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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
124/208

変動する状況

「(二つ目!)」

 

 基点となっていた大木が、その力を失った影響で枯れ始める。

 その様子を尻目にカロルは素早くドラードの背に飛び乗った。

 

「行くぞ、ドラード!」

「ガァアアアッ!!」

 

 最後の基点を目指して飛び立つ飛竜。

 しかしその前足に何かが絡みついたことでその行動は妨害されてしまった。

 ドラードとアーリ、カロルの視線が地上へ向けられる。

 そこには全長2mはあるだろう毒々しい紫色のカメレオンがいた。

 その口から伸ばされた舌がドラードの足に巻きついている。

 これこそが飛翔を妨げている原因だった。

 

「グルルッ!」

 

 中空で翼をはためかせ、飛竜は足枷となった舌ごと中空へ飛び上がろうとするものカメレオン型の魔物の力は思った以上に強く、竜の剛力を持ってしても強引に飛び上がる事は出来なかった。

 

「ふっ!」

 

 アーリは片手で突撃槍を操り、相棒の足に絡みついた舌を切り裂く。

 

「ギャウっ!?」

 

 舌を半ばから断ち切られたカメレオンは呻き声のような物を上げ、その場にひっくり返った。

 人間で言うところのショック症状を起こしたようだ。

 

「よしっ!」

 

 束縛を脱し、すぐに飛び上がるドラード。

 しかし行かせるものかと言わんばかりに多数の舌が伸びてくる。

 

「くっ、しつこいッ!? カロル、振り落とされるなよ!!」

「(はいっ!)」

 

 地上から迫る複数の舌をドラードはすべて避け切った。

 だがしかし敵は地上にいる者ばかりではない。

 

「(アーリさん、上から来ます!)」

「っ!?」

 

 頭に響くカロルの警告に従い、彼女は手綱を強く引きドラードの動きを制御する。

 その空中での動きに合わせて揺れる彼女の髪を鋭い嘴が僅かに掠めていった。

 鳥型の魔物たちによる攻撃だ。

 

「ええいっ! やはり倒してもキリがない!」

「(かと言って通り抜けるには敵の数が集まり過ぎています!)」

「わかっている!(とはいえどう切り抜ける!? こいつらは狙いをカロルに絞ってきている。基点を破壊できるのはカロルだけである事に気づいたんだろう。この子を一人だけ向かわせるには最後の基点までの距離が遠すぎる。各個撃破されておしまいだ)」

 

 状況を打開する手段を模索するアーリ。

 しかし敵は彼女が考えをまとめるまで待ってはくれなかった。

 

「(囲まれています!)」

「なにッ!?」

 

 突撃してくる鳥の処理に追われていたアーリが周囲を見回す。

 彼女らの周囲は、カロルの言葉通りに夥しい量の鳥の群れに囲まれていた。

 

「まずい、か!(最悪の場合、カロルだけでもどうにか……!!)」

 

 アーリは己のミスを恥じ、歯噛みしながら悲壮な覚悟を決める。

 だがその時、カロルの頭上でサイコロが舞った。

 

「っ?」

 

 いつもならばタツミ以外には気付く事が出来ないはずのダイスが転がる渇いた音。

 その音に何故かカロルだけが気付く事が出来た。

 サイコロの出目は『6』。

 サイコロその物が見えているわけではない彼だが、同時に背筋を走る悪寒と脳裏を過ぎるこの後起こる出来事の鮮明なイメージに思わず念話で叫んでいた。

 

「(何か遠くから来ますっ!? 急いで高度を下げてください!!)」

「なにっ!? ええい、ままよっ!!」

 

 カロルの焦った顔と必死な声に、彼女は彼への疑問を置き去りにして弾かれたように即応する。

 眼下の敵を蹴散らしての急降下だ。

 

 彼女が急降下を開始するとほぼ同時に。

 雲ごと切り裂きながら、巨大な光線が頭上を蹂躙した。

 

 カロルの魔法の何倍もあろうかという暴力的な魔力の奔流である。

 アーリたちを囲い込もうと集まっていた魔物の群れは何が起きたかもわからぬまま蒸発するようにその命を散らしていった。

 

「な、何だ。今のは……」

 

 黒雲のように集まっていた生物は、その全てが完全にその姿を消していた。

 アーリは慎重に高度を上げる。

 光線が放たれたと思われる方角を見るが、彼女の目に見える範囲に光線の発生源となる物は存在しない。

 それなりに良い視力であっても何が行われたか確認する事は出来なかった。

 

「敵側の攻撃……か?」

 

 自身の手駒ごとアーリたちを始末しようとしたとも考えられる。

 

「(たぶん……違うと思います)」

「ああ、完全に取り囲んだ状態でならまだしも、逃げられる状態であんな真似をしてもな。現に我々はあの攻撃を避けられた」

 

 この山に張られた自動起動の罠かとも考えたが、あれほどの威力の光線はメデューサやカトブレパスから感じ取った力とはまるで別次元の物だとわかった。

 

「あんな物が使えるならば私たちはとっくにやられている。遊ばれているのだとしても、もっと手も足も出ないはずだ」

 

 ではあの攻撃は一体誰が、何の為に行ったのか。

 

