EPISODE.302話〘始まりの街への準備――集う八人の始動〙
まさかの偶然から、俺たちは現実でも繋がる事になった。
そしてそのまま、リモートで繋がっている三条社長と武藤さんを含め、八人で話を続けていた。
そんな中、俺は二人に気になっていた事を聞く。
「そういえば三条社長、武藤さん。あの種と苗はどうなりました?」
「あの種と苗ですか?」
「火の精霊の里で見つけた【火霊樹の種】と【火臨樹の苗】です。」
「ああ、あれですね。」
武藤さんが先に口を開いた。
「【火臨樹の苗】は植えようとしたのですが、その時フィーレイが何かを訴えてきまして。そのまま苗を持っていって、植える場所を指定されたんです。」
「指定? フィーレイが? それで、どこに植えたんですか?」
「【鍛冶錬金工房】の近くに植えました。ですが、そのあとも何かを訴えているんです。何を伝えたいのか分からなくて困っていまして……。」
その話を聞いていた西石部長が口を開く。
「もしかして、フィーレイが訴えているのは【火属肥料】の事じゃないですか?」
「【火属肥料】ですか?」
武藤さんは少し考える。
「確かに、お二人に火の精霊の里へ連れて行ってもらった時に採取しましたね。」
「多分それだと思いますよ。こっちの七瀬社長と井野秘書も、似たような状況だったから。」
「え? 七瀬社長たちもですか?」
すると七瀬社長が口を開いた。
「私たちは【水臨樹種】なの。ホームに植えたんだけど、【水属肥料】が10袋必要なのよ。」
「10袋ですか……。」
「フィーレイが何かを訴えているなら、【火属肥料】を撒いてほしいのかもしれないな。」
俺がそう話すと、武藤さんは納得したように頷いた。
俺は続けて三条社長にも聞く。
「そういえば三条社長。【火霊樹の種】の方はどうなりました?」
「あれなら、もう植えましたよ。」
「もう植えたんですか?」
「はい。武藤と同じで、セラヴァルから【鍛冶錬金工房】の近くに植えるように指示されたので、そこに植えました。」
「三条社長の方も同じ場所だったのか。」
「それから【火属肥料】も10袋撒きましたよ。」
「え?」
俺と西石部長は思わず三条社長を見る。
「セラヴァルが何を訴えているのか分かったんですか?」
「はい。ジェスチャーで分かりましたよ。」
三条社長は何事もなかったように答えた。
「ジェスチャーだけで分かったんですか?」
「ええ。」
三条社長は少し考えると、武藤さんへ聞いた。
「武藤。もしかしてフィーレイは、地面を指差したあと、袋を持つような仕草をして、それから【火臨樹の苗】を指差しませんでした?」
武藤さんは驚いた表情を浮かべる。
「まさにその通りです、社長。」
「やっぱり。セラヴァルも同じようなジェスチャーをしていましたよ。」
俺はそのやり取りを聞きながら、思わず呟く。
「凄いな……。」
だが、どうしてそこまでジェスチャーだけで理解出来たのか気になった。
「三条社長、どうしてジェスチャーだけで、そこまで理解出来るんですか?」
「ああ、それですか。実は昔から手話を趣味で覚えていたんですよ。」
「手話ですか?」
「はい。それと、体を動かしてジェスチャーやポーズで操作する体感型ゲームもよく遊んでいました。だから相手が何を伝えたいのか、仕草から考えるのが得意なんですよ。」
「それでセラヴァルの訴えも分かったんですね。」
「そういう事です。」
「……凄すぎる。」
俺は思わずそう呟いた。
武藤さんも苦笑いを浮かべる。
「自分は全然分かりませんでしたよ。」
その後、俺たちは始まりの街のエリアボス討伐に向けて、次にログインする日程を決めた。
話し合いを終えると、三条社長と武藤さんとのリモートを終了する。
俺と西石部長も、その後自宅まで送ってもらい解散した。
自宅へ戻った俺は、夕食と入浴を済ませたあと、ゲームへログインした。
俺はまず、まだ孵化していない従魔の卵たちのところへ向かう。
【聖獣ユニコーンの卵】
【聖黎海オリンヴァイアの卵】
【聖黎天ルークラムの卵】
【雷の精霊の卵】
そして、オークションで落札した紫色の謎の従魔の卵。
どの卵も、まだ孵化する様子はなかった。
「結構時間かかるんだね。それぞれの孵化は本当に違うんだな。」
俺は従魔の卵たちへ近づくと、それぞれに優しく触れる。
「楽しみに待ってるよ。」
そう声を掛けたあと、俺は【鍛冶錬金工房】へ向かった。
工房へ入ると、俺はマジックボックスからある五種類の鉱石を取り出した。
作業台の上へ並べ、しばらく眺める。
そして――。
「製作するか。」
俺は気持ちを切り替え、集中する。
誰もいない工房の中で、俺は一人で五種類の鉱石を使い製作を開始した。
それから数時間後――。
キィィィン――。
完成した。
俺は完成した物を確認すると、そのままマジックボックスへ収納した。
その後、俺はログアウトして就寝したのであった。
翌日――。
朝起きて会社へ向かう準備をしていると、井澤社長から連絡が入った。
「おはようございます、東条本部長。今日の勤務について連絡があります。」
「おはようございます。どうしました?」
「今日は会社へ来なくて大丈夫です。自宅からリモート勤務をお願いします。西石部長にも同じように連絡しています。」
「わかりました。」
すると井澤社長は、昨日の話について続ける。
「それと昨日、私が提案した八人のグループチャットも作成しておきました。これなら全員で連絡を取りやすいですから。」
「ありがとうございます。確認しておきます。」
電話を切った俺は、送られてきたグループチャットを確認する。
参加しているのは俺、西石部長、井澤社長、馬場本部長、七瀬社長、井野秘書、三条社長、そして武藤さんの八人だった。
そういえば、三条社長と武藤さんは仕事の方は大丈夫なのだろうか?
俺が気になってグループチャットで聞くと、直ぐに三条社長から返事が来た。
三条社長と武藤さんは、二人共二週間の有給休暇を取ったそうだ。
しかも三条社長は会長である父親に相談したところ、
『たまには休め。』
とあっさり了承されたらしい。
(本当に大丈夫なんだな……。)
俺は少し驚きながらも、そのままグループチャットを確認する。
しばらくすると、今度は井澤社長からメッセージが届いた。
『それじゃ、予定通り今日は全員ログインしましょう。』
西石部長、七瀬社長、井野秘書、馬場本部長、三条社長、武藤さんからも次々と返事が届く。
俺も、『了解です。』と返信した。
続いて、ゲーム内での合流場所について話し合う。
そして――。
八人の合流場所は【始まりの街】の中央噴水広場に決まった。
『それじゃ、ログインしたら中央噴水広場で集合しましょう。』
全員から了承の返事が届く。
俺はグループチャットを閉じると、少しだけ気持ちを引き締めた。
いよいよ八人で、始まりの街のエリアボスへ向けて動き出す。
こうして俺たちは、それぞれログインして【始まりの街】の中央噴水広場へ集まる事になったのであった。




