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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第八章
144/208

亡霊狂騒劇_伍

 肩を並べ、いざ巨大パンプキンヘッドに飛びかかろうとした辰道とタツミ。

 しかしその瞬間、お互いの視界がぶれて立ち眩みのような状態になってしまう。

 

「ぐっ!? なんだ、今のは!?」

 

 即座に立て直し、周囲に視線を巡らせる。

 バットステータスをもたらす魔法や呪いでも使われたかと警戒しての事だが、それよりも先に『辰道』は自身の身体に起こった変化にぎょっとした。

 

「タツミの装備!?」

 

 そう彼の姿はつい一瞬前で隣にいたはずの『タツミ』の鎧を着込んだ状態になっていた。

 さらに当人であるタツミの姿がいつの間にか消えている事に気付き、辰道は混乱する。

 

「タツミ!? どこに行った!?」

 

 目を白黒させながら半身の名を呼ぶ辰道だったが、そんな彼を諫めるように冷静な声が彼の内側からかかる。

 

『(俺は大丈夫だから落ち着け)』

 

 頭に直接響くその声が半身の物であるとわかり、彼は瞬時に心を落ち着かせる事が出来た。

 

「(これはあれか? 俺とお前があちらで最初になった状態に戻ったって事か? 意思疎通が出来るようになっている分、レベルアップしていると言えるが……)」

『(たぶん、そういう事なんだろうな)』

 

 二人が思い出すのは2つの世界を意図せず移動するようになった最初の頃。

 この不可思議な事象に見舞われた頃、タツミは意識がありながらも自身の身体を使う辰道にそれを伝える事が出来なかった。

 どれほど呼びかけてもその声は辰道に届く事はなかったのだ。

 その頃と同じように今は2人で一つの身体を使用している。

 

「(人手は減ったが……だがなんとなくわかる。今の方が力を十全に扱えるって事が!)」

『(ああ、負ける気がしないぜ。今の俺たちなら!)』

 

 彼らの混乱に乗じる形で振り返って大口を開けていたパンプキンヘッドに腰に佩いていた刀を抜き放つ。

 白刃が閃き、壊された施設に降り注いでいた太陽光を反射した。

 一瞬後には刀あ元通りに鞘に収められる。

 

 そして鞘と柄が軽い音と同時に。

 目の前の巨大なカボチャ頭は斜めに両断され、半分に分かたれた上半分が重力に従って地面へとずり落ちた。

 どすんという巨大質量が落下するにふさわしい重低音が周囲に響き渡る。

 

「良し」

 

 実にあっさりとした巨大な魔物の最期であった。

 

 

 同時刻。

 遊園地内にいる敵を掃討して回っていた健志は待ち合わせの目印に使われているだろうランド中央の噴水広場にいた。

 狼の周囲には吸血鬼や狼男、ミイラ男やジャックランタンが倒れ伏している。

 この広場には多くの人が集まってきており、彼らのほとんどがその顔に恐怖の感情を貼り付けて目の前で化け物を刈り尽くした得体の知れない動物を見つめている。

 

 彼はそんな彼らの不躾な視線を『当然の物』として受け流していた。

 

「(敵か味方かわからない、しかし自分たちではとても敵わない存在など怖がって当然だろう)」

 

 達観したように僅かに笑い、彼はここからでも見える巨大なパンプキンヘッドに視線を向けた。

 すると遠目でもわかるほどに巨大なカボチャ頭が両断された姿を目撃する。

 

 「(……どうやら彼らがやってくれたようだ)」

 

 人の領域を軽々と凌駕する攻撃は、彼にタツミのことを想起させるには十分だった。

 改めて周囲を見回すと、倒れていた化け物たちの姿が朧げな光の粒子へと変わって消えていく。

 

「(どうやらあの巨大かぼちゃを倒したことで雑魚は消えていくようだ。あとは……)」

 

 見上げる先にはこの遊園地のシンボルである巨大な城のすぐ傍に浮かび上がる『塔』があった。

 

「(未だ健在か。辰道君たちの話では中から出てきた化け物を倒せば消えると聞いていたが……これはつまりまだ何かいるということか)」

 

 獣としての卓越した感覚をごく自然に駆使して、注意深く周囲の気配を探る。

 怯えていた者たちはまるで自分たちを品定めでもするかのように見回す獣の姿に喉を引きつらせて悲鳴を上げた。

 

「(……この辺りにはそれらしい者はいない、か? となれば考えられるのは『これから現れる』可能性だが……)」

 

 健司の推測を裏付けるように、塔の瘴気がまるで鼓動するように蠢き出した。

 彼は迷わず塔目がけて駆け出す。

 上がる悲鳴を無視して向かうその道中で、鎧兜を着込んだ男と合流することができた。

 

「タツミ君。そちらは大丈夫だったかね?」

「ええ、こちらは問題ないですよ」

 

 横並びになって塔に向かう2人。

 その間のわずかなやり取りから健司は隣の鎧武者が思った人物ではないことに気づいた。

 

「? 辰道君、かね?」

「ええ、どうやら今の俺たちは1つの身体に2つの魂が入った上で俺が主導権を握っている状態のようです。人手は減りましたが、なぜか今までにないくらいに力が出ていますので、一先ず事態の収拾を優先しましょう」

「君たちがそれでいいなら……わかったよ」

 

