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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
127/208

竜の思惑

「(やれやれ、いきなり片目を潰されたか。こちらから頼んだ事とはいえ容赦ないねぇ)」

 

 タツミたちの攻撃を『あえて』受けながら、ミストレインは次にどうするかと考え出す。

 彼女の視界では3人が乗っていた式神からキルシェット、トラノスケが飛び降りてタツミと合流する姿が見えていた。

 

「(ここまでは概ね順調。もう少し力を強くしても問題は無さそうだし、そろそろ本格的に動こうかねぇ)」

 

 竜の四肢に力が篭もる。

 瘴気に侵されたが故に、普段通りに動かせるとは言い難い。

 だがそれでも翼のはためきは突風を生み出し、大地を撫でるだけであらゆる物を吹き飛ばさんとしていた。

 

「ギャァアアアアアッ!! (最終的に私が殺されるという結末を変えるつもりはない。……だが未知の存在に取り憑かれるなどという稀有な経験だ。せいぜい堪能させてもらってから死ぬとしよう。そちらからしたら迷惑な話だろうが……私の最期の晴れ舞台に付き合ってもらおう、タツミとその仲間たち)」

 

 己の心中を、彼らが聞いたら激怒するだろう思考を表に出す事無くミストレインは言語を解さない獣の演技をする。

 言葉に意味の分かる回答を返さぬようにしつつ、彼らを迎え撃つつもりなのだ。

 

「(その代わり、君たちの糧になるようにせいぜい難敵として立ちはだかってあげよう)」

 

 本人たちが聞いたらいらん世話だと口を揃えて言うだろう自分勝手な思いである。

 そんなはた迷惑な決意を胸にミストレインは空高く舞い上がり、地上から自身を見上げる者たちを見下ろす。

 

 彼女は上位の竜特有の体内魔力器官から魔力を放出。

 口内へと集めたソレを大口を開けた体勢で眼下目掛けて放った。

 

「カァッ!!」

 

 放出された魔力光線は、先に雲を切り裂いて魔物の群れを蹂躙し、放った余波で雪崩を引き起こした一撃である。

 ターゲットのみならず周辺すらも丸ごと焼き払うだろう強大な攻撃だ。

 しかしその一撃は彼らを直撃する事はなく、地面に山を貫通する大穴を空けるだけで終わった。

 直撃を受ける事無く、それぞれに回避と受身を取る事が出来た彼らには傷一つ無い。

 

「(だが脅しにはなっただろう。さぁ防御など無意味だろう一撃を見てどう思う?)」

 

 ミストレインは宙に浮かんだまま、その驚異的な視力でタツミたちの様子を窺う。

 彼らは直撃すれば骨も残さず消滅させかねない一撃を見ても、誰一人として戦意を喪失していなかった。

 あの中では最も実戦経験に乏しいだろう獣人の少年すらも、武器に力を込めて引かずにミストレインを睨みつけている。

 

「(くく、怖気付く者が1人もいないとは。いやはやまったく……どこまでも最期の相手に相応しい。実にありがたい話だ。『餞別』はきっちり考えなくてはな)」

 

 僅かに口元を綻ばせ、そして今度は先の倍の魔力球を自身の周囲に形成する。

 

「(さぁどうする。左の視界を奪ったところでこのままではごり押しで潰されてしまうぞ?)」

 

 彼らが次に何をしてくるのかを楽しみにしながら、天候を司る竜は1000を越える魔力球を彼らに向けて放ち、同時にその巨体を急降下させる。

 

 高速で迫る魔力弾に気を取られれば、突撃してきた巨体に潰されてしまうだろう。

 

「ガァアアアアアアッ! (さぁどうする?)」

 

 タツミが火縄銃『鬼殺し』を構え、間髪入れずに引き金を引く。

 銃口から放たれたのは彼の魔力が限界まで込められた光線だ。

 目前の魔力弾を薙ぎ払うように振るわれた銃によって横一文字に光線が拡がる。

 

 魔力弾の大部分がその光線に飲み込まれて消滅。

 さらに横薙ぎの光線は突撃するミストレインへも直撃する。

 

「グルァアアッ!! (なかなかだが、効かん!)」

 

 光線の直撃を意に介さず、僅かに急降下する速度を落としながらも竜はそのまま彼ら目掛けて突っ込んだ。

 巨体と地面がぶつかり合い轟音を発てる。

 

「(全員、逃れたか。1人は紙の鳥で上空へ。あと3人は……1人は後ろかっ!!)」

 

