【21話】互いに見えない背中
数日間は、驚くほど静かに過ぎていった。
朝はリュカと一緒にギルドへ向かい、簡単な依頼を受ける。
薬草の採取、街道沿いの確認、倉庫の整理。
危険は少ない。
けれど、俺にとってはそれでも気が抜けなかった。
初依頼での戦いが、頭から離れない。
(……前に出たのは、リュカだった)
俺は後ろで、何もできなかった。
ノートを使えば、きっと違った。
(でも、それじゃ……)
依頼が終わると、リュカは「先に戻るね」と言ってギルドへ向かう。
俺は別の方向へ歩き出す。
ヴァルドの待つ、街外れの訓練場へ。
リュカは、ギルドを出た後、少しだけ歩調を落とした。
トウマの背中が遠ざかっていく。
いつも、そうだ。
(最近、何してるんだろ)
聞こうと思えば聞ける。
でも、なぜか聞けない。
初依頼のことを思い出す。
小型モンスターが出た瞬間、体が勝手に動いた。
トウマの前に、出ていた。
(……私ばっかり)
倒せた。
でも、それは嬉しさよりも、胸の奥がちくりと痛んだ。
「大丈夫?」って聞いたら、トウマは笑ってた。
いつも通りの顔で。
それが、余計に分からなくなる。
「構えろ」
ヴァルドの声で、意識が戻る。
剣を持ち、立つ。
けれど、すぐに首を振られる。
「力を入れすぎだ」
「魔力を流すな、溜めろ」
振るわせてもらえない日もある。
ただ立つだけ。
(……俺、何やってんだ)
ノートを使えば、もっと簡単なのに。
でも、使わない。
使った瞬間、
「それしかできない自分」になる気がして。
「昨日よりは、マシだ」
3日目、ヴァルドがそう言った。
それだけで、胸の奥が少し軽くなる。
リュカは、エリオの前に立っていた。
「じゃ、もう1回いこっか」
軽い調子なのに、容赦はない。
光を放つと、すぐに指摘が飛ぶ。
「今の、流しすぎ」
「制御が甘い」
全属性に適性がある。
でも、それが万能ってわけじゃない。
(使える、だけ……)
器用貧乏。
そう言われたことを思い出す。
エリオは笑いながら言った。
「全部できるってことはさ、全部“できない”って思われやすいんだよ」
図星だった。
トウマは、きっと悩んでる。
あの人は、そういうタイプだ。
(でも……私も、止まれない)
負けたくない、というより――
並びたい。
夜。宿に戻り、俺はノートを鞄から出す。
ページをめくれば、力がある。
確実な答えがある。
でも、閉じた。
(まだだ)
今は、まだ。
リュカは、窓辺に座って、街の灯りを眺めていた。
トウマの部屋は、静かだ。
たぶん、もう寝ている。
(……ちゃんと、やってるよね)
そう信じたい。
自分だって、必死なんだから。
同じ空の下で、
同じ距離を歩いているはずなのに。
互いの努力は、見えていない。
それでも――
明日は来る。
依頼も、訓練も、終わらない。
並ぶために。
追いつくために。
二人は、今日もそれぞれ前を向いていた。




