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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
123/208

反撃開始

 アルカリュードの面々がメデューサとカトブレパスを倒す策を講じている頃。

 タツミたちはミストレインから提示された場所、雪山の山頂へと向かっていた。

 

「今日で二日目ですね」

「順調、というか当初の予定よりだいぶ早いペースで進めていますね」

 

 確認するように呟くオイチに、周囲を警戒するように犬耳を忙しなく動かしながらキルシェットが答える。

 

「予定通りならあっちはそろそろメデューサと接触する頃でしょうね」

「そうだな。こっちは大体1日分くらい早いペースだから、おそらく明日には山頂に到着するはずだ。ここまで強行軍だったが大丈夫か?」

 

 寒さ対策の厚着をした上で歩き難い雪道を進むのは普段以上に体力を消耗する。

 加えて変わりやすい山の天候のせいでペース配分も難しい。

 そんな状況で、彼らは可能な限り急いで進んでいた。

 

 ミストレインは瘴気に取り込まれるのに二週間の猶予があると言っていたが、今までの経験からその言葉を信じ切ることが出来なかったのだ。

 瘴気は今までの常識から外れた事ばかりしてきた。

 余裕があるからと言って油断は出来ない。

 そうであるが故に彼らは急いでいた。

 故にタツミは無理をしている事を自覚し、体調を崩す者がいないかを常に気を遣うよう意識している。

 

「大丈夫です」

「まぁこの程度ならまったく」

「私も問題ありません。ご心配ありがとうございます」

 

 何度となく行われたやり取りを終え、4人は進行方向に視線を戻す。

 山頂に近づくにつれて天候はどんどん悪くなっていた。

 まるで彼らの進行を妨害するかのように。

 

「この天候、まさかと思いますがあの老婆竜の仕業じゃないでしょうね?」

「無いとは言い切れないな。正直、あの婆さんが何を考えているかは読めない」

 

 飄々としたその表情からは言葉以上の意図がまるで見えない。

 自分を殺せと願い出た言葉のどこまでが本音なのか、その心中を図る事が出来なかったのだ。

 故にどこまでが信用出来るかわからない。

 それは彼女と関わったほとんどの人間が大なり小なり感じていた事だ。

 

「あの言葉に嘘はなかったとは思うのですが……」

 

 困ったように笑うオイチの言葉にも自信は感じられない。

 

「そ、それにしてもこの二日間、魔物がまったく現れませんでしたね」

 

 場の空気が悪くなってきた事を察したキルシェットが咄嗟に話題を変える。

 

「それも気になっている。なるべく周囲に気を配っているが、それでもまるで出てこないというのはおかしい」

「というか周囲一帯に生き物の気配すら感じられませんね。下手すれば鳥も虫もいませんよ、この静けさは……」

 

 吹雪いている状況で、生き物の声など聞こえない。

 しかしそこは密偵、いや忍びとして特殊な鍛錬を受けたトラノスケ。

 ビュウビュウと吹き荒れる風の中から周囲の音を探り、異常を察知していた。

 

「少し式神の数を増やしましょうか?」

 

 現在、オイチは鳥型の式神を3体使役して先行させていた。

 彼らがここまで吹雪で方向感覚を失わう事なく真っ直ぐに山頂を目指す事が出来たのは彼女の尽力による所が大きい。

 

「いややめておこう。これ以上はお前に負担がかかる。俺たち3人が警戒していれば対処できない何かが起こる可能性は低い。このまま可能な限り余力を残して山頂を目指すぞ」

 

 タツミの言葉に全員が頷き、会話している間に自然と止まっていた歩みが再開された。

 ミストレインの本体が待つ山頂は未だ見えない。

 

 

 

 カロルの解除の魔法を受けて薄ぼんやりと薄緑色に輝いていた2メートル程度の岩から不気味な魔力が消え輝きを失う。

 

「まずは一つ目だな」

「(はい、この領域の基点は3つぞれぞれが独立して稼動していますから。残り2つも急いで破壊しないと。たぶん力の源が1つ消えた事はあちらも気付くはずです)」

 

 ミストレインが示した敵のテリトリーの基点。

 カロルによって共有された情報によれば三つの基点を破壊すれば罠の魔力砲撃を無くし、カトブレパスとメデューサの能力を下げる事が出来ると言う。

 

 彼らが考えた策はこうだ。

 機動力のあるアーリとドラードが基点を破壊できるカロルを運搬。

 彼らが基点を全て破壊するまでの間、ライコーと召喚獣たち、ルンとリューが陽動として敵の領域へ再び入り込み応戦する。

 

「カトブレパスとかいう一つ目牛には知性なんて感じられなかったが、メデューサはおそらく早いうちに俺たちの考えに気付くはずだ」

「私たちは足止めに専念するわ。なんとしてでも貴方達が戻るまで耐えてみせる。だからなるべく早く済ませちゃってね」

 

 二人の言葉を思い出しながら、カロルはドラードの背に飛び乗りアーリの腰にしっかりと抱きつく。

 

「(急ぎましょう!)」

「ああ。ただ……どうやらもう気付かれたらしい」

「(えっ!?)」

 

 アーリが見上げる先に釣られて視線を向けるカロル。

 そして翼を広げた鳥型の魔物の群れが集まっている事に気付いた。

 そのすべてが例外なく自分たちを見つめて、いや睨みつけている。

 その目は例外なく血のように紅く正気ではない事が窺えた。

 

