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ダイスと共に世界を歩く  作者: 黄粋
第七章
114/208

故郷に起きた異変

「あ、あんたら一体……」

 

 魔物たちを一方的に蹂躙した異装の男に、村を守っていた剣士が代表して問いかける。

 突如として現れ、圧倒的な力を見せ付けたタツミと、彼の仲間と思しき者たちを彼らは警戒していた。

 その言葉に対してタツミは刀に付いた血を振り払い鞘に収めながら答えた。

 

「俺はA級冒険者のタツミ。他はパーティメンバーだ。俺の都合で久しぶりに故郷の村に帰ってきたんだが……いきなりこの騒ぎでな。介入させてもらった。もしも仕事中の獲物を取ってしまったとかだったらすまない」

 

 簡潔だが的確な回答と兜を外して苦笑いしているタツミの様子に、剣士とその仲間たちは納得したように頷き肩の力を抜く。

 何人かがA級冒険者だというタツミを凝視していたが。

 

「ああ、いいっていいって。俺たちもここに来たのは偶々だし。襲われたから迎え撃ってただけだからな。つか仮に依頼だったとしても恩人に文句なんて言わないっての。命あってのモノダネなんだからよ」

 

 手をヒラヒラと振る男にタツミの行動を気にした様子はない。

 

「つか助かったわ。次から次に出てきて終わりが見えてこなかったからよ。あんたらが来なかったらどうなってた事か。なぁ、お前ら」

 

 男が話を振ると5人の男女が疲れた顔で口々に同意する。

 

「ふむ。間に合ってよかったといったところか。……しかし村の人々はどうしたのだろう? 戦いは終わったというのに誰も家から出てこないようだが……」

「(まだ怯えているのかもしれませんね)」

「それにしてはなんというか、静か過ぎる気がするのだけどね」

 

 襲撃が止んだ事で出てくるかと思った村人たちが何の行動も起こさない事にアーリが訝しげに疑問の言葉を投げかければ、念話でカロルが答える。

 しかしルンはその言葉だけでは納得できない違和感を感じ、袖口から顔を出したリューと共に周囲への警戒心を露わにする。

 

「……キルシェット、気付いていると思うが」

「はい。この村、人の気配が目の前の人たち以外しません」

「息を潜めていようと、よほどの修練を積んでなければ気配ってものは漏れるはずなんだが……どういう事だ?」

 

 いち早く周囲の状況の異常さに気付いた師弟は油断なく周囲を見回していた。

 

「ああ。それは家の中を見てみりゃわかるぜ」

 

 カロルの言葉に納得しそうになったアーリだが、カロルの念話が聞こえていなかった男がその疑問に正しい回答をくれる。

 彼はそう言って一番近い民家を親指で指し示した。

 

「なに?」

 

 その言葉に疑問の声を上げるアーリだったが、彼の言葉を受けてタツミは示された民家に近づき、ドアをノックした。

 

「誰かいないか?」

 

 木製のドアを叩く音は確実に屋内に届いている。

 合わせて声もかけているのだが、応答はない。

 どころか民家の中からは物音一つしなかった。

 

「留守……いや、それだけならさっきの妙な言い回しはなんだ?(やはり気配察知に人の気配が引っかからない)」

 

 タツミは何の気なしにドアノブを捻り、あっけなく外側へ開くドアに目を細めた。

 

「(鍵が開いている? 記憶が確かならここはレインおばさんの家だ。あの几帳面な人が外出時に鍵を閉めないとは思えんが……すみません)」

 

 思い浮かべた家主の姿に心中で謝罪し、タツミは少しだけ開けていたドアを全開にする。

 そして玄関を見た彼は、男が話していた『家の中を見てみてればわかる』という言葉の意味を理解する事になる。

 

「レインおばさん……」

 

 目の前には何かに驚いたような顔のまま石になった人間の姿があった。

 

「これは……石化しているようですね?」

「(僅かに残った魔力を感じます。たぶん魔眼の類でやられてしまったんじゃないかと……)」

 

 眉間に皺を寄せるタツミの後ろから家の中を覗き込んでいたオイチとカロルも今村に起きている異常事態を理解した。

 

「正直、俺らも詳しい事調べる前に襲われたからな。なんでこうなってるのかについてはさっぱりだ。ただ確認した限りじゃ村人は全滅してる。ここが故郷だっていうあんたにこういうのが慰めになるかはわからねぇが、殺されたわけじゃないだけマシかもしれねぇぞ」

 

 故郷がこんな事になっているタツミを気遣うように言葉を選ぶ男。

 彼の横にはオイチが寄り添い、やはり気遣わしげにタツミの横顔を見つめている。

 

「……まぁ確かに。死んでしまっていたら取り返しはつきませんからね。石化なら元凶を倒すか、魔法で治せる可能性が残っていますし」

「タツミ様……」

「心配するな、オイチ」

 

