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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
126/208

ドラゴン討伐開始

 タツミたちは雪崩に対処した事で消耗した体力、精神力を回復させるべく交代で半日の休憩を取った。

 キルシェットとトラノスケが率先して見張りを買って出てくれたお蔭で、特に消耗の激しかったオイチも万全の状態に回復する事が出来ている。

 あとは山頂を目指すだけだ。

 

「先の光線の方角、位置から見て山頂はもう程近いはずだ。ここからは一層、気を引き締めていくぞ」

「わかりました!」

 

 タツミの言葉にキルシェットはぐっと拳を握りながら応える。

 

「了解です」

 

 トラノスケは飄々と手首を軽く返しながら、油断無く周囲に気を配る。

 

「承知しました」

 

 オイチは微笑みながら静々とタツミに付き従う。

 いつも通りの頼り甲斐のある仲間たちの姿に、タツミも自然と笑みを浮かべていた。

 

 

 

 辿り着いたその場所は、雪山らしく満遍なく雪化粧が施されている。

 

「到着だな」

 

 山頂から火口を見下ろす。

 どうやらこの山は死火山らしく、火口と思しき落ち窪んだ地形にも雪が降り積もっている。

 見渡す限りの光景が白一色。

 だからこそぽつんと佇む『赤褐色の何か』とその傍で蜃気楼のように揺らめく実体のない『塔』の存在が、彼らの目には異様に際立って見えた。

 そしてその塔の入り口である巨大な扉が開かれており、そこから漏れている瘴気がドラゴンに纏わり付いている様は異様の一言に尽きるだろう。

 

「あれは……」

 

 キルシェットは全身の毛を逆立てながら、その2つの存在を見つめる。

 まだ距離があるはずだというのに、彼の本能は『これ以上、あれらに近づいてはならない』と危険を訴え続けていた。

 

「あれがタツミ様がおっしゃっていた『窓の無い塔』ですか。なんと禍々しい……」

「ヤマトで見た妖怪どもの根城とはまた違った雰囲気ですね。あちらはなんといいますか力強さによる畏怖を感じましたが……あの塔には見ていて不安になるような不気味な雰囲気を感じます」

「……以前、見た時よりも周囲を取り巻く瘴気の量が増えているぞ。くれぐれも警戒を怠るな」

 

 全員に注意を促しながらタツミは先頭を切って歩き出す。

 オイチたちは彼の緊張を孕んだ言葉に神妙な表情で頷くとその後に続いた。

 

 あの光線によって分厚い雲が切り裂かれて以降、雪は降っていない。

 日の光が積もった雪に反射し、キラキラと輝いている。

 これからの事を考えなければ見とれてしまっていたかもしれない幻想的な光景だ。

 

 雪を踏み締める音だけが彼らの鼓膜を震わせる。

 

 少しずつ大きくなっていく塔と目的の存在。

 距離が縮まっていけばいくほど、肌に突き刺さるピリピリとしたプレッシャーが強くなっていく。

 

 どう考えても自分を殺せと願い出た者が放つ圧力ではない。

 

「どうやらミストレインはやる気満々のようだな。瘴気にやられているのか、それとも何か他に目的があるのかはわからないが」

「おそらく何か意図があるものと思われます。先ほどからこちらに向けられている気迫には戦意は感じ取れますが殺気は感じ取れませんもの」

 

 生物として人間の遥か上にいる竜種。

 その中でもさらに上位の存在である『グレータードラゴン』。

 そんな存在と戦わなければならないという想定した中で最悪に近いケースに向かいつつある状況にタツミはため息を零す。

 

「うぅ、怖い……。で、でも逃げたく、ない」

 

 獣人の優れた生存本能故に震えが止まらないキルシェットは自分に言い聞かせるように呟いている。

 全身が緊張で硬直し、歩く以外の動作が出来なくなっている彼の姿は見ていてとても危なっかしい。

 

「キルシェット」

「ひっ!?」

 

