EPISODE.309話〘封印していた闘争心――それぞれの本当の試練〙
いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、グラディア山岳の頂上に残された六人が、予想外の奇襲を受けるところから始まります。
トレンとリョウがいない状況の中、六人はどのように立ち向かうのか。
そして、これまでとは違う一面を見せ始める者も――。
今回も最後までお楽しみいただけましたら幸いです。
トレンとリョウ、そして十体の従魔たちがヴィネギアオリズの【魔空陣・転移】によって姿を消した後――。
グラディア山岳の頂上に残されたナナ、マイ、ナギサ、バレグ、サンオン、バウトの六人は、その場から動くことが出来ずにいた。
魔神四天王ヴィネギアオリズ。
あまりにも凄まじい威圧を前に、自分たちは何も出来なかった。
トレンとリョウが連れ去られるのを、ただ見ていることしか出来なかった。
六人の中で、それぞれの想いが交差する。
その時だった――。
「ガォォォン!!」
突然、ファルギマが激しい咆哮を上げた。
「!?」
全員がファルギマへ視線を向ける。
だが、ファルギマは上空の一点を鋭く睨みながら、明らかな警戒を示していた。
するとエルマが、すぐにバレグへ叫ぶ。
「バレグ様! ファルギマが【零結氷壁】を使ってと言っています!」
「わかりました! ファルギマ【零結氷壁】!!」
ファルギマが即座にスキルを発動する。
巨大な氷壁が六人を包み込むように展開された――その直後。
ズドドドドドォォォォォォーン!!
「なっ!?」
凄まじい攻撃が【零結氷壁】へ直撃した。
山岳の頂上全体へ激しい衝撃が走る。
だが――。
ファルギマが展開した【零結氷壁】は、主であるバレグだけではなく、その場にいた仲間たち全員を護り切った。
「一体、何が……!?」
ナナたちが周囲を警戒する中、サンオンとバウトは即座に【鑑定】を発動した。
そして――。
「なっ! 嘘でしょ……」
サンオンが驚きの声を上げる。
バウトも一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに鑑定結果へ視線を戻した。
「【霊神翼鳥ルガーベーシュ】……グラディア山岳の頂上にいるボスですよ」
「「「「頂上のボス!?」」」」
ナナ、マイ、ナギサ、バレグの四人が驚愕する。
「まさか、いきなり奇襲してくるなんてね……」
サンオンはそう言いながら、すぐに周囲へ視線を巡らせた。
「予想外な展開ですが、今は警戒した方がよさそうですね」
バウトも冷静に周囲を警戒する。
トレンとリョウが消えた直後――。
今度はグラディア山岳の頂上ボスから突然の奇襲。
六人にとって、あまりにも予想外な展開だった。
だが――。
マイだけは違っていた。
ヴィネギアオリズが言った言葉が、今も胸の奥に突き刺さっていた。
「他の奴らに興味無いからな」
あの一言。
相手にすらされなかった。
これまで様々なゲームをやり込み、昔はプロ並みのゲーマーとして戦っていた自分が――。
このゲームでは、何も出来なかった。
トレンとリョウが連れ去られるのを、ただ見ていることしか出来なかった。
その事実が、マイには何よりも屈辱だった。
マイは静かに視線を動かす。
エルマ。
グラネス。
ネモル。
今の自分には、一緒に戦ってくれる大切な従魔たちがいる。
そして――。
ナナたち、大切な仲間もいる。
マイは静かに武器を握り締めた。
「今度こそ、自分の力で大切な仲間と従魔を護る。そのためなら昔の自分の力も全部使う」
その瞬間――。
心の奥底に眠っていた、かつての闘争心が再び目を覚ました。
マイは装備を切り替える。
両手に現れたのは――。
【黎水氷霊帝無双剣】
そしてエルマ、グラネス、ネモルへ視線を向けた。
「エルマ、グラネス、ネモル。行くわよ!」
三体は力強く頷く。
「エルマ【風鎌鼬】! グラネス【大地の轟鎚】! ネモル【聖光盾】!」
エルマが【風鎌鼬】を発動する。
鋭い真空刃が幾重にも放たれ、ルガーベーシュへ襲い掛かった。
続いてグラネスは両手に握ったハンマーを勢いよく地面へ叩きつける。
「【大地の轟鎚】!!」
ズドォォォン!!
