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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
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増える厄介事

 タツミの家は、この世界での一般的な木造二階建てだった。

 鍵はかかっておらず、タツミがドアノブを回せば何の抵抗もなくドアは開く。

 一見すると無用心に見える。

 しかし魔法やそれに類する術に造詣が深いオイチとカロルは、この家に施されている防犯装置にいち早く気が付いた。

 

「あの、タツミ様。家全体に結界が張られているようなのですが……」

「母親の置き土産だ。俺か両親、あるいはその誰かしらが許可した人間。それ以外は入れないようにするという条件付けで魔法的な細工がしてある。俺自身はその効果を見た事はないんだが、条件に一致しない場合は相当にえげつない事になるらしい」

「(なるほど。タツミさんのお母さんは凄い魔術師だったんですね)」

「お前たちがそう言うならそうなんだろうな。俺は魔法を使う母を見た事がない。あの人がどれほどの実力者だったのかよくわからないんだ。家に張られている結界が高度なのはわかるんだがな……」

 

 タツミの記憶に残る幼い頃の記憶。

 それによれば母はタツミの前では決して魔法を使わなかったのだ。

 

「まぁそれはいいだろう。それじゃ入ってくれ」

 

 中に入ったタツミが仲間たちを招き入れる。

 

「お邪魔いたします」

「お邪魔します」

 

 オイチとトラノスケが招かれるまま、玄関を潜り抜ける。

 

「ほらほら、気後れしてないで入るわよ。お邪魔します」

「(お、お邪魔します)」

 

 次に緊張した面持ちのカロルがルンに手を引かれながら家屋の中へ。

 

「それでは邪魔をさせてもらおう」

「お邪魔しまーす!」

「お邪魔します」

 

 そしてアーリとライコー、キルシェットと続く。

 結界が張られていると教えられた為に、カロルは緊張気味だったが何事もなく全員がタツミ宅に入れた事にほっと息をついた。

 

 中は綺麗に整頓されていた。

 タツミが冒険者になる為に旅立ってから十年以上経っているはずなのだが、埃が積もったような様子もない。

 

「長く離れていたという割には綺麗に片付けられていますね」

 

 誰もが思っていた疑問をトラノスケがタツミに問いかける。

 

「たぶんレインおばさんが掃除してくれていたんだろうな。あの人は綺麗好きだし、両親とは昔からの仲だったからな。俺がいつ帰ってきてもいいようにしていてくれたんだろうな」

 

 驚愕の表情を浮かべたまま石化していた、両親の死後もっとも世話になった女性の顔がタツミの脳裏を過ぎる。

 

「タツミ様……」

 

 故郷の人々が石にされた事実に彼がショックを受けていると思い、オイチは気遣わしげにタツミの名を呼ぶ。

 他の皆も言葉にこそ出さないが、タツミの事を案じていた。

 

「ああ、心配するな。大丈夫だ。さっきも言ったがまだ治せる可能性があるんだからな」

 

 皆が自分を心配している事を察したタツミは苦笑いしながら手を横に振り、心配無用と示しながら人数分の椅子を引っ張り出した。

 

「座ってくれ。今、暖炉に火をつける」

 

 家に保存されていた薪を慣れた手つきで組み上げ、種火にする藁を組み上げた薪の中心に放り込みさらにマッチで紙に火をつけて放り込む。

 火が藁に燃え移り、薪を燃え上がらせるまでに時間はそう掛からなかった。

 

「これでいいだろう。さて……」

 

 タツミはテーブルを囲むように並べられた椅子に腰掛けた一同を見回す。

 

「俺はこの村の人たちを元に戻したい。手伝ってくれるか?」

 

 そんな彼の言葉にトラノスケとアーリがため息を零した。

 

「何を言ってるんですか今更。俺たちは貴方に付いていってるんですよ? つまりこの面々の主格は貴方なんです。ここは『手伝え』と命令形でも構わないくらいですよ」

「トラノスケに同意する。特に私たちアルカリュードは無理やり押しかけた人間だ。なのに貴方達は私たちが同行するのを許し、暇があれば我々全員が強くなる為の手段を教え、訓練に力を貸してくれる。恩返しと言うには軽すぎるが我々にも出来る事があるなら手伝わせてほしい。遠慮などしないでくれ」

 

 2人の言葉に、タツミは目を丸くする。

 彼はしばらく黙り込みながら周囲を見回すと、誰もがトラノスケたちの言葉に同意している事が理解できた。

 

「あ~、わかった。ありがとう」

 

 そう言ってばつが悪そうに頬を掻きながらタツミはこほんと咳払いを一つする。

 気分を切り替えることが出来たのか、彼を中心に程よい緊張感が室内を包み込んだ。

 それを感じ取った仲間たちは居住まいを正して彼の言葉を待つ。

 