 タツミはそんな彼の肩に軽く手を置いた。

 引きつった悲鳴と共にびくりと震えるキルシェット。

 揺れる瞳で自身よりも背の高いタツミを見上げる彼は、怖いものに怯える少年でしかなかった。

 

「落ち着け。ゆっくり深呼吸するんだ」

 

 半ばパニック状態になっているキルシェットにも届くように、ゆっくり噛み締めるようにタツミは言葉を紡ぐ。

 同時に彼は大将軍のコマンドスキル『激励』を使用する。

 声に乗せるように使用されたスキルの効果によって恐慌状態だったキルシェットは落ち着きを取り戻した。

 

「すぅ、はぁ……。ありがとうございます。もう大丈夫です」

 

 身体の震えは残るものの真っ青だった顔には生気が戻り、戦意を漲らせてミストレインの重圧に抗えるまでに回復していた。

 

「戦えないと思ったらすぐに引け。これから起こる戦いで、おそらく俺たちにはお前を構っているだけの余裕はなくなるだろう。何があっても考える事だけはやめるな。いいな?」

「はい!」

 

 トラノスケの厳しくも案じるその言葉にキルシェットは即答する。

 その早さに本当に大丈夫なのだなと判断し、トラノスケは意識を前方の敵へと集中させた。

 

 そして彼らは歩を進める。

 威圧感はさらに増していくが、彼らの中にはもう怖気付く者はいない。

 変わらぬ歩みで突き進む彼らをしばし見つめていた『グレータードラゴン』は、何を思ったのか突然咆哮を上げる。

 

「グルゥァアアアアアアアッ!!!」

 

 距離は全身を確認できる程度に近く、『グレータードラゴン』の足元までおよそ3kmと言ったところだ。

 ソコに来てミストレインは行動を開始する。

 

 咆哮が収まると同時に竜の背には大小様々な魔力球が現れる。

 溢れんばかりの魔力に形を持たせたのだろう。

 

「来るぞ!」

 

 竜の二度目の咆哮を合図に魔力弾の群れがタツミたちに殺到した。

 轟音、いや爆音が山頂に響き渡る。

 隣の山にすら届く炸裂音の中、彼らはそれぞれの方法で魔力弾の絨毯爆撃に対処した。

 

 魔力弾の雨を足を止める事無く駆け抜けるタツミ。

 それに続くように走り、直撃弾を避けて進むキルシェットとトラノスケ。

 人を乗せられる大きさの鳥型の式神を造り、降ってくる雨よりもさらに上空へと逃れたオイチ。

 

 土煙、雪煙が周囲に広がる中で上空に逃れたオイチの姿はグレータードラゴンからすれば格好の的だったのだろう。

 再び魔力弾の群れが生成され、今度はソレラ全てがオイチに向けられる。

 

 しかしいざ発射するという段階で僅かな風切り音が竜の耳に届いた。

 その音が示す物に気付いた竜が顔を僅かに逸らすと、直前まで眼球があった位置にナイフほどの大きさの刃が飛んできた。

 黒一色の鈍い輝きを放つクナイは竜の強固な鱗に激突、金属同士が擦れ合う小さな音を発すると空しく地面へと落ちていく。

 

 主の危機を回避すべくトラノスケが放った渾身の投擲。

 それはダメージを与える事は出来なかったが、竜の意識を僅かな間だけオイチから外すことに成功した。

 

「気を逸らしましたわね?」

 

 思ったよりもずっと近い所から聞こえた声に、さしものグレータードラゴンも驚きに目を見開く。

 同時に竜の頭部の真横を通り抜ける鳥型の式神。

 その背に乗っていたヤマトにて美姫と謳われた少女は、いつの間に組み立てていたのか折り畳み式の薙刀を構えていた。

 

「せぇいっ!」

 