 彼女の肩を安心させるようにそっと叩くと、タツミはトラノスケとキルシェットを見る。

 その際、トラノスケに対しては視線で最初に村にいた者たちを示し、彼はその視線を追ってからタツミに視線を返した。

 だがその僅かな所作に気付いたのはタツミの傍にいたオイチとアイコンタクトをした2人に師事しその動きを常に観察し吸収しようとしているキルシェットだけだ。

 

「二人とも、念のため他の家を見てきてくれるか?」

「了解です」

「あ、わかりました」

「俺も見てくるわ」

 

 2人はすぐに駆け出し、ライコーも2人を追って駆け出していった。

 

「とりあえずどこかで腰を落ち着けよう。俺の家がこの先だ。貴方達も良ければどうです?」

「お、そいつはありがたい。ありがたいんだが、やめとくぜ。今日中にランドリオンに戻りたいんだ。仕事の関係でな」

「……そうですか、わかりました。あちらから村を出れば人が踏み固めて出来た道があります。それに沿って進めばランドリオンに着きますよ」

「おう、助けてもらったってのに恩を返せなくて済まん」

「お気になさらず。それでは縁があったらまたどこかで」

「ああ。どっかでな」

 

 男たちは口々に礼を言い、頭を下げて去っていく。

 

 それを見送ってからタツミにオイチが問いかけた。

 

「タツミ様、よろしかったのですか?」

 

 その言葉の意味を理解できず、アーリとカロルは首を傾げる。

 

「オイチさん?」

「どういう事だ?」

 

 その言葉にタツミは髪を掻きながら答えた。

 

「この村を襲撃しに来たと思われる賊をこの場で逃がした事か?」

「はい」

「「えっ?」」

 

 その場に残っていたアーリ、ルン、カロルが驚きに目を見開いた。

 

「無理に引き止めて警戒されるのも、この村で暴れられるのも困るからな。それに追いかけてこないと分かれば油断してくれるだろう。トラノスケの仕事をしやすくしようと思って引き下がったんだよ」

「というとやはり村の外で?」

「ああ、村の外でトラノスケと、たぶん付いていくだろうキルシェットとライコーが片付ける。全員、実力的にはあいつら3人にだいぶ劣る。というか誰か1人でもお釣りが来るくらいの力の差があるから平気だ(自分の名を名乗ろうとしなかった時点で怪しかったからステータスを見てみたが……職業に盗賊団とその一味と出るとはな)」

 

 タツミは表面上は親しげに声をかけてきた男の正体に内心でとても驚いていた。

 しかし以前にも宿屋の女主人が街の裏社会に君臨する人間だった事があったと思い返し、動揺は瞬間的に押さえ込む事に成功。

 妙な真似をしないかとわざわざ『A級冒険者』を名乗り、その後もそれとなく彼らの動向を見張っていた。

 

 最も多くしゃべっていた男はボロを出さなかった。

 しかし他の人間は落ち着きなさげですぐにでもこの場を離れたいという意識が、その行動の端々に感じ取れていた。

 

「タツミとオイチはよく彼らの正体に気付けたわねぇ」

「まぁこれでも色々と人生経験豊富ですので」

「笑みを浮かべて話しかけてくる悪党に騙された事もあるからな。人の裏にはそれなりに敏感なんだよ。それにトラノスケもヤツラの行動の不自然さには気付いてたぞ」

 

 ルンの呆れた風な視線と言葉に、タツミは苦笑いを、オイチは凄みのある微笑みを浮かべながら答える。

 

「私もそこそこ人の裏を読めると思ってたんだけど。少なくとも話してたあの男の人、全然そんな感じしなかったわよ?」

「おそらく俺が桁違いに強かったからここで何かするのを完全に諦めたんだろう。だからある種、開き直って普通に接してたんだ。少なくともあの発言や態度に裏はなかった」

「ですが周囲の方々はそうではありません。実際、彼以外の方はタツミ様に対して一見して警戒を解いているように見えましたが、それでも一定の距離以上、近づいてくる事も面と向かって会話をする事もありませんでしたし」

「(す、すごい、です)」

「ううむ。さすがだ」

 

 素直に感心するアーリとカロルに、ルンは頭痛を覚えたのか米神に手を当ててため息を零した。

 

 そして遠くから怒声と剣戟の僅かな音。

 そしてライコーが使用する召喚魔法の魔力の波動。

 次いで先ほどの僅かなやり取りで言葉を交わした男たちの悲鳴が聞こえてきた。

 

「片付いたみたいだな。さ、一先ず俺の家に入ろう」

 

 淡々と事が終わった事を告げ、タツミはさっさと村の中を移動し始め、仲間たちはそれに続く。

 道中で確認した民家の住人たちはいずれも何かに驚いた、あるいは逃げようとしたと推測出来る姿勢のまま石化していた。

 

 

 余談だがトラノスケたち3人によってひっ捕らえられた盗賊たちは、ライコーの召喚獣によってランドリオンに送り届けられている。

 但し書きには『この者たち、犯罪者につき』と達筆な字で書かれていたという。


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