をする。


「弱めとは言っても力任せでは突破できません。精度、判断、連携が問われます」


リュカが小さく笑った。


「なるほど。修行向きだね」


「はい」

セラは頷く。


「午前中は基礎確認。午後から実践訓練が可能です」


もう完全に予定を組まれていた。


でも、不思議と不安はなかった。


街を離れた道の先、岩肌に口を開けるダンジョンが見えてくる。


ひんやりとした空気。

中から、確かな気配が漏れていた。


「……行こうか」


俺が言うと、


「ええ」


「うん」


二人が、同時に頷いた。


強くなれるかどうかは、分からない。

それでも。

立ち止まるよりは、ずっといい。


俺たちは、そのままダンジョンへ足を踏み入れた。


ダンジョン中層。

結晶の淡い光が、通路を静かに照らしている。


「今日の午前は、基礎の確認です」


セラが淡々と言った。


「実践訓練は、午後からにしましょう」

 

……助かった。

正直、朝一で全力は心臓に悪い。


「まずは、私が手本をお見せします」


そう言って、セラは壁際に置いてあった弓を手に取った。


「え、弓?」


俺が聞くと、リュカも同じ顔をしている。


「セラ、それ使うの?」


「普段は使いません」


普段は、って何だ。


その間にも、通路の奥からモンスターの群れが現れる。

セラは構えた。

技名の詠唱はない。魔力を使っている感じも、ほとんどしない。


一射目で一体。

二射目で二体目。

三体、四体、五体…と最低限の魔力と動きで次々と倒していった。

当てるために撃っているというより、

当たる場所に矢を置いている感じだった。


最後の一体が逃げようと背を向けた瞬間、セラは壁に向かって矢を放った。

反射した矢が軌道を変え、その背中に突き刺さる。


「……えげつな」

思わず口に出た。


「以上です」

セラは何事もなかったように弓を下ろす。


「次は、リュカ様です」


リュカは一度深呼吸して、弓を取り出した。


「矢は十本ね」


再びモンスター。


一射目、二射目。確実に仕留める。

さすがだ。セラほどじゃないが、無駄がほとんどない。

八体、九体。

最後の一体。


リュカは少しだけ間を置いて、放った。

――外れた。


「っ……!」

矢は肩をかすめただけで、

リュカはすぐに距離を詰めて蹴りで倒した。


戦闘終了。


なのに、リュカの顔は晴れなかった。


「……外した」


「十分じゃない?」

俺が言うと、


「違う」

即答だった。


「セラは、外さなかった」

セラが静かに言う。


「外した理由は、分かりますか?」


「……集中が切れた」


「はい」

それ以上、何も言わない。


視線が、俺に向いた。


「次は、トウマ様です」


正直、身構えた。


「……俺も矢を?」


「いいえ」


セラは指先に淡い光を灯す。


「回復魔法を使用します」


「え?」


「ですので」


まっすぐな視線。


「今日は、存分に力を使いなさい」


リュカが思わず口を挟む。


「それって、代償も含めて?」


「はい」


即答だった。


「ただし、命は保証します」


逃げ道はないらしい。

俺はノートを開いた。


詠唱。剣が、完全な形で現れる。


――重い。


一振りするだけで、体の奥が軋む。


「く……!」


それでも倒れないのは、

背中から流れ込む回復のおかげだ。


「……このままじゃ」


長く持たない。

それが、はっきり分かる。


俺は、詠唱をせずに出力を、限界まで落とす。

剣は、かすかな形だけを残す。


一瞬。

斬る。


モンスターが倒れた。


剣が消える。


胸を押さえる。


「……?」


痛みが、来ない。


「セラ、今……」


「代償は発生していません」


「え?」


「力を“使った”のではありません。触れただけです」


リュカが驚いた顔で俺を見る。

「そんなこと、できるんだ……」


「再現性はありません」


セラははっきり言った。


「偶然です。まだ“使える”段階ではありません」


……でも。


俺は、少しだけ笑った。


「それでもさ」


「はい」


「前より、怖くなくなった」


セラは否定しなかった。


「午前の修行は、ここまでです」


「じゃあ、午後に実践?」


「はい」


そう言って、セラはアイテムボックスから包みを取り出した。


「昼食を用意しています」


「……弁当?」


包みを開くと、美味そうな弁当が出てきた。


「いつ作ったの?」


「朝です」


リュカがため息をつく。


「この人、ダンジョンを何だと思ってるの……」


三人で並んで座り、弁当を食べる。


ダンジョンの中とは思えない、妙に穏やかな時間。


俺は思った。


まだ、完全じゃない。

でも――


触れるところまでは、来た。


午後の実践で、それが通用するかは分からない。


けど。

前より、ちゃんと前を向けている。

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