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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
122/208

一時退却

 彼ら『アルカリュード』は化け物牛を相手に善戦していた。

 敵のテリトリーの中で、罠をかいくぐりながら息のあった連携。

 雄牛の化け物だけならば、遠からず倒す事も出来ただろう。

 しかし瘴気によって形作られるメデューサが現れた事で状況は一変した。

 

 単純に敵の手数が増えたというのも大きいが、それ以上にメデューサの攻撃能力が厄介だった。

 魔力が込められた視線を受ければ魔法耐性が低いアーリとルンは即石化。

 その対処にカロルが借り出され、攻撃の手が一時的にライコーとその召喚獣たちのみになってしまう。

 

 その好機を逃さず雄牛とメデューサは攻撃を繰り出す。

 その標的は回復役であり、耐性の高さから石化の魔眼が通用しないカロルだ。

 彼がやられればアルカリュードの敗北は火を見るより明らかで、それは全員がわかっている事。

 結果、ライコーたちも防御に回らざるをえなくなり。

 

 現状はジリ貧と言ってよいものだった。

 

「……引くぞ」

 

 リーダーであるアーリの決断に対する仲間たちの反応は早かった。

 

「イフリート、シルフ!」

 

 瞬時に形成された火球が放たれ、地面を抉る。

 上がった砂埃を風が巻き上げ、メデューサたちの視界を塞いだ。

 

「ブルォオオオオオッ!!」

 

 しかし巻き上げられた土煙を物ともせずに雄牛は獲物目掛けて突進する。

 

「リューッ!」

「シャァアーーーーッ!!」

 

 限界まで開かれた口から放たれる風のブレスが、化け物の突進を押し留めた。

 

「『アースクエイク』!!」

 

 すかさず行使される魔法が、雄牛が踏ん張っていた足元を崩し、次いで凄まじい勢いで盛り上がった。

 雄牛の巨体は中空へ、さらにリューのブレスによって流され元いた場所へとと吹き飛ぶ。

 

「ドラードッ!!」

 

 とどめとばかりに炎のブレスが吐き出される。

 アースクエイクで盛り上がった地面はカロルの意志を受けて、土壁として敵と味方とを遮り、そこまでのお膳立てが済んだ瞬間。

 

 彼らは脇目も振らずにその場から逃走。

 何度も罠の光線に晒されるもどうにかやり過ごし、どうにか殿であるドラードとアーリも含めて無事にテリトリーを離脱する事が出来た。

 

 

 

「くっ、思った以上に厄介だな」

 

 追いかけてくる気配がないか、周囲を警戒しながらアーリは相棒の背に身体を預けて忌々しげに呟く。

 

「はぁ、はぁ……特にあの石化が厄介すぎるわね。私とアーリはほとんど抵抗出来ないなんて」

 

 全力疾走を続けたために、ひどい息切れを起こしたルンは木の幹に寄りかかり、呼吸を落ち着かせるよう努めていた。

 

「あれのせいで、カロルは回復に付きっ切りだもんな。カロルが攻撃に回れないのは痛すぎる……」

 

 ライコーは一時的にイフリートを還し、魔力の回復の為にどっかり地面に座り込んで休んでいた。

 シルフのみ顕現し、ごく狭い範囲ではあるが何か入ってきたら気付く事が出来る風の結界を作っている。

 

「(僕とライコーもルンとアーリさんよりは抵抗力が高いって言うだけです。あちらはまだ本気で魔眼を行使していない可能性が高いので……本腰を入れられたらどうなるかわかりません)」

 

 ソレは戦っていて感じ取れた事実。

 雄牛の化け物はともかく、メデューサは本気で戦っていなかった。

 魔眼は対象を視界に入れれば発動する。

 ある程度、開けた空間にいれば視界に入った全てに効果を及ぼす事も可能だ。

 だと言うのにメデューサの魔眼の被害を受けたのは、接近戦を仕掛けたアーリとルンだけ。

 手を抜いていると考えるのは当然の事だ。

 

「たぶんだが、耐えられない可能性のが高いぜ。そうでなくても魔眼ってヤツは対象を絞り込んで注力する事で威力が上がる。今の段階で動きが鈍るんだ。本気出されたら一瞬じゃないにしてもかなりの速度で石化しちまうだろうよ」

 

 悔しげに、しかし冷静に客観的な事実をライコーは告げる。

 

「さっきの所感で言わせてもらうと勝ち目は薄いわね」

「だがあれらを放置するわけにはいかない。あんなものが人里に降りれば只では済まない事が対峙して実感できた。あれは、人里を離れている今、ここで倒さなければならない」

 

