【14.5話】幕間/冒険者の性
森から村へ運ばれ、応急手当を受けたあと。
ヴァルドは、重たいまぶたを押し上げた。
「……生きているな」
体を起こそうとして、全身に走る鈍い痛みに思わず息を吐く。
隣では、エリオが情けない声を上げた。
「うわ……体中どこもかしこも痛ぇ…」
「こっぴどくやられたな」
しばらく、二人とも黙ったまま天井を見ていた。
頭に浮かぶのは、あの瞬間だ。
剣を振るった感触。
魔法が直撃した手応え。
――それでも、倒れなかった。
「……なあ」
エリオが、珍しく軽口を抜いた声で言う。
「俺たち、ちゃんと当てたよな?」
「ああ」
ヴァルドは短く答える。
「外してはいない」
「だよな……」
それでも。
「なのにさ」
エリオは、ぽつりと続ける。
「まるで、歯が立たなかった」
その言葉に、ヴァルドは否定しなかった。
攻撃は当たった。
だが、通用しなかった。
削れない。
崩せない。
倒しきるには、まるで足りない。
「……力の差、か」
ヴァルドが低く呟く。
「いや」
エリオは首を振る。
「差ってレベルじゃない気がする」
思い出すだけで、背筋が冷える。
「俺たちが何をしても」
「『まだ足りない』って、突きつけられてる感じだった」
再び、沈黙。
ヴァルドは、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「……あの後だ」
「俺たちが意識を失ったあと、何が起きている」
「誰かが、来た?」
「もしくは……」
自然と、浮かんだ顔があった。
エリオが、天井に視線を向けたまま呟く。
「……あの子たち、無事かな」
「巻き込まれてないといいけど」
「無事でいてほしい」
ヴァルドは、静かに言う。
だが、胸の奥では否定できない。
自分たちが歯が立たなかった相手を、誰かが止めたという事実。
「……おかしいな」
エリオが苦笑する。
「サクッと片付けて、街に戻るつもりだったのになぁ……」
軽い言葉とは裏腹に、
二人の胸には、重たい感触だけが残っていた。
(あれを、どうやって、誰が止めた……?)
その恐怖の奥で、別の感情が小さく芽を出す。
(……どんな戦い方をした?)
(どんな力を、使ったんだ?)
軽口の裏に、誤魔化しきれない本音が滲んでいた。
「はは……正直、怖ぇよあんなバケモン倒せる奴なんか」
「でもさ……ちょっと見てみたい気もするんだよな」
エリオの言葉に、ヴァルドはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと頷く。
「……ああ」
短い返事だったが、迷いはなかった。
「恐ろしい奴がいたものだ」
「だが同時に……興味も湧く」
拳を握り、力を込める。
「俺たちが歯が立たなかった相手を、倒した何者かだ」
「知らずにいられるほど、俺は大人じゃない」
一度、視線を落とし、そして静かに続けた。
「怖いからこそ、確かめたくなる」
エリオが肩をすくめる。
「だよなぁ……」
恐ろしい。
理解できない。
それでも、目を背けられない。
――これが冒険者の性、というやつなのだろう。




