EPISODE.262話〘二人で始めるVRMMO――進捗状況1%が変えた二人の遊び方〙
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は引き続き、ナナとマイのSideストーリーとなります。
二人が初めてVRMMOの世界へ足を踏み入れ、どのようにゲームを楽しんでいったのか。
そして、初イベントで気付くことになる新たな遊び方にも注目しながら、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、EPISODE.262話をお楽しみください。
麻衣が見せてきた画面には、これまでのゲームとは全く違う、次世代VRMMOゲームの記事が表示されていた。
専用の本体機を使用し、まるで本当にその世界へ入ったような感覚でゲームを楽しめるらしい。
だけど、誰でもすぐに購入出来る訳ではなかった。
販売方法は――抽選のみ。
しかも、応募者が殺到しているらしく、現在の当選倍率は約四百倍と書かれていた。
「四百倍……これ、本当に当たるの?」
「かなり厳しいわね。でも、応募しないと当たらないでしょ?」
「それもそうね」
私は少し考えた後、麻衣を見る。
「麻衣、応募するわよ」
「もちろん。そのつもりで麗花に見せたんだから」
こうして私たちは、その次世代VRMMOゲームの抽選販売へ応募する事にした。
正直、当たるとは思っていなかった。
四百倍なんて倍率を見せられたら、期待する方が難しい。
そして数日後――。
仕事をしていると、突然麻衣が慌てた様子で私の所へやって来た。
「麗花!」
「どうしたのよ。そんなに慌てて」
「当たったわ」
「何が?」
「VRMMOよ! 抽選、当選したの!」
「え?」
私は一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
「本当に?」
「本当よ。ほら」
麻衣がスマホの画面を私に見せてくる。
そこには確かに、当選を知らせる通知が表示されていた。
「凄いじゃない、麻衣!」
「麗花も確認してみなさいよ」
「私? 流石に二人とも当選なんて――」
そう言いながら、私もスマホを確認する。
そして――。
「……え?」
「どうしたの?」
「私も……当たってる」
「「…………」」
私たちはしばらく無言で画面を見つめていた。
そして数秒後――。
「「えええええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!」」
まさか、約四百倍の抽選に二人とも当選するなんて思ってもいなかった。
こうして私と麻衣は、一緒に次世代VRMMOを始められる事になった。
当選から数日後。
今度は運営会社の社員が自宅へやって来た。
来たのは二人。
一人がゲームを利用する上での注意事項や契約内容、禁止事項などを一つ一つ丁寧に説明し、もう一人は隣でパソコンへ何かを入力していた。
説明はかなり細かかった。
ゲーム内でやってはいけない事。
プレイヤー同士のトラブルについて。
本体機を使用する際の注意。
そして何か問題が発生した場合は、すぐに運営へ連絡する事。
私は説明を聞きながら、必要な手続きを全て済ませた。
麻衣の家にも同じように運営会社の社員が来たらしい。
そして――。
当選通知から一ヶ月後。
ついに自宅に荷物が届いた。
箱を開けると、中にはVRMMOゲームソフトと専用本体機が入っていた。
「これが……」
思っていたより大きな本体を見ながら、私は少し緊張していた。
普通のゲームなら麻衣に教えてもらいながら何度も遊んできた。
だけど、VRMMOゲーム自体は初めてだ。
私は麻衣へ連絡しながら、本体の設定を進めていった。
「麻衣、ここの設定はこれでいいの?」
『それで大丈夫よ。次に本体側の設定を確認して』
「これね……分かったわ」
麻衣に教えてもらいながら、一つずつ設定を進めていく。
そして数十分後――。
「……よし、設定完了したわね」
『こっちも終わったわよ』
「それじゃ、先に決めていた通りゲーム内では私はナナね」
『私はマイ。向こうで会いましょう』
「分かったわ」
通話を終え、私は本体へ視線を向けた。
少しだけ深呼吸する。
「さて、始めるわよ――起動っと」
本体を起動する。
次の瞬間――。
視界が一瞬真っ白になった。
そして再び見えるようになった時、私は見知らぬ立体的な空間に立っていた。
「……え?」
周囲を見渡す。
真っ白な空間。
だけど、自分の身体を動かしてみると、普通に立っている時とほとんど変わらない。
手を握る。
開く。
足を動かす。
「凄い……本当に中へ入ってるみたい」
私が驚いていると、目の前に一人の人物が現れた。
どうやらチュートリアルを担当するNPCのアバターらしい。
『初めまして。これより初期設定及びチュートリアルを開始致します』
「よろしくお願いします」
説明に従い、まずはプレイヤー名を設定する。