地面が激しく震え、ルガーベーシュへ向かって剣山のような鋭い岩石が次々と突き上がっていく。
そしてネモルは、マイを護るように【聖光盾】を展開した。
三体が一斉に動いた瞬間――。
マイも地面を蹴った。
「【双剣鎌鼬】!!」
【黎水氷霊帝無双剣】から放たれた鋭い斬撃が、エルマとグラネスの攻撃へ重なるようにルガーベーシュへ襲い掛かる。
ナナは驚いていた。
普段のマイとは明らかに違う。
ナナがこれまで知っていたマイとは、明らかに違っていた。
今は――。
マイ自らが先頭へ飛び出し、迷うことなく攻撃を仕掛けている。
ナナが初めて見るマイの姿だった。
だが――。
マイは攻撃の手を止めない。
むしろ戦えば戦うほど、集中力がさらに高まっていく。
周囲の音が少しずつ遠ざかる。
視界に映るのは、ただ一体。
【霊神翼鳥ルガーベーシュ】
昔――。
何度も強敵へ挑み続けていた頃の感覚が、少しずつ蘇ってくる。
プロ並みのゲーマーとして戦っていた頃の――。
本来のマイが。
「まだよ。霊神翼鳥ルガーベーシュ!! 【水幻天翔双剣】!!」
スキルを発動した瞬間――。
マイの隣へ、もう一人のマイが姿を現した。
二人のマイが同時に地面を蹴る。
左右からルガーベーシュへ一気に迫り、二振りの双剣による高速連撃を次々と叩き込んでいく。
「グガァァァァァ!!」
ルガーベーシュが激しい咆哮を上げる。
そのまま翼を大きく振り抜き、マイへ反撃を仕掛けた。
だが――。
マイは、その攻撃が来る前から身体を動かしていた。
紙一重で翼撃を回避する。
(……この感覚)
久しぶりだった。
次にどこから攻撃が来るのか。
どの瞬間に仕掛けてくるのか。
どこへ身体を動かせば回避出来るのか。
考えるよりも先に、身体が理解している。
マイの中で、昔の戦闘感覚がはっきりと戻り始めていた。
だが――。
次の瞬間。
「グガァァァァァァァァ!!」
ルガーベーシュが凄まじい咆哮を上げる。
その様子が一変した。
狂乱状態――。
ドッシュッ!!
「消えた!?」
ナナが驚きの声を上げる。
だが、消えたわけではない。
ルガーベーシュは凄まじい高速飛行で上空を駆け巡り、六人を狙っていた。
その動きを、マイだけは見失っていなかった。
「ナナ! ストムに【大地の地盾】! ナギサ! ナギアに【陽炎】! バレグ! ファルギマに【零結氷壁】! サンオン! ミューローズに【影分身】! バウト! ルーレイに【闇分身】!」
五人はマイの指示へ即座に反応した。
「ストム! 【大地の地盾】!!」
「ナギア! 【陽炎】!!」
「ファルギマ! 【零結氷壁】!!」
「ミューローズ! 【影分身】!!」
「ルーレイ! 【闇分身】!!」
五体の従魔たちが一斉にスキルを発動する。
ストムとファルギマが防御を展開し、ナギアの【陽炎】、ミューローズとルーレイの分身がルガーベーシュの狙いを惑わせる。
ルガーベーシュは高速飛行のまま何度も攻撃を仕掛ける。
だが――。
五体の従魔たちは、それぞれのスキルを駆使してルガーベーシュの高速攻撃を凌ぎ切っていった。
その間――。
マイは攻撃へ参加しなかった。
【黎水氷霊帝無双剣】を静かに構え、自らの存在感すら消すように集中を深めていく。
さらに深く。
さらに鋭く。
ただ一撃だけを狙うように――。
その姿を見ていたナナが気付いた。
マイが何をしようとしているのか。
「みんな! マイが一撃に集中してる! 私たちでルガーベーシュを引き付けるわよ!!」
「「「「了解!!」」」」
五人は即座にルガーベーシュへ向き直った。
すると――。