「……今はそれを考えていても仕方がない。これを好機と見て速やかに移動しよう。カロル、しっかり捕まっていてくれ」

「(はい。……でもあんな凄い力を使える存在なんて、ミストレインさん?)」

 

 アーリは疑問を一先ず思考の隅に追いやり、最後の基点へと飛翔する。

 カロルもそれに同意するが、その脳裏にはあの光の奔流を放った存在が思い浮かんでいた

 しかし今、優先すべきは基点の破壊。

 彼は思い当たった事をアーリに伝える事はなく己が心中のみで礼を言うだけに留めて気持ちを切り替えた。

 

 

 

 一方その頃

 

「今の光は……一体なんだったんでしょう?」

 

 吹雪を作り上げていた雲を真っ二つにして太陽を剥き出しにした光。

 その威力に尻尾を逆立てながらキルシェットはタツミたちに聞く。

 

 それはタツミたちが目指している山頂付近から明後日の方向に向けて放たれていた

 

「凄まじい力が込められた光でしたね」

 

 その威力に感嘆するオイチ。

 

「あの御仁と無関係、とは思えませんが」

 

 懐の武器に手をかけながら周囲への警戒を強めるトラノスケ。

 

「……ほぼ間違いなくミストレインの仕業だろう。と言うかあんな力を持っているヤツが他にいるとは考えたくないぞ」

「確かに。敵対するかどうかも不明な不確定要素なんて増えて欲しくはありませんね」

 

 嫌な想像をしたとばかりにトラノスケが顔を歪めたところで、オイチ以外の人間が異変に気付いた。

 山の山頂付近から腹に響くような地鳴りが聞こえてくる事に。

 

「タツミさん……これってまさか」

 

 青褪めた顔でキルシェットが呟く。

 話しかけられたタツミはその手に火縄銃『鬼殺し』を握り、山頂へ続く前方を睨み付けた。

 

「おそらく予想通りだ、キルシェット(まさか全員にダイスロールが起こって、揃いも揃って『2』を引くとはな。『1』よりはマシだと前向きに考えておくべきか)」

 

 心中でため息を零しながら魔力を銃へと込め、いつでも引き金を引けるよう構えた。

 地響きは少しずつ近づいてくる。

 山頂から彼らに向かってくるように。

 

「雪崩ですね」

 

 マイペースに言いながらオイチは服の袖から札を数枚取り出す。

 

「オイチ、全員を囲い込む様に壁を作ってくれ。直撃は俺が防ぐ」

「お任せください」

 

 タツミの指示に頷き、彼女は札を3枚地面へ放り投げる。

 風を切って地面に張り付いた札に対して素早く印を結んだ。

 

土壁遮功どへきしゃこう・急々如律令!」

 

 自分たちを取り囲むように地面に張り付いた札を基点に地面がせり上がる。

 それらは彼らを囲い込む、包み込んでドーム状の壁を形成した。

 

「オイチさん! タツミさんがまだ外に!」

「あの方ならば平気ですよ、キル君。心配する気持ちは私も同じですが、ここは堪えてください」

 

 慌てるキルシェットを諌めるオイチ。

 同時に土壁の外から轟音が響いた。

 壁越しにも感じ取れる力の奔流。

 

「タツミ殿が『鬼殺し』を撃ったようですね、姫様」

「ええ。ですが私の役割はここから……雪崩に負けぬよう気合を入れましょう」

 

 轟音が止まる。

 同時に土壁に何かが激突する衝撃が走る。

 

「うっ!?」

 

 印を結んだ手に力を入れる。

 額から流れ落ちる汗に構わず、オイチは己の魔力を注ぎ込んで壁の強度を上げ続けた。

 しかし雪崩の勢いは止まらず、果断なく打ち付ける激流による負荷。

 オイチは歯を食いしばり、その力に抗い続ける。

 

「オイチさん!」

 

 身体にかかる負担に思わずふらついた彼女の身体を、キルシェットは思わず後ろから支えた。

 

「そのまま支えていろ、キルシェット。もし壁が破られたらその時は俺がお前たちを運ぶ」

 

 トラノスケは罅が入りつつある土壁を瞬きすらせずに睨みつける。

 

「は、はい!」

「うふふ。ありがとう、キル君。トラノスケ」

 

 そんな彼女たちの会話を遮るように再びの轟音。

 タツミの鬼殺し。

 その二発目が放たれたのだ。

 

「タツミ殿も無事だったようですね。どうです、姫様」

「……どうにかやり過ごせそうです」

 

 土壁にかかる負荷が少しずつ少なくなっている事を感じ取り、オイチは緊張を解く事無く告げた。

 それからしばらくの時間を持って雪崩は収まる。

 

「もう圧力は無くなりました。とりあえず壁の上だけ開けますので外の様子を見てください」

 

 彼女が警戒しながら天井の土壁だけを開くと積もっていた雪が落ちてきた。

 

「うわっ!?」

 

 頭上に落ちてきた雪を咄嗟に飛び退いてキルシェットは回避する。

 同時に開けた頭上から疲れたような声が聞こえてきた。

 

「無事か、3人とも」

 

 天井の壁から覗き込むタツミの姿に中にいた3人が安堵の表情を浮かべる。

 どうやら彼らは誰一人欠ける事なく雪崩をやり過ごす事が出来たようだ。


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