 短いやり取りの間にもぐんぐんと塔に迫る。

 2人は尚も加速し、開け放たれていた鉄扉の奥を目指した。

 瘴気が噴出している門は彼らの侵入を拒むようにも見えるが、彼は門の正面まで来るとその手に火縄銃を呼び出し構える。

 

「さっきは遠くだったが……この至近距離で、それも全力で撃ち込んだらどうだっ!!!」

 

 辰道は間髪入れずに引き金を引いた。

 放たれた白光が今までよりもさらに強い力をもって行く手を阻むようにすら見える瘴気を蹂躙し、塔の内部に着弾する。

 轟音と共に土煙が塔の中から外へと勢いよく噴き出す。

 攻撃の衝撃で吹き飛ばされそうになる身体を、健司は自ら地に伏せてやり過ごした。

 

「……駄目か」

 

 土煙が晴れた場所にはより強く瘴気を噴き出し始めた塔。

 内部は瘴気によって隠され、窺う事は出来ないがその外観には傷一つ付いていない。

 

「驚いたな。見た目に反してずいぶんと頑丈に出来ている」

「少し前はボロボロの外観だったはずなんですけどね。……っ!?」

 

 第二射を放とうと火縄銃を構えようとした辰道に向かって、塔の鉄扉の中から何かが飛び出してきた。

 それは火縄銃の銃口を左手で鷲掴みし、力任せに銃身を上へと反らす。

 出現した『それ』の右手は辰道の兜を掴もうとする。

 

「ちぃっ!!」

 

 しかし迫ってきた腕は辰道の右手によって弾かれる。

 同時に彼は手元にあった火縄銃をどこともしれない空間にコマンドを使用して仕舞い込む。

 

「そこまでだっ!!」

 

 さらに健志による体当たりを受けた何者かはたまらず中空へ舞い上がり、2人から距離を取った。

 

「鳥の頭に人間の四肢。背中には翼。鴉天狗……に近いか?」

 

 黒い羽根を羽ばたかせながら、彼らを見下ろす猛禽の瞳。

 瘴気によって澱んだその瞳はまっすぐに彼らを見据えている。

 

「今までのハロウィン的な雑魚とはずいぶん毛色が違いますね。と言っても相手がなんであれこちらがやることは変わらないんですけど」

「……いつまでも時間はかけられまい。騒がれると身動きが取れなくなるかもしれないのだからな」

「ええ。もちろん心得てますよ。はぐれた友人たちも捜さないと行けませんし、保護している子達も心配なので即終わらせます」

 

 自身を軽々しく倒すなどと言われた事に苛立ったのか、鳥人は甲高い奇声を上げて急降下し、彼らに猛然と襲いかかった。

 

「それでいい。俺を狙ってこい」

『(そうでなくちゃ挑発した意味がねぇからな)』

「(ああ。避難した人やらを無差別に狙われるわけにはいかない)」

 

 ただでさえ訳もわからず襲われ、ショックを受けているだろうテーマパークに遊びに来た人間達。

 彼らをこれ以上、危険な目に合わせないために辰道は目の前の強敵と思しき相手の意識が自身に集中するよう誘導していた。

 

 彼らの思惑通りに敵意を露わに振り下ろされる鳥人の鋭い一撃。

 猛禽類の獲物を掴み捕らえる事に特化した爪が風を切り裂きながら迫った。

 しかし辰道はその一撃を鎧の手甲で軽々と受け止め、逆の手で拳を振るう。

 下から振り上げられるアッパーは烏の鳥人は急上昇することで回避。

 勢いそのままに上空高く逃れようとした鳥人だが。

 

「がぁっ!!」

 

 その足に白狼が齧り付いた事で行動を阻害されてしまった。

 想定外の重量がかかった事で捕まる物など何も無い空中にいる鳥人の身体ががくりと傾き、辰道たちにとってとてつもなく大きな隙が生じる。

 

「せいっ!」

 

 外した拳を素早く引き戻し、腰の刀を引き抜く。

 その一撃は狙いを過たず、鳥人の無防備な脇腹を薙ぎ払う。

 しかし彼の手に届いたのは肉を骨ごと切断した手応えではなく、硬いような柔らかいような奇妙な感触のみだった。

 見れば鳥人の身体からあふれ出た瘴気が彼の刀を受け止め、その刃は宿主の身体に僅かに届いていない。

 

「「ちっ!!」」

 

 辰道たちと健志は同時に舌打ちすると鳥人から距離を取る。

 同時に鳥人の身体に纏わり付くように瘴気が集まり始めた。

 塔の出入り口から噴出する瘴気をも取り込み、鳥人のスレンダーな男性のシルエットが膨張し始める。

 

「そう簡単にはいかないか」

『(いつもの事だろう。ここからだ)』

「(ああ、そうだな。……ここからだ)」

 

 刀を右手に握り肩に担ぐように構えて、辰道は肥大化する敵を見据えた。

 

「話には聞いていたがこれほど厄介な物とはな(瘴気に取り込まれて暴走するだけでこれほどとは。これはますます早くあの男を見つけどうにかしなければ……)」

 

 対して健志が考えることは己と愛犬を殺し、孫娘を長く昏睡状態にした元凶である男の邪悪な笑み。

 その手から漏れ出ていた瘴気を、いや操ることすら可能にしたあの男その物をどうにかするべきだと強く意識していた。

 

「(もう二度とあの子を傷つけさせん)」

 

 新たに決意した白狼は、眼前の彼にとっては前座と言える敵の巨大な姿を見つめ、四肢に力を込めた。

 

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