「(今まで出てこなかった魔物があんなに……それにあの尋常ではない様子は)」

「ヤツラに操られているのだろうな。とはいえ私たちがやる事は変わらん。立ち塞がる敵は突破し、速やかにあと2つの基点を破壊する。行くぞ、ドラード、カロル!!」

「ガァッ!!!」

「(はい!)」

 

 騎手の命を受けて飛び上がる飛竜。

 獲物が自分たちに近づいてきた事に触発され滑空して迫る魔物の群れ。

 

「放てぇっ!!」

 

 対してアーリは即座にドラードに指示を出し、その口から火炎の吐息が放たれる。

 放射線上に広がる炎が突撃してきた魔物たちの視界を遮断し怯んでいる間に、竜騎士たちはその真下を通り過ぎた。

 

「一々相手などしていられんが……追っ手は少ない方がいい! カロル、行けるか!!」

「『ブレイジングブラスト』!!」

 

 火炎に巻かれて動きを止めていた群れに、押し流すような魔力の奔流が襲い掛かる。

 悲鳴すらも飲み込んで全ての魔物は消し去られていった。

 

「一先ずは一掃したな。さぁ次の基点はどこだ!」

「(あっちです!)」

 

 カロルが指差す先を目指してドラードは空を翔ける。

 遠くを見やればどこから現れたのかさらなる無数の黒い点、飛翔する魔物の群れが近づいてくる姿が見えていた。

 

「泡を食ったように止めに来たか。どうやら思った以上に基点を壊されるのはあちらにとって都合が悪いらしい」

「(急ぎましょう。足止めに残った皆さんが危険です)」

「わかっているさ。ドラード、無茶をするぞ!!」

 

 彼女らを囲い込もうと蠢く魔物の群れを睨みながら、アーリたちは最善手を模索し始めた。

 

 

 

「ブルルォオオッ!!」

 

 獲物を前に雄叫びと共に突進するカトブレパス。

 

「来いよ、牛ぃっ!!」

 

 ライコーはノームを召喚し、両足と両腕に魔力を帯びた土を纏った。

 纏った土が動きを阻害しない形で外装となり、彼女の力を強化する。

 地面を土によって強化された両足で踏み締め、ライコーは歯をむき出しにして雄叫びを上げた。

 

「どぉおおりゃぁああ!!」

 

 巨大な牛の超重量の突進を彼女はあろうことか仁王立ちして真正面から受け止める。

 踏ん張った土くれの足は衝撃で陥没し、強化した土の腕は突進を受け止めた影響で罅が入るが猛牛の攻撃を受け切った。

 そんな彼女を背後から罠の砲撃が襲う。

 

「ノーム!」

 

 土の精霊がライコーの背後の土を隆起させ、即席の遮蔽を造り上げた。

 砲撃は分厚い土壁を破壊する事は無く、土壁を石壁に変えるのに留まる。

 

「貴女もおとなしくしててちょうだい、ね!」

 

 ルンの両手の鞭が風を切りながら不気味に髪の蛇を蠢かせているメデューサに迫る。

 石化の魔眼の視界を遮るように放たれた鞭は狙いを過たず敵の頭部に直撃。

 しかし直撃した頭部は黒い霧状になり、鞭が通り過ぎた後に元に戻った。

 攻撃によるダメージを受けた様子はない。

 

「やっぱり効かないわね」

 

 くすくすと嘲笑するメデューサの姿に苛立つものの、冷静さを保つ。

 ペースを乱せば敵の思う壺だと理解しているのだ。

 

「(どこまでいけるかしらね?)」

 

 実力差は明白。

 メデューサがその気になれば一瞬で石化されてしまうルンは、相手が本気を出さないように、しかし自身を無視して別行動中の2人に気を向けない程度に引き付けなければならない。

 言葉にするのは容易く、実行する事はとても難しい。

 

 一見すると狂っているように見えるメデューサだが、その行動には相手を嬲って喜ぶ加虐的な趣向が見え隠れしている。

 それはつまり一定以上の知性が残っている可能性を示している以上、違和感を察するのも早いだろう。

 無意味な攻撃を繰り返すだけでは、すぐに興味を失くす。

 であれば何かしら有効打の一つも与えなければならない。

 

「リュー!!」

 

 相棒の指示に袖口から顔を出した蛇が応える。

 口の中で溜め込んでいた風を球状にして放つ。

 普段は口から放つのはブレス状の風だったがここに来てリューは、器用にも『口の中で風の形状を変化させる』という技術を身に付けていた。

 

「っ!?」

 

 メデューサの顔面を直撃すると同時に風の塊は爆発を起こす。

 しかし今度は鞭での攻撃の時と違い、霧状にはならなかった。

 爆発の際に身体を仰け反らせた様子から見ても、物理攻撃の時とリアクションが異なる事は明白だ。

 

「(魔法かそれに類する属性攻撃は効くのね。まぁどの程度のものかはわからないけれど)」

 

 仰け反らせた身体をすぐに立て直し、薄気味悪い笑みを貼り付けているメデューサに堪えた様子は見られない。

 しかし自身に有効な攻撃を行ったルンに興味を深めたようだ。

 髪の蛇の全ての視線がルンに集中している事がわかる。

 

「(出来るだけ急いでね。カロル、アーリ、ドラード)」

 

 額を流れる汗を流れるままに、ルンはリューに再度指示を出した。

 

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