ルーレイとミューローズが、何かを訴えるようにそれぞれの主を見つめていた。
その意味を察したサンオンが、バウトへ声を掛ける。
「バウト、ミューローズがルーレイと同じ闇魔術を同時に放ちたいって言っています」
「わかりました。やりましょう」
サンオンとバウトは同時に頷く。
そして、それぞれルーレイとミューローズへ視線を向けた。
二人は同じ詠唱を同時に唱える。
「「漆黒の闇より新たな力を解放し、大精霊アゼルオメガの力を我に宿せ。降臨魔術を解放せよ!【ダークシャドーブラスターストーン】!!」」
ルーレイ。
そしてミューローズ。
二体がそれぞれ【ダークシャドーブラスターストーン】を発動した。
次の瞬間――。
高速飛行を続けていたルガーベーシュを囲むように、二つの巨大な漆黒の半球が形成される。
「グガァッ!?」
直後――。
ドドドドドドォォォォォォン!!
漆黒の半球内部の地面から、無数の闇雷が一斉に噴き上がった。
逃げ場を塞ぐように次々と放たれる闇雷。
二つの【ダークシャドーブラスターストーン】が、それぞれルガーベーシュを捉える。
ズドォォォォォォーン!!
「「グガァァァァァァァ!!」」
二つの攻撃が立て続けに直撃したルガーベーシュは、大ダメージを受け、そのまま地面へ叩き落とされた。
「やった!?」
ナナが声を上げる。
ルガーベーシュは大ダメージを受け、その場から動かなかった。
だが――。
次の瞬間。
「グガァァァァァァァァァ!!」
ルガーベーシュが再び凄まじい咆哮を上げた。
その全身から、先程よりも濃い漆黒のオーラが溢れ出していく。
そして――。
ルガーベーシュの中で、眠っていた力が開放された。
次の瞬間。
凄まじい威圧がグラディア山岳の頂上全体へ広がった。
「……ッ!!」
ナナ、ナギサ、バレグの三人は、その威圧をまともに受けて身体を強張らせる。
息が詰まり、身体が僅かに震えていた。
だが――。
マイは動じなかった。
エルマ、グラネス、ネモルも同じだった。
マイの視線は、ただルガーベーシュだけを捉えている。
サンオンとバウトも、ルガーベーシュの威圧に呑まれることなく集中を切らしていなかった。
「……凄い威圧ですね」
「ええ。でも、ここで怯んでいる場合じゃありません」
サンオンとバウトは、それぞれ武器を構え直した。
一方――。
マイは何も言わない。
静かに【黎水氷霊帝無双剣】を構えたまま、さらに集中を深めていた。
今のマイには――。
ルガーベーシュの威圧すら届いていなかった。
こうして――。
【霊神翼鳥ルガーベーシュ】との第2ラウンドが始まるのであった。
だが――。
この時の六人は、まだ知らなかった。
この戦いの先に――。
さらなる予想外の出来事が待ち受けていることを。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、グラディア山岳の頂上に残された六人が、【霊神翼鳥ルガーベーシュ】との戦いに挑むお話となりました。
魔神四天王を前に何も出来なかった悔しさから、マイの中で眠っていた闘争心と、かつての戦闘感覚が再び目覚め始めます。
さらに、サンオンとバウトの従魔たちによる連携攻撃で戦況が動く中、ルガーベーシュも新たな力を解放しました。
ここから六人は、強敵を相手にどのような戦いを見せるのか。
次回もお楽しみいただけましたら幸いです。
ブックマークや評価などで応援していただけると、とても励みになります。
これからも『VRMMOでスローライフするつもりがなぜかソロ最強プレイヤー?』をよろしくお願いいたします。




