EPISODE.34話〘絶望を切り裂く風と最強の合流〙
今回は3話分です。
1本目の前編です。
俺たちは今、轟怪猿モンギレイドとの討伐戦の渦中にいた。
「トレンさん、どう戦いますか! あのボス、動きが尋常じゃないっすよ!」
「回避が素早く、一撃が重い。二手に分かれて翻弄しながら隙を窺うぞ。指示を出す!」
俺は即座に陣形を指示した。
「リョウ、ナイトディラン、ヴェイルガーは右から! 俺とエアネス、ヴィーシュが左だ! 攻撃開始!」
俺たちの動きに合わせ、モンギレイドの鋭い眼光が左右に振れる。
奴はまず、右側のリョウたちを獲物と定めたようだ。
「まず、先手必勝っす! ナイトディラン、ヴェイルガー、俺が突っ込んで反撃を誘う。その隙を突いてくれ! いくぞ……【闘魂】! 【体術】超速! 懐に入ったぜ、喰らいな!【剣術】斬撃波!!」
リョウの鋭い一撃がモンギレイドの脚に命中し、巨体がわずかに揺らぐ。
そこへ逃さずナイトディランが追撃を叩き込んだ。
「グルルルワォォォォォォォォォン!!」
激しい雷撃がモンギレイドを包み込む。
「グボァァァァァァァァァァ!!」
回避の間に合わなかったボスが、苦悶の声を上げて大きくのけぞった。
「……けど、体力が多すぎるっすよ! 全然削れた気がしない!」
リョウが必死に応戦する横で、俺とエアネスは詠唱を完成させていた。
「「我が名はトレン(エアネス)。風の大精霊シルフフィムの名を授け、汝、二人の力を合わせ、鼓舞し、協力魔法を授けん!! 協力魔法――【メテオエアーウィンド】!!!」」
リョウたちが距離を取った瞬間、背後から放たれた巨大な風の塊がモンギレイドに直撃した。
凄まじい衝撃波が森を震わせるが、それでも奴のHPバーは二割ほどしか削れていない。
その時だった。モンギレイドが天を仰ぎ、耳を劈く雄叫びを上げた。
「グボァァァァァァァ!!!!!」
「まさか……仲間を呼んだのか!?」
「来るっす! 警戒を!」
三十体程度の増援を覚悟したが、現れた数はその予想を遥かに超えていた。
森の奥から、百体を超えるモンギニアの群れが俺たちを包囲していく。
「数が多すぎて……これじゃ無理っすよ、トレンさん!」
「諦めるな! リョウ、俺が道を切り開いてやる!」
「トレンさん、私も、ヴィーシュも一緒です。たとえどんなに不利でも、貴方と共に歩みます!」
「クヴァ!」
従魔たちの真っ直ぐな信頼が胸に刺さる。……だからこそ、ここで彼らを失うわけにはいかない。
死ぬなら、俺一人で十分だ。
俺には最大級のリスクと引き換えに放つ、禁断の奥義がある。
(……迷うな。今これを使わなきゃ、全員死ぬ)
「我が名はトレン。汝に命ずる。我が声に応え、その力を我に与えよ。対価として、我が血を授ける――汝、周囲を滅殺せよ!! 奥義【エクセルエアーストリームバースト】!!!」
それと同時に、俺は仲間たちを【トルネードエアー】の強固な防御壁の中に閉じ込めた。
「トレンさん、何してるんですか!? 出してください!!」
「トレンさん、どうして!? 一緒に戦うって約束したのに!!」
「ワォン!!」
「クヴァ!!」
檻の中から叫ぶ仲間たちに向け、俺は最後になるかもしれない笑みを浮かべた。
直後、戦場は荒れ狂う暴風の地獄と化した。
巨大な風の渦が百体以上のモンギニアとモンギレイドを巻き込み、無数の風の刃がその肉体を切り裂いていく。
「がはっ……!!」
代償は凄まじかった。奥義発動の条件として、俺のHPの七割が瞬時に消失する。
視界が真っ赤に染まり、膝をつきそうになるのを必死に堪えた。
嵐が止んだ時、モンギニアの群れは全滅していた。
ボスのモンギレイドもHPの六割近くを失いボロボロになっている。
だが――奴はまだ生きていた。
仲間の死に狂乱したモンギレイドが、凄まじい速度で俺に肉薄する。
「グググググボァァァァァァァァ!!!!!」
連打される拳を【エアーガードシールド】で防ぐが、HPを削られた今の俺には耐え切る力がない。
パキィィン! と乾いた音を立ててシールドが砕け、重い一撃が俺の腹部を捉えた。
「ぐ……あ……っ!!」
吹き飛ばされた俺の体は大木をへし折り、地面を転がった。全身を走る激痛。
最高潮の怒りに染まったモンギレイドは、近くの巨木を根こそぎ引き抜くと、俺めがけて豪速球のように投げつけてきた。
(……ここまで、か。でも、リョウたちは守れた。なら、いい……)
死を受け入れ、目を閉じた瞬間。
目の前で巨大な爆発音が響いた。
「……え?」
目を開けると、投げつけられた大木が空中で粉々に砕け散っていた。
「死なせないよ。なんとか間に合ったな。よくあいつを相手にここまで堪えたよ。トレン君、あとは俺たちに任せな」
「……イン……ザク、さん……?」
そこには、最強ギルド【光冥乃氷輪】のリーダー、インザクさんが立っていた。
「叫び声が聞こえたんだが、反対側にいてね。かなりの距離だったが、急いで駆けつけた。……さあ行くぞ、皆!」
「「「「了解!!」」」」
インザクさんの号令と共に、メンバーが動く。
「ウルティ! トレン君たちの回復を頼む!」
「我が名はウルティ。大天使ベルファーの加護を。癒しの旋律よ、我らに降り注げ――【ヒールリフレイン】!!」
慈愛に満ちた光が俺たちを包む。一瞬にして体力が全快し、傷が跡形もなく消え去っていく。
これが最上位職【大聖女】の力か。
「さっきは後輩に手を出してくれたな。いくぜ、野郎。最上級職――【武神】の力、拝ませてやるよ。「聖神速」!」
メンバーの一人、バラムさんが目にも止まらぬ速さでモンギレイドの死角に回り込む。
「喰らいな……【覇王】の奥義。「煉撃烈破覇王連拳波」!!!」
ドォォォォォォン!!!
渾身の連撃がモンギレイドに叩き込まれた。
たまらず後退するボス。
しかし、奴は再び天に向かって吠えた。
「グボァァァァァァァ!!!!!」
「まさか、またモンギニアっすか!?」
絶望するリョウに、俺は首を振って答えた。
「違う……来るぞ、上位個体『モンギベクドム』だ!! しかも三体!」
俺の警告と同時に、凄まじいプレッシャーを纏った三体の巨影が現れる。だが、それを見たインザクさんたちは不敵に笑った。
「なーに、俺ら三人で十分だよ。ヒエイ、ソーム、ここからは一対一のガチンコ勝負だ。いくぞ!!!」
「「了解!!」」
最強の護衛たちが、それぞれ上位個体へと跳躍する。
本当の激戦は、ここからだった
今回の轟怪猿モンギレイド編を3話に分けています。
前編をお送りしました。
次回は中編です。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。




