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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第八章
143/208

亡霊狂騒劇_肆

「テェイヤァッ!!」

 

 辰道によって中空へと投げられた拓真の姿をしたキルシェット。

 彼は投擲された勢いを利用し、氣を纏ったドライバーを振るう。

 浮遊していたジャックランタンのカボチャ頭が何の抵抗もなく真っ二つになり、抱えられていた明美が放り出される。

 

「明美!」

 

 その手を空いている左手で握りしめ、空中で抱き寄せる。

 同時にドライバーを一振りし、豊子を羽交い締めにしていた女の幽霊の両腕を切り捨てた。

 

「うっわ……」

 

 一瞬の浮遊感に豊子の喉が思わず引きつった悲鳴を漏らすが、落下よりも早くドライバーを捨てたキルシェットの腕に抱え込まれる。

 そして拓真は二人の人間という重いはずの荷物を軽々と抱え込みながら、放物線を描いて落下する。

 

「っと!」

 

 7、8m上空からの落下だ。

 普通はその程度の対処では衝撃を殺しきる事は出来ないだろう。

 しかし氣での肉体活性と『キルシェットとしての戦いの経験』により、今の彼ならば着地の際に膝を折り曲げてうまく衝撃を殺すだけで何の後遺症もなく着地する事が出来た。

 

「明美! と、えっと確か辰道さんと一緒にいた……」

「ふ、深森だ。とりあえず少年、下ろしてくれ」

「は、はい」

 

 上下に激しく揺さぶられ、頭がくらくらしている豊子はキルシェットに下ろしてもらうとその場に力なく座り込んでしまう。

 明美は高所からの自由落下の恐怖に耐えきれなかったのか、気を失っているようで彼の腕の中で苦しげに呻いていた。

 

「うわっ!?」

「この風、さっきよりずっと強くなってっ!?」

 

 風の向かう先を見ればさらに大口を開けた巨大パンプキンヘッドが手当たり次第に吸引を行っていた。

 どうやっているのか周囲を少しずつ見回すようにその巨顔を動かしている。

 

 周囲を見回せば迷路施設の瓦礫や、同類のはずの幽霊やジャックランタンまでもがその巨大な口に為す術なく吸い込まれている。

 その口の奥がどうなっているかはわからないが、飲み込まれればただでは済まないだろう事は誰にでも予想できた。

 

「タツミさんは?」

 

 キルシェットを放り投げた後、巨大パンプキンヘッドと対峙していたはずの辰道の姿が彼の視界が届く範囲には見られない。

 『まさか既に飲み込まれてしまったのか?』と彼は不安に思ったが、それは聞こえた音によって杞憂であるとすぐにわかった。

 

「うぉおおおおおおおあああああっ!!!」

 

 カボチャ頭の後頭部側から聞こえる聞き覚えのある怒声と続く打撃音。

 僅かに浮かび上がるカボチャ頭の様子にキルシェットは辰道が無事である事を確信する。

 そう辰道はこの巨大カボチャを倒すために攻撃を開始していた。

 

 すぐに援護に向かおうとする拓真の前には行く手を遮るように狼男や蛇の下半身を持つ女性型の魔物であるラミアが現れる。

 

「どいてください!」

 

 ドライバーに氣を通しながらキルシェットは目の前の敵に斬りかかった。

 

 

 

「(あの吸い込みの安全地帯は……今のところ背後に回り込むくらいしかない!)」

 

 拓真を放り投げた後、敵の吸引を踏ん張って堪えていた辰道はわかっている情報から次の行動を即時に決断する。

 その場から駆け出しながらさらに考える。

 

「(幸いな事にカボチャ頭が建物を壊してくれたお陰で回り込む上で障害になるような物はない。今の俺の身体能力ならいける)」

 

 彼の身体は、今やあちらの世界でのタツミと比べても何の遜色もないほどの身体能力を発揮していた。

 それは常人から見ればまさに目にも止まらない速度。

 巨大カボチャは見えているかもわからないが確かに存在する視界から辰道の姿を見失ってしまう。

 

