1-4 新パーティ
「――わたしと、パーティを組まない?」
その言葉を聞いた俺は、思わず吹き出してしまった。
「な、何で笑うの!?」
「いや、支援術師をパーティに誘う奴なんて久しぶりに見たなと思ってよ」
「……確かに、支援術師は不人気職だってことぐらいはわたしも知ってるけど、わたしの目は節穴じゃないつもりだから。あなたが並みの支援術師とは格が違うことぐらい分かる」
「面白い」
俺はニヤリと笑った。
いくら不人気の支援術師とはいえ、俺は仮にも元・勇者パーティ所属の一流冒険者だ。
迷宮下層における貴重な経験を積んでもいるし、中堅クラスの冒険者パーティなら自分から売り込めば何とか加入できるだろうと踏んでいた。
ゆえに、こんな新人どころかまだ冒険者登録すらしていない少女に付き合う理由はない。
理屈で言えばそのはずだが……俺は、この少女に興味を持っていた。
俺の観察眼に狂いがなければ、剣の実力は確か。
遠目に戦いを見るだけで、俺の支援の技術を見抜ける「目」も持っている。
性格は明るく快活で、ムードメーカーとしては最適だ。
そこまで考えて、決断を下した。
「いいぜ。ひとまずお前とパーティを組んでやる。ま、たったの二人だとパーティっていうよりはコンビだけどな」
「本当!?」
「一応言っておくが、ひとまずだぞ。いざ迷宮に潜ったら何の役にも立たない――そんなことになったらパーティは解消するからな」
「大丈夫、わたしは強いから。あなたにもそれを証明したい!」
サラは目を輝かせ、「やたっ!」と小さくガッツポーズをした。
「仲間も、強い人を見つけないと、ね!」
サラのこの自信はどこから湧いてくるんだろうか……。
ともあれ、俺とサラは冒険者パーティを組み、活動を始めることになるのだった。
◇
迷宮都市マルグスリアは、地下迷宮マルグスリアの入り口を、円形に覆うような形状で造られた都市だ。
つまり、迷宮の入り口を中心に街が広がっている。
迷宮の入り口部分は、蓋を塞ぐように巨大な建物が造られていて、これこそが冒険者たちを統括する組織――冒険者ギルドの総本山だった。
俺たちは日が傾いた夕方から、冒険者ギルドに向かっていた。
俺はさっきまで冒険者ギルドにいたので来た道を戻っていることになるが、それはまあ仕方ない。
サラに会えただけで良しとすることにしよう。
「すっごい大きいね……」
冒険者ギルドを見て、ほうと息を吐くサラ。
この建物を初めて見た者は、誰でも同じような反応をする。
「冒険者登録したいんだろ。さっさと入るぞ」
「うん!」
時刻は夕方なので、すでに迷宮から帰還しているパーティも多かった。
これから打ち上げにでも行くのか、高いテンションで騒いでいる冒険者の様子なども見て取れる。
がやがやとした騒がしい喧騒の中でも、サラはひときわ目立っていた。
見たことのない可憐な容姿の少女は人目を集め、隣を歩く俺にも自然と視線が集まる。
「可愛いじゃん」
「ロイドの新しい寄生先か?」
「というか誰だあの子、見たことないけど」
「新人じゃねえの?」
「ああ、そういや『勇気あるもの』追放されたんだっけ。元一流の冒険者がド新人と組むことになってるのか? そりゃまた、落ちぶれたもんだな」
好き勝手に噂話をされているが、おおむね間違ってはいない。
サラは若干ムカついているのか、ちょっと顔が険しくなっている。
「……何も言い返さないの?」
「言い返すも何も、ただの事実だろ」
「ふーん」
「不満そうだな」
「ああやって好き勝手な憶測を聞こえるように話してくるの、わたしは好きじゃない」
俺だって別に好きではない。
なので、サラがそうやって怒ってくれるだけで十分だった。
「さっさと入るぞ」
