1-5 冒険者登録
「――冒険者登録をしたい、ということでよろしいでしょうか?」
「うん、よろしく!」
「それでは冒険者活動における規則について説明しますので、同意いただける場合のみ書類にサインをお願いします」
数十分ほどカウンターに並んだ末、サラの冒険者登録に付き合っている俺だった。
冒険者登録の後、俺とサラをパーティとして登録しておきたい。
別にパーティ登録は申請する義務はないのだが、ギルド側も誰がどこのパーティに所属しているのかは知っておきたいようで、登録しておけば便宜を図ってくれることもある。
なので、ひとまずはサラに対する受付嬢の説明を一緒に聞いていた。
「迷宮内にはモンスターが出現します。モンスターは基本、人間に対しては好戦的で、潜る際は命の危険を伴います。すべて自己責任でお願いします」
受付嬢の冷徹な説明に、サラはごくりと息を呑む。
実際、いつの間にか姿を見せなくなった者など俺は何人も知っている。
わざわざ聞いたりはしないけれど……おそらくは、そういうことなのだろう。
「迷宮内において、他の冒険者パーティに攻撃を仕掛ける、他の冒険者パーティの獲物を奪う、などの行為は禁止しています。もしそのような行為が確認された場合は、冒険者資格の剥奪などの処分を下す場合があります。そして当然、殺人など王国法に違反した場合は衛兵に逮捕されることとなるでしょう」
受付嬢はそう言うけれど、迷宮内でのいざこざは証拠が残りにくい。
たとえ怪我をしていても、モンスターに襲われた可能性も大きい。
証言だけでは証拠にならないので名ばかりの規則であり、実際は無法地帯も同然だった。
バレなければ法は機能しないのだ。
「――そして冒険者同士のいざこざについて、当ギルドは一切の責任を持ちません。ですが、ギルドの器物を損壊した場合には弁償していただきます」
規則の説明はだいたい数分で終了した。
冒険者の規則――つまりは、迷宮探索におけるルール、マナー。
初心者はこれをよく知らずにトラブルを起こした者も多いので、最近はギルドの方でしっかりと説明しているらしい。
サラは一度に多くのことを説明された混乱しているのか、目をぐるぐると回している。
「うーん……」
「まあ一度に覚えなくてもいい。俺が迷宮に潜りながらその都度教えてやる」
「本当? それはありがたいな!」
ともあれサラは、契約書にサインする。
ひとまず、これでサラの冒険者登録は完了した。
「よし、これでわたしも冒険者の一員だね」
「そうだな」
「頑張ろう、ロイド!」
「頑張ってくれ」
「すっごい他人事みたいだね!?」
受付嬢はそんな風に騒ぐ俺たちを奇妙な目で見ていた。
いや別に俺は騒いでないが。
「あの……ぶしつけな質問で申し訳ないのですが、もしかして、その新人さんが『勇気あるもの』に加入するということでしょうか?」
「ああ、そういう勘違いをしてたのか。逆だよ」
「逆、ですか?」
「俺が『勇気あるもの』を追放されたんだ。だから俺は、こいつと組むことにした」
「えっ……」
「こいつ呼ばわりはひどいよ! わたしにはサラっていう名前があるんだから」
驚きに目を瞠る受付嬢に、ぷんぷんと怒りを見せるサラ。
「――ま、そういうことだ。俺とこいつをパーティ登録しておいてくれ」
「は……はい」
「よろしくね! 受付のお姉さん!」
サラは笑顔で言う。
まだ数時間しか関わっていないが、本当に騒がしい奴だ。
それが嫌だとは思わないけれど。
……まあ、たったの数時間で次の仕事先が決まる急展開になるとも思わなかった。
ともあれ。
受付嬢は動揺しつつも、パーティ登録の手続きを進めていく。
「パーティ登録をするには、パーティ名を決めていただく必要があるのですが……」
「あ……パーティ名かぁ」
サラに目を向けると、彼女はうーんと難しい顔で首を傾げている。
要は、俺が追放された『勇気あるもの』や、ミレイが所属している『鋼の剣』などのように、パーティ固有の名称が必要だということだ。
「どうしよう……?」
サラは困ったように視線を向けてくる。
……が、俺に聞かれても困る。ネーミングセンスとか皆無だし。
「『超絶美少女サラちゃんと愉快な仲間たち』とかどうだ?」
「嫌だよそんなの!? ……っていうか、美少女じゃないし」
若干顔を赤くしてサラはぶんぶんと首を振る。
これだけの美少女なら言われ慣れていると思うが、意外と初心な反応をするものだ。
「ひとまず保留して、仮登録という形にもできますが、そうしましょうか?」
「あー……じゃ、それで頼む」
この場では決められそうになかったので、ひとまず俺は受付嬢の言葉に頷く。
「パーティ名、考えないとだね」
「まあとりあえずはいいだろ。すぐに解散するかもしれないし」
「そんなことないよ!?」
「結局、迷宮に潜らなけりゃ実力やお互いの相性なんて分からないからな」
「……そっか」
ちょっとしょんぼりとしたサラだったが、直後にむんと奮起する。
「じゃあ、がんばってわたしの力を証明するから!」
どちらかと言えば、サラが俺の力を認めてくれるか否か、という意味だったのだが、どうやら逆の意味で受け取ってしまったらしい。
「じゃあ、今から迷宮に行こうよ!」
「ええ……」
「嫌なの!?」
「もう夜だぞ、迷宮の『夜』は初心者にはお勧めしない」
「どういうこと……?」
サラは純真な瞳で小首を傾げる。
そういえば、外の人間たちは迷宮にも昼と夜があることを知らないのか。
基本的に、夜の方が迷宮内は薄暗く、出現するモンスターは若干変化し、なおかつ好戦的になる。つまりは危険度が高いということだ。
迷宮を構成する物質が昼だと光を発生させる性質を持つが夜は休止するとか、そういった事情で迷宮内の昼夜が構成されていると、どっかの迷宮学者が言っていた。
実際に迷宮へと潜る冒険者からすれば、そうなっているのであればそれに適応するだけであり、その理由までは興味ないけれど。
「へぇー、そうなんだ! 不思議だね」
そんな感じのことを説明すると、サラは興味深そうに頷いていた。
「夜は、冒険者からすれば暗くて危険なだけで旨味が少ないわけだ。基本的にはな」
例外もあるけれど、まだサラには関係ない領域の話だろう。
「お前も実力には自信があるんだろうが、しばらくは昼間の迷宮に慣れた方が良い」
「分かった、ロイドの言う通りにするよ」
「……というかお前、今晩の宿はあるのか?」
「これから探すよ!」
笑顔で言うことではなかった。
迷宮都市の宿は混むので、できれば昼間から予約はしておきたいところだ。
まあ俺も同じ立場なのだけれど。
「仕方ない……宿、探すか」
俺はため息をつきながら、夜の街に繰り出すのだった。




