【14話】異変の正体
森の中を進む。倒木や黒焦げの地面は、広範囲に広がっていた。
「おかしいな……聞いていたよりもかなり大きくなってる」
ヴァルドが眉をひそめ、地面のひび割れや焦げ跡を確認する。
リュカも注意深く辺りを見渡す。微かに漂う魔力の気配を察知して、手を少し前に伸ばす。
「……やっぱり、まだ何かいる」
彼女の声が低く響く。
茂みの奥、木々の間に影が揺れる。次の瞬間、地面が盛り上がり、巨大なモンスターが姿を現した。体長は人間の背丈を優に超え、筋肉質の腕と鋭い牙を持つ。目が光り、こちらを鋭く見据えている。
「……こいつが異変の原因か……?」
ヴァルドは静かに詠唱を始める。
「――《剣閃・烈風》!」
剣先に光が宿り、振るうたびに風と光が渦巻く。モンスターの攻撃を先読みし、一切の隙を与えずに反撃する。
エリオもまた詠唱する。
「《ライトアロー・閃光》!」
淡い光の矢が手元から生まれ、瞬く間にモンスター目掛けて飛ぶ。しかし、二人でも攻撃は完全には決まらず、モンスターの爪と尾の連撃に押されていく。
「うっ……」
ヴァルドが一撃を受け、地面に倒れる。
「エリオも……!」
矢を放った瞬間、モンスターの尾が弾き、エリオも地面に倒れた。
俺は胸の奥が締めつけられるのを感じる。二人が苦戦する姿は、自分の無力さを映す鏡のようだった。
だけど……
(俺が、やらなきゃ皆が……!)
胸元のノートを握りしめ、覚悟を決める。
「顕現せよ――」
「闇に抱かれし孤独。世界に拒まれ、なお虚空を裂く我が意志――」
「今ここに示せ。その名を、その姿を、その終焉を――」
「暗黒黒影・終焉剣!!」
またも無駄に派手な演出で、無駄に煌びやか装飾の異様に黒い剣が俺の手元に顕現する。
「漆黒終末断罪・暗黒黒影破壊斬!!」
黒い刃が空間を裂き、逃げ場を失い、追い詰められたモンスターにとどめの一撃を放った。
「……すごい」
リュカが小さく息を吐く。
戦闘後、ノートを閉じようとした、そのとき。
ページの端に、細い文字が滲んでいた。
『※使用回数、要注意』
「……回数?」
次の瞬間、文字は掠れたように消える。
意味は分からない。
だが――
“何度も使う前提じゃない”ことだけは、はっきり伝わってきた。
「あ、大丈夫かな…」
戦闘で肩や頭を打ち、地面に倒れているヴァルドとエリオを確認する。二人は動かず、意識も定かではない。
「生きてる……?よね?」
リュカが小声でつぶやく。
「うん、怪我はあるけど、命に別状はなさそうだ」
俺は短く答え、二人の腕を支えながら立ち上がらせる。
森を慎重に抜ける道すがら、俺が二人を抱えるようにして歩く。リュカも横から支え、互いに声を掛け合いながら、村までの距離をゆっくりと進む。
日が傾き始め、村の屋根や畑が見えてくると、疲れ切った二人を見て村人が小さく息をのむ。だが、俺たちは無事に村の入り口まで戻った。
「ふう……戻ってきたな」
俺は肩越しにヴァルドを見ながら、ほっと息をつく。森を抜け、村の景色が見えてくる。平穏な日常の中、確かな決意と、新たな力が芽吹いた瞬間だった。
――落ちこぼれは、まだ名乗らない。だが、次の戦いに向けて、一歩を踏み出したのだ。