 敵対者の気配を探り、背後にいた誰かに向けて尻尾を振るう。

 振るわれた尻尾は地面すれすれを薙ぎ払い、目標諸共に地面を削り取った。

 

「(跳んで避けたか。私の尻尾は相当に大きいのだが、よくやるものだねぇ。おお、取り付いたか)」

 

 尻尾を駆け上がるキルシェットの気配に楽しげに笑う。

 

「(しかしあとの2人はどこに行った?)」

 

 尻尾を無茶苦茶に動かし、キルシェットを振り落としながらミストレインは周囲を探る。

 

「(上空にいる娘に動きがないのも気になるが……真下かっ!?)」

 

 足元に出現した気配に彼女は思わず首を後ろに逸らす。

 顎があった場所を刃物が通り過ぎるのは先ほども投擲されたクナイだった。

 ただし今度のクナイには導火線に火をつけられた爆弾が括りつけられており、それは竜の顔の目の前で爆発する。

 

「(ぬぅっ!?)」

 

 爆発と同時に竜の視界を真っ白な閃光が焼いた。

 殺傷力のある爆発ではなく、閃光による目晦ましだったのだ。

 

「隙有りだぞ、ミストレイン!」

 

 雄々しい声と共に、ミストレインの首と胴体の付け根に鈍痛が走る。

 タツミが全長20mの彼女の胴体目掛けて跳び、刀で斬り付けたのだ。

 

「ッ!? (今のはタツミの攻撃か!? だが翼を持たない人間の跳躍など狙ってくれと言っているようなものっ!!)」

 

 視界を潰されたとはいえ攻撃された上に今もすぐ傍にいる気配を探知する事は容易い。

 即座に形成した魔力球が中空で自由落下を始めたタツミに殺到する。

 

 だがしかし、そんなタツミを横合いから鳥型の式神が掻っ攫っていった。

 同時にその背にいるオイチは手の中のお札を握り締めて何事かを唱える。

 瞬時に式神を覆い尽くすように球状の結界が張られた。

 半透明のソレに魔力球が降り注ぐが、結界はびくともせず中にいる式神やその背に乗る者たちには衝撃すらまったく通らない。

 

「(ほう、大した守りだ。ならばこれはどうだ!)」

 

 遠ざかろうとする式神目掛けて振るわれる竜の右腕。

 オイチは別の札を迫り来る腕目掛けて投げ放つ。

 札は振るわれる右腕に張り付くと右腕その物を巨大な氷塊に閉じ込めた。

 

「ギィッ!! (ぐっ! これはまた奇異な魔法だ。実に興味深い)」

 

 指一本動かせなくなった右腕が氷塊の重さによってだらりと垂れ下がる。

 そこに式神の背から跳んだタツミが迫った。

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

 頭上に振り上げたタツミの刀。

 その刀身から光が迸り、同時に彼は頭の中で防御無視のコマンドスキル『一刀両断』を使用する。

 

 その一撃の脅威をミストレインは本能的に察知し、大きく後退して回避しようとしたが、それは叶わなかった。

 

「(なにっ!?)」

 

 足元を見やれば地面が盛り上がって竜の足を地面に縫い付けられていた。

 その一手を放ったと思われるキルシェットとトラノスケがまたしても前足を登ろうとしている姿が見える。

 そして身体を釘付けにされて動かす事が出来なくなったミストレインは、タツミの斬撃を凍りついた右腕で受ける事になる。

 

「もらうぞ、右腕ッ!!」

 

 振り下ろされた刃は、その言葉通りに氷塊ごと彼女の右腕の肘から先を切り捨てた。

 

「ギィアアアアアアアアッ!!! (ふはは、油断したつもりはなかったが。……大したものだ、本当に!!)」

 

 獣らしく痛みに悶えるような声を上げ、しかしその内心では自身を傷つけた者たちを賛美した。

 

「(ではもう少しやる気を出すとしよう。……もう少し『時間が欲しい』のでな)」

 

 彼女の右目が蒼く輝く。

 同時に急速な勢いで天候が変化し始めた。

 凄まじいい速度で雲が太陽を隠し、風が荒れ狂る。

 あっという間に雪が降り出し、雷が鳴り出し、戦場の様相は一変した。

 

「グルルッ(魔力球には見事に対処されたが大自然の力にどこまで耐えられるか。……見せてもらおうかねぇ)」

 

 潰された左眼球を驚異的な再生能力で復活させ、調子を確認するように瞬きしながら。

 ミストレインは彼らがこれからどのように戦うかをまるで子供のようにわくわくしながら待ち受けた。

 

 

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