もちろん名前は、事前に決めていたものだ。
【ナナ】
続いて職業選択画面が表示された。
「……何これ」
私は思わず声を漏らしてしまった。
そこには、想像していた以上の数の職業が表示されている。
大きく分けると戦闘職と生産職。
だけど、その中からさらに多くの職業へ分かれていた。
「いろんな職業があるんだな」
どれにするか迷う。
剣を使う職業。
槍を使う職業。
弓を使う職業。
魔法を使う職業。
それ以外にも、生産を専門にする職業がいくつもあった。
私はしばらく悩んだ末、一つの職業を選んだ。
「よし。私はこれにするわ」
【魔法使い】
選択を確定する。
次に表示されたのは、初期ボーナスポイントについてだった。
『初期ボーナスポイントはランダムで決定されます。ポイントを各能力値へ振り分ける前であれば再抽選が可能です。ただし、再抽選は最大五十回までとなります』
「ランダムなのね」
画面には最初の数字が表示される。
私は少し考える。
まだやり直せる。
それなら、ある程度良い数字が出るまでやってみてもいいかもしれない。
「五十回までなのね……まあ、百が出るまでずっとやり直す人もいそうだものね」
私は再抽選を始めた。
だけど、思っていたほど高い数字は出ない。
何度も繰り返す。
二十回。
三十回。
四十回。
「……なかなか出ないわね」
そして――。
四十六回目。
画面に表示された数字を見て、私は固まった。
【98P】
「……98?」
思わず画面を二度見する。
残りは四回。
これ以上を狙う必要はない。
「よし、これで決めるわ」
私は98Pで確定した。
次はスキルの習得だ。
魔法使いを選んだ以上、色々な属性を使ってみたい。
私は一覧を確認しながら、
【火属性】【水属性】
【風属性】【土属性】
の四つを習得した。
四属性の習得で40Pを使用。
残ったのは58P。
その58Pを、自分なりに各ステータスへ振り分けていく。
そして全ての初期設定が完了した。
『初期設定が完了しました。これよりゲーム開始地点へ転送致します』
「いよいよね」
再び足元が光り始める。
視界が真っ白になり――。
次の瞬間。
私は大きな噴水の前に立っていた。
「……わぁ」
思わず周囲を見渡す。
目の前には石造りの街並み。
多くのNPCやプレイヤーが行き交っている。
空を見上げれば青空が広がり、噴水から流れる水の音まで本物のように聞こえてくる。
「ここがスタート地点みたいね」
周囲では、私と同じように光に包まれながら次々とプレイヤーが転送されてきていた。
「他のプレイヤーも同じ場所から始まるみたいね」
私はその場で麻衣を待つ事にした。
事前にお互いのゲーム内での名前は伝えてある。
しばらく周囲を眺めながら待っていると――。
「ナナ、待たせたわね」
聞き慣れた声がした。
振り返ると、弓を持った女性プレイヤーがこちらへ歩いて来る。
「マイ!」
「杖を持っていたから、すぐに分かったわよ」
「マイも弓を持ってるから分かりやすいわね」
私たちは顔を見合わせて笑った。
現実では七瀬麗花と井野麻衣。
だけど、この世界では――ナナとマイ。
「それじゃ冒険者ギルドに登録しに行きましょう」
「そうね。まずはそこからね」
こうして私とマイのVRMMO生活が始まった。
冒険者ギルドへ向かい、登録手続きを済ませる。
最初の目的は、とにかく資金を集める事だった。
装備も初期装備。
強い敵と戦えるほど、まだレベルも高くない。
だから私たちは、自分たちでも倒せそうな魔物の討伐依頼を受ける事にした。
最初は戦うだけでも大変だった。
私は魔法を使うタイミングを間違える。
敵との距離を詰められて慌てる。
そんな私を、ゲーム経験の長いマイが何度も助けてくれた。
「ナナ、後ろ!」
「分かってるわよ! 【火属性】ファイヤー!」
「遅いって!」
「仕方ないでしょ、まだ慣れてないんだから!」
それでも何度も戦っている内に、少しずつ動けるようになっていった。
討伐依頼を達成する。
報酬を受け取る。
資金が貯まれば、新しい装備を購入する。
それまで使っていた装備は売却して、また次の装備を買うための資金にする。
装備が強くなれば、少し難しい討伐依頼へ挑戦する。
そしてレベルを上げる。
また資金を貯める。
新しい装備を買う。
私とマイは、その繰り返しを楽しんでいた。
「マイ、次はこの討伐依頼にしましょう」
「さっきより少し強い敵だけど大丈夫?」
「装備も変えたんだから、やってみないと分からないでしょ」
「完全にやり込んでるわね、ナナ」
「マイに言われたくないわよ」
二人で笑いながら、また次の依頼へ向かう。
そんな日々が続いた。
ギルドでクエストを受ける。
魔物を倒す。
レベルを上げる。
装備を整える。
そして、討伐依頼を繰り返していく内に、冒険者ギルドランクも10まで上がっていた。
私たちは、それがこのゲームの普通の遊び方なのだと思っていた。
そんなある日の事だった。
突然、システムから大きな告知が表示された。
【初イベント開催のお知らせ】