 気合一閃。

 突き出された切っ先は左眼球に突き立てられた。

 深く突き刺さった薙刀を手放し、そのまま高速で竜の背へと飛翔する。

 背後でバキっという音と共に眼球に突き刺さっていた薙刀の刃が砕けて地面へと落ちていった。

 瞬きをする事で眼球から突き出していた薙刀を砕いたのだ。

 

「今度、どこかで新しい物を仕入れなければいけませんね」

 

 ヤマトから持ってきた愛用していた武器の最後を尻目に暢気な事を言いながら、オイチは服の裾から数枚の札を取り出した。

 

「ギャァアアアアアオオオッ!!!」

 

 ダメージを受けて発射できる状態のまま放置されていた魔力弾が今度こそ、発射される。

 

「当たるわけには参りません」

 

 形作られた翼をはためかせ、式神は飛んでくる人の頭ほどの大きさの魔力弾を回避した。

 何かに気付いた竜は、オイチに向かっていた意識を自身の正面に向ける。

 

 未だに炸裂した魔力弾が巻き上げた土煙や雪煙が収まらない空間。

 煙を切り裂くようにして真空の刃が竜の身体に向けて放たれた。

 

「『斬空』っ!!」

 

 巨大な真空刃は竜の胴体に突き刺さる。

 その衝撃に巨躯が大きくよろめいた。

 

 その大きな隙に乗じて竜の前足を脚力だけでよじ登る影が二つ。

 無事に雨のような魔力弾を潜り抜けたトラノスケとキルシェットである。

 

 よじ登りながらも表皮に攻撃を繰り出す2人。

 しかし鱗に阻まれてしまい、傷一つ付けられずにいた。

 

「硬い。普通の武器じゃあ傷付けるのも難しいか」

 

 トラノスケは懐から拳大の丸い何かを取り出す。

 親指と人差し指に付けている鉄の輪に付けられた小さな火打石を素早く擦り合わせて僅かに生まれた火花で、拳大の物体の『導火線』に火を付けた。

 竜の胴体まで昇りきり、その背に降り立ったところで導火線が短くなった物体を竜の頭部と首の付け根めがけて投擲。

 数秒の間の後にそれは爆発した。

 

「これも効かないか」

 

 さして期待はしていなかったという語調で、爆発を受けて尚もまったくの無傷の頭部にトラノスケは難しい視線を向ける。

 

「外が硬いなら、中へ衝撃を通すまでです!」

 

 キルシェットはナイフを逆手に構え、足元に無防備に広がる竜の胴体へ突き立てる。

 同時に『鎧通し』が頑強な鱗を無視して竜の体内に浸透する。

 

「ギアアアアアアアッ!!」

 

 頑強な竜も体内までが強固というわけではないらしい。

 これには堪らず悲鳴を上げ、胴体に上がっていた2人を振り下ろすように暴れる。

 さらに魔力弾が生成され、己の身体に当たる事も厭わずに発射された。

 狙い撃ちされるわけにはいかないと、2人は躊躇うことなく竜の胴体から飛び降りる。

 

 地面まで10mはあるだろう高さ。

 只ではすまない高さから飛び降りた2人の顔には、しかし恐怖や不安は一切無い。

 直後、2人に鳥型の式神が近づき、通り抜け様に背に乗せて竜から距離を取った。

 2人はオイチが助けてくれると信じて飛び降りたのだ。

 

「効いてないわけじゃないが……(やはり与えられたダメージが少ないな。これまでの攻撃でミリ単位しかHPバーが削れていない)」

 

 ミストレインのステータスを表示しながら、タツミは再度刀を振り上げる。

 視線の先には彼目掛けて迫り来る魔力の弾幕とその奥に佇む竜の姿。

 

「まだまだここからだ。何で人語を話さないのかとか、そもそも何がしたいのかとか聞きたいこともあるが、とりあえず願い通りに殺させてもらうぞ。婆さん」

 

 言いながら彼は刀を振り下ろし、弾幕を切り裂きながら突き進む巨大な真空刃を放った。

 

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