「それじゃ早速だが村の状況を調べたい。魔法関連に詳しいオイチとカロル、あと召喚獣の意見が聞けるライコーは石化の状態について調べてくれ。俺も後で合流する」

「はい、お任せください」

「(わかりました)」

「おう!」

 

 力強く頷いた3人はようやく暖まり出したリビングから出て行った。

 

「キルシェット、トラノスケは村の周辺を探ってくれ。例の動物たちが村に来ていないかが気になる。お前たちから見て何か気になる事があればどんな小さな事でもいいから報告するように頼む。アーリはドラードに乗って空から。ルンはリューの、動物が持つ優れた感覚から村の内外に異常がないか探ってくれ」

「承りましたよ」

「はい!」

「了解だ」

「わかったわ」

 

 隠密師弟と竜騎士、蛇使いが立ち上がりリビングを出て行く。

 家の外から竜の雄叫びが聞こえた。

 

「さてと……」

 

 タツミは彼らが出て行った後、リビングを出てさらに家の奥へと向かう。

 それほど広くも無い部屋の最奥にはタツミ自身が使っていた部屋があった。

 

「……」

 

 無言のまま彼は、十数年ぶりに己の部屋のドアを開く。

 

 窓の傍にある勉強机。

 朝になれば日の光が入るポジションにあるベッド。

 旅に出たその日と何も変わらない殺風景な部屋がそこにあった。

 

 唯一違うことと言えば。

 

「久しぶりだな、婆さん」

「よく気付いたねぇ、タツミ坊や」

 

 彼が十歳の頃、彼の魂の特異性に気付き、そのルーツを探り教え込んだ名も知らぬ老婆が当時と変わらない姿で立っている事だろう。

 

「あの頃に比べたら成長してるさ。しかし婆さんは変わらないな」

「ふふふ。まぁそうじゃろうな。この姿は仮のモノなのだしね」

「ああ、やっぱりそうなんだな(ステータス……)」

 

 久方ぶりにあった老人の姿をした存在見つめながら、彼は自身のみが行使できる力を使用した。

 彼の脳裏に目の前の存在についての情報が開示される。

 

 そして記載された情報に、タツミは目を見開いて驚愕した。

 

「ドラゴン、だな?」

 

 情報を読み進めて頭に入れながら、タツミは老婆の正体に触れる。

 

「ほぉう? 私の正体に気付いたか」

「……魔術師として優秀だった俺の母の結界をすり抜けるほどの力を持っているって時点で生半可な存在じゃないんだろう事は予想出来る。それに今までに何度か同じような気配を持つドラゴンとも戦ってきたしな。……そいつらよりもあんたの方が桁違いに強いようだが」

「ふむ。冷静だな、坊や。ここで私が暴れれば今この村にいる人間は只では済まんが?」

 

 楽しげに恐ろしい事を言いながら、老婆はタツミの反応を窺う。

 ソレに対して彼はため息をつきながら、呆れたように目を細めるだけだ。

 

「そんな事をするだけの力は今のあんたには無いだろう? 理由まではわからんが相当に弱っているんだからな」

「……そこまで見抜くか。本当に成長したんだな、坊や」

 

 人ならざる者の楽しげな表情が、感慨深げな物に変わる。

 

「どこまで察しているかわからないが、確かに私は弱っている。今の私の力は非常に限定的だ。今、お前が見ている私の姿もいわば魔力によって投影した物、意思を持つ幻のようなもの。本体は別の場所にいる。幻であるのだから、当然先に言ったような真似は出来ない。そもそも触れる事すらも出来ないからな」

 

 やれやれと両手を上げ、ため息をこぼすドラゴン。

 

「つまり本体は動けない状況にあり、それを押してでも俺に会いに来たと。旧交を暖めに来ただけとは思えないが、俺に何の用なんだ?」

「話が早くて助かる。お前に頼みたいのは……」

 

 すっと表情を改め、ドラゴンは告げる。

 

「私の理性が『瘴気』に飲み込まれる前に私の本体であるドラゴンを殺してくれ」

 

 真剣な表情のその言葉に対してタツミが最初に抱いたのは。

 

「(また『瘴気』か……)」

 

 どこに行ってもあちらの方からやってくる騒動の火種への関わりたくないという気持ちだった。

 とはいえこれを無視する事は彼には出来ない。

 

 一つだったはずの魂が辰道とタツミに分かたれた原因である瘴気を、今まで様々な場所で被害を及ぼしてきた瘴気を、あちらの世界にも被害を及ぼす瘴気を、放置しておく事など彼には出来ないのだ。

 

「……わかった。引き受けよう、その頼みを」

 

 僅かな間を置いての即答に老婆の姿をしたドラゴンはきょとんとする。

 しかしそれも数瞬の事で、老婆はふっと柔らかく微笑んだ。

 

「ふふ、ありがとう。タツミ」


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