「マイ、イベントですって」
「見てるわよ。初イベントね」
内容を確認する。
参加するプレイヤーは、【討伐型】と【生産職型】のどちらかを選択するらしい。
「どっちにする?」
「そうね……私たち普段は討伐依頼ばかりじゃない?」
「確かにそうね」
「せっかくの初イベントなんだから、今回は違う方にしてみない?」
「生産職型?」
「そう。何をするのか分からないけど、その方が面白そうじゃない?」
私は少し考えた。
いつもと違う事をやってみるのも悪くない。
「いいわね。それじゃ生産職型にしましょう」
「決まりね」
私たちは生産職型でイベントへ参加する事にした。
そしてイベント当日――。
システムのカウントダウンが始まる。
【10……9……8……7……】
「いよいよ始まるわね、マイ」
「そうね。初イベントなんだから楽しみましょう、ナナ」
【3……2……1……0】
【転送開始】
身体が光に包まれる。
そして私たちは、イベント専用マップへ転送された。
説明によれば、私たちは生産職型の第1グループ。
一つのグループは二十人。
プレイヤーはそれぞれ別の場所へ分散されているらしい。
私とマイは一緒に街へ向かう事にした。
しばらく歩き続け、ようやく街へ到着する。
「やっと着いたわね」
「結構歩いたわね……それで、依頼クエストはどこかしら?」
「冒険者ギルドみたいな場所を探してみましょう」
私たちは街の中を歩き回った。
だけど――。
何も起きない。
NPCへ近付いても、依頼が表示される訳でもない。
それらしい場所を探しても、クエストが発生しない。
「……おかしいわね」
「そうね。街まで来れば何か依頼が発生すると思ってたんだけど」
「私もそう思ってたわ」
今までなら、冒険者ギルドへ行けば依頼があった。
依頼を受けて、目的を達成する。
だから今回も同じだと思っていた。
だけど、いくら探しても何も発生しない。
「どうやって進めるのよ、このイベント」
「何か条件があるのかもしれないわね」
二人で考えながら街を歩いていた――その時だった。
突然、システムアナウンスが流れた。
【依頼クエスト完了】
【進捗状況:1%】
「「え?」」
私とマイは同時に立ち止まった。
「今……1%って出たわよね?」
「ええ。誰かが依頼クエストを達成したって事よね」
「でも、私たち全然依頼を見つけられてないわよ?」
マイは少し考えながら、周囲のNPCたちへ視線を向けた。
そして――。
「……ナナ。もしかして、私たち考え方が違うんじゃない?」
「どういうこと?」
「今までみたいに、用意されている依頼を探すんじゃないのかもしれない」
「じゃあ、どうやって?」
「例えば、自分からNPCに声を掛けるとか、お店で何かを買うとか、困っている人を助けるとか……そういう行動から依頼が発生するんじゃないかしら?」
私はその言葉を聞き、もう一度街を見渡した。
普通に歩いているNPC。
店で商品を売っている人。
荷物を運んでいる人。
今までは、ただの街の風景としてしか見ていなかった。
「……なるほどね」
「可能性はあると思うわ」
「つまり、今までみたいにギルドで依頼を受けるだけじゃ駄目って事かもしれないのね」
「そういう事だと思う」
私は少しだけ笑った。
「だったら、やってみましょう」
「ええ。まずは色々な人に話を聞いてみましょうか」
私とマイは、今度は依頼を探すのではなく、自分たちから街の人たちへ声を掛けてみる事にした。
この時の私たちは、まだ知らなかった。
今、私たちの目の前に表示された――。
【進捗状況:1%】
その最初の1%を進めた二人のプレイヤー。
その二人こそ――。
このイベントで、のちに私とマイが初めて出会う事になる【トレン】と【リョウ】だったことを――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、ナナとマイが次世代VRMMOへ当選し、初めてゲームの世界へ足を踏み入れてから、初イベントへ参加するまでを描きました。
二人はこれまで、冒険者ギルドで依頼を受け、レベルを上げ、装備を整えながら進んでいくことが、このゲームの普通の遊び方だと思っていました。
ですが、初イベントで表示された【進捗状況:1%】をきっかけに、依頼を待つのではなく、自分たちからNPCへ声を掛けたり、困っている人を助けたりすることも大切なのではないかと気付き始めます。
そして、その最初の1%を進めたプレイヤーこそ、のちに二人が出会うことになるトレンとリョウでした。
次回も引き続き、ナナとマイのSideストーリーを描いていきますので、二人がトレンとリョウとの出会いを経て、どのように変わっていくのか楽しみにしていただけたら嬉しいです。
最後になりますが、ブックマークや評価、ご感想をいただけますと、今後の執筆の励みになります。
これからも『VRMMOでスローライフするつもりがなぜかソロ最強プレイヤー?』をよろしくお願いいたします。