 突撃槍を握る手に力を込めながら、アーリは必倒の意志を言葉にした。

 

「勇ましい事だが、具体的な策はあるのかい?」

 

 しわがれた老婆の声が水を差す。

 弾かれたように全員の視線が声の方向に向く。

 戦闘中、何処かに姿を消していたミストレインがそこにいた。

 

「(ミストレインさん! 良かった! 姿が見えなくて心配していたんですよ!)」

 

 真っ先に声を上げたのはカロルだ。

 純粋な安堵の言葉に、思わずミストレインの顔が綻ぶ。

 

「ふぇふぇふぇ、素直な子だねぇ。そっちの一瞬顔を歪めた連中に爪の垢を煎じて飲ませたいよ」

「うるせぇよ、婆さん。茶々入れる為だけに出て来んな」

 

 心底、嫌そうな顔で歯をむき出しに威嚇するライコー。

 

「おや、冷静に状況を判断して退却する事を選んだお主らをご褒美として手伝ってやろうと思ったんじゃがな」

 

 その発言に真っ先に食いついたのはアーリだった。

 

「何か現状を打破する手段があるのか!?」

「食いつくじゃないか。まぁそれくらい貪欲な方が頼もしいというものだね」

 

 相変わらずの人を食った物言いだが、状況の切迫感からくる焦りからアーリたちはそれに軽い苛立ちを覚える。

 

「出来ればもったいぶらずにさっさと教えてくれないかしら?」

 

 ルンの言葉にも、隠し切れない棘がある。

 

「やれやれ、若者はせっかちでいけない。……ではさっさとやってしまおうか」

 

 そう言うとミストレインは一瞬でカロルの傍に移動し、その小さな頭に軽く手を添えた。

 

「(えっ? あ、あの?)」

「安心しなさい。少し私の持っている情報を渡すだけさね」

 

 呪文も無しに彼女の手に魔力が集まる。

 それは淡い輝きを持って触れているカロルへ彼女自身が知った情報を渡した。

 

「(こ、これは……)」

 

 情報を渡された少年の目が見開かれる。

 何故なら彼が受け取ったのは、敵のテリトリーを破壊する為に必要な基点の情報だったからだ。

 その数は3つ。

 

 さらに基点から吸い上げられた魔力の一部が一つ目雄牛の化け物『カトブレパス』とメデューサに力を与えているという事実と、最初にいると言った洞穴にメデューサの気配が消えている事から、メデューサが瘴気によって身体を形作っていたあの存在以外にこの山にはいないという事まで教えてくれた。

 

「(いつの間にこんな事を調べたんですか? というかあの牛の怪物はカトブレパスと言うんですか? まったく知らない名前です……)」

「調べたのはお前たちが戦闘してる最中にさね」

 

 さらりと言ってのけるが、その調査範囲はかなり広い。

 それなりに長い間、戦闘していたとはいえどもその時間内で調べ切れる範囲では到底無かった。

 

「それとカトブレパスの名を知らないのも無理はないさ。人の前に姿を現す事は滅多にない魔物。加えて遭遇して生き延びる事が出来る可能性も低いからね」

 

 その言葉の意味するところは、遭遇者の全滅に他ならない。

 アーリたちは自分たちが戦っていた化け物が、凶悪な魔物である事を再認識した。

 

「さぁ、渡した情報を元に頑張ってくれ。私は連中が寄ってこないか見張ってこよう」

 

 物言いたげな視線を一顧だにせず、瞬きする間に姿を消す。

 

「おい、婆さん!」

 

 ライコーが勝手に話を進めた挙句、勝手にいなくなったミストレインを引き止めようと声を上げるも、既にその姿はおろか気配は彼女らの知覚範囲から消え失せていた。

 

「マイペースと言うべきかしら? それとも自分勝手と言うべきかしら?」

「……両方だろう。まぁそれはいい。それで? カロル、一体どんな情報をもらったんだ?」

 

 気持ちを切り替え、本題へ戻る。

 周囲の警戒を怠らないまま、『アルカリュード』はミストレインから齎された情報を元に打倒カトブレパス&メデューサの策を固めていくのだった。

 

 

 

 メデューサたちのテリトリーの遥か上空。

 そこから山を見下ろしながら、ミストレインはふと零す。

 

「そろそろあちらも私の元に着く。私を蝕む瘴気はそう強くもない。このまま事が済めばいいのだが……果たしてどうなるか」

 

 どこか楽しげな口調で、彼女は事の推移を見守り続けた。

 

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