「うん。そうだよね」
若干テンションが落ちていたけれど、俺とサラはギルド内に入っていく。
冒険者ギルド内は途轍もなく広いが、その広間には大量の冒険者で溢れていた。
「うわ……すっごい人だね」
「今は一番混む時間帯だからな。もうちょっと遅くても良かったか」
混雑を避けるようにして、俺は隅っこの壁に背を預ける。
「あの巨大な通路の向こうに迷宮の入り口がある。まあ、冒険者のライセンスがないと入れないけどな」
「通路には見えないんだね……」
人の出入りが激しいから、通路が狭いと不便なのだ。
ゆえに冒険者ギルドは一般的な建物とは異なり、かなり特殊な構造をしている。
「おい、見ろよ……」
そこで迷宮へと繋がる通路の方から、どよめきが耳に届く。
「なんだろう?」
サラがきょとんと首を傾げ、俺もそちらに目を向ける。
「あ、あれ……!」
そこには、一流冒険者パーティ『勇気あるもの』の姿があった。
彼らの周囲を自然と人が避けていき、受付嬢のいるカウンターまで真っ直ぐに向かう。
「戻ったぞ」
端的に告げたのは黒髪に黒い瞳、片目を黒い眼帯で覆う隻眼の青年。
――パーティリーダーである《勇者》レックス。
「今回は、いつもより苦労したかもしれないね」
気障な立ち居振る舞いをしているのは、優雅な雰囲気を持つ金髪碧眼の美青年。
――線の細い体格とは裏腹に盾役として優秀な《盾剣士》ディートリヒ。
「……やっぱり、ロイドさんがいないから」
落ち込んだように呟いたのは、どこか神秘的な雰囲気を携える金髪碧眼の美少女。
異様なまでの魔力量を宿しているパーティの回復担当《僧侶》イリス。
「あんな奴の話はするなって言ったでしょ」
厳しい口調でイリスを一括するのは少し背の低い赤髪ポニーテールの少女。
多彩な攻撃魔法が特徴的な、魔法学園を首席で卒業した天才《魔法使い》エル。
「……」
沈黙を貫いているのは、身軽そうな衣装を身に纏った痩せぎすの男性。
パーティでは最年長であり、サブリーダーの役割も果たしている《盗賊》アルダス。
一流パーティの帰還。
ギルド内の冒険者たちは、彼らが放つ独特な雰囲気に呑まれている。
隣で、サラもごくりと息を呑んだ。
実力の違いを、肌で感じているのだろう。
いくらサラが強いと言っても、迷宮の下層に潜れる連中は文字通り次元が違う。
「二年前は……あんな雰囲気を放つ人たちじゃなかった……よね」
「そうだな」
あの頃は俺のワンマンパーティだったと言っても過言ではない。
レックスを含め、俺の支援がなければ迷宮の中層ですらまともに戦えなかった。
だが、今は違う。
もはや俺の支援がなくとも、屈強な下層のモンスターと渡り合う力を身に着けている。
「たった二年で……ここまで」
俺がパーティを追放されたのも、支援術師という職業の性質そのものに関係している。
支援というからには仲間にバフをかけるわけだが、支援術式には『対象人物が内に秘めている才能を引き出す』ような効果の能力が少なくない。
つまりありていに言えば、彼らが成長していくほどに俺の存在価値が薄くなるのだ。
もちろん支援の能力はそれだけではなく、俺はもっと多彩なやり方を持っているけれど。
連中が俺を不要と判断したのなら、残念ではあるがまあ仕方ない。
「わたしも……強くなりたいな」
サラは、一流を目の当たりにして心が折れるどころか、むしろ奮起していた。
良いメンタルをしている。
レックスたちがカウンターでの手続きを終えたのか、冒険者ギルドを出ていく。
隅の方にいる俺には多分気づいていないと思っていたけれど。
出ていく直前。
レックスと目があったような気がしたのは、多分気のせいではないのだろう。