「うぉおおおおおおおあああああっ!!!」

 

 右手に氣を集め、パンプキンヘッドの無防備な後頭部に叩き込む。

 しかし僅かに浮き上がるだけでその一撃が堪えた様子は見られなかった。

 

「ちっ、図体がでかいからか、やたら硬い……なっ!」

 

 同じ位置に二撃目を放つもカボチャの皮に罅すら入らず、効果が出ているようには見えない。

 そして外からの刺激がうっとうしくなったのか、パンプキンヘッドは吸引をやめると今度はその口から先ほどまで周囲をうろついていたジャックランタンを吐き出し始めた。

 それら全てが辰道を狙って動き出す。

 

 砂糖に群がる蟻のように、自身に向かってくる数えるのもばからしい数のパンプキンヘッド。

 浮遊しながら迫るそれらが一斉に鎌を振り上げる様は異様だ。

 しかし僅かに感じる恐怖を辰道は深呼吸一つで押し殺し、両拳を握りこんで構える。

 

「邪魔を、するなぁっ!!」

 

 叫び一番最初に近付いてきた敵を殴り飛ばす。

 倒れ込み幻のように消えていく敵を確認する間もなく、襲いかかる鎌を避ける。

 

「くそ、倒しても倒しても切りがないか」

 

 毒づきながらの彼の言葉通り、倒した端から増えていく敵に辰道は追い込まれつつあった。

 前後左右に加えて頭上までもを浮かんだジャックランタンに取り囲まれてしまう。

 何より厄介なのは敵は味方である同族の存在などまるで無い物として扱い、自身の攻撃に巻き込む事を躊躇わない事だ。

 一匹目を相手取るその後ろから諸共に斬り捨てようとしてくるのだ。

 

「(厄介過ぎるぞ)」

 

 一体一体ならば対処できない事は無い。

 だがしかし次々と襲いかかってくる敵全てに一人で対処するのは不可能だった。

 

 鎌の攻撃を避けきる事が出来ずに、彼の身体には幾つもの切り傷が出来ている。

 それでも出来ている傷がすべて掠めた程度である事が奇跡と言えた。

 しかし彼の力を持ってしても長くは持たず。

 両手両足を捨て身で飛びかかってきたジャックランタン数体に押さえ込まれ、磔のように身動きを封じられてしまう。

 

「はぁなぁせぇっ!!!」

 

 全身に力を入れて押さえ込みを振り払おうとするが、だめ押しとばかりに足下から生えてきた複数の腕の地面に引き倒そうとする力に拮抗するのだけで精一杯だった。

 

「くっそ……」

 

 引き剥がすことが出来ずにいる彼の正面でジャックランタンの鎌が振り上げられる。

 絶体絶命の状況。

 だがそれが振り下ろされる瞬間も、彼は迫り来る死から目を反らすことは無く、この状況を打開する手段を考え続けていた。

 

 その諦めない意思が通じたのか。

 目の前にいたジャックランタンは周囲を囲む敵諸共、横合いから放たれた白光に飲み込まれていった。

 

 それを行ったのが誰か、なんてことは辰道にとって気にするに値する問題では無い。

 なぜなら彼にはそれが誰か確認するまでもなく理解できたからだ。

 

「辰道!」

「タツミ!」

 

 自身の名を呼んだ誰かに応えた瞬間、彼の視界で白刃が閃く。

 同時に彼の両手両足を押さえ込んでいた力が消え失せ、身体の自由を取り戻した。

 全ての敵をタツミがその刀で斬り伏せたのだ。

 

「こいつを倒せば状況は変わるか?」

「さあな。だがこいつは放っておくと雑魚を増殖させる。先に片付けないと面倒だ」

「そうか。なら行くぞ」

「ああ、行くぞ」

 

 多くを語らず、しかし自然とわかりあった二人は肩を並べて目の前の巨大パンプキンヘッドを睨み付けた。

 

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