EPISODE.136話〘デヴァランザ山岳の異変と精霊達〙
指名依頼を受けた俺たちは、東南に位置する『デヴァランザ山岳』へ向けて出発した。
話によると、スヴァログの街から二日ほど掛かる距離らしい。
途中にある中継地点『クラムヴァの街』で一泊し、翌日にデヴァランザ山岳へ向かう予定だ。
俺たちは街道を進みながら、クラムヴァの街を目指した。
……ちなみに道中は察して欲しい。
【翠烈陣氷帝】のメンバーたちが現れた魔物を片っ端から殲滅していった。
だから俺たちをVIP扱いしないでくれぇぇぇぇぇ!!
トレンは心の中で全力の雄叫びを上げるのだった。
数時間後――。
俺たちはクラムヴァの街へ到着し、その日は宿屋で休息を取った。
翌日。
宿屋を後にした俺たちは、デヴァランザ山岳へ向けて再び出発する。
さらに数時間後――。
ついにデヴァランザ山岳の入口へ到着した。
[確か、山岳の中腹辺りに洞窟があるってギルド長が言ってたな]
[そうっすね。とりあえず、まずはそこまで向かうっす]
[俺たちも同行してるんだ。気楽に進もうぜ、トレン、リョウ]
無理無理無理無理無理!!
気楽に行けるかぁぁぁぁぁっ!!
俺は心の中で全力ツッコミを入れた。
そして数時間後――。
俺たちは山岳の中腹へ到着した。
周囲を見渡していると、奥に洞窟を発見する。
その瞬間、トレンとリョウは即座にスキルを発動した。
[[【捜索】【鑑定】]]
だが次の瞬間、二人の表情が険しくなる。
[……おかしい]
[敵の気配が全然無いっすね……]
[洞窟の中どころか、山岳に入ってから魔物の反応すらない。嫌な予感しかしないぞ]
その言葉に【翠烈陣氷帝】の面々も周囲を警戒し始めた。
[ギールオルドラ……まさか、“アイツ”がいるんじゃないだろうな?]
ヴァイザーが低い声で呟く。
すると次の瞬間――ミューレイミが険しい表情で口を開いた。
[……おかしいわ]
[ミューレイミさん?]
[この辺りにいるはずの精霊たちの気配がしないのよ]
[[……え?]]
トレンとリョウが同時に驚く。
[ミューレイミさん、この山岳に精霊たちがいるんですか?]
[ええ。この先には火の精霊たちが暮らしている場所があるの。でも……こんな事、今まで一度も無かったわ]
[もしかして、火の精霊の里があるんですか?]
するとミューレイミは静かに首を横へ振る。
[……ごめんなさい。私も詳しい場所までは知らないの。確かに私は火の大精霊イフリードライム様から加護を受けているけど、里へ行った事は無いのよ]
その瞬間――。
[っ!? 来るぞ!!]
トレンが叫ぶ。
同時に、巨大な炎弾が上空から襲来した。
[リョウ!!]
[了解っす!! ペルナギ! サクメ!]
[[【防圧壁】【水斬撃】!!]]
水属性の防壁が瞬時に展開され、巨大炎弾を正面から受け止める。
轟音と共に炎が弾け飛んだ。
その直後、トレンとリョウは【捜索】と【鑑定】を同時発動する。
そして――敵の正体を視認した瞬間、二人は戦慄した。
[……嘘だろ]
[黎極麗火獣……ヴォルレッグタイガー……!]
その名に、ギールオルドラが目を見開く。
[なんだと!? アイツは本来、山岳頂上付近にしか現れないはずだぞ!?]
だが、異常なのはそれだけではなかった。
ヴォルレッグタイガーの全身から、異常なほどの炎が噴き上がっている。
そしてトレンは、その胴体へ“何か”が張り付いている事に気づいた。
[……っ!! リョウ!! ヤツの胴体を見ろ!!]
[っ!? あれは……精霊!?]
火の精霊たちが、ヴォルレッグタイガーの身体へ無理やり拘束されていた。
[リョウ! 救出を頼む!!]
[了解っす!! ナイトディラン!! サクメ!! 行くぞ!!]
リョウはナイトディランへ飛び乗ると、一気に加速した。
ヴォルレッグタイガーはリョウを見失い、周囲を警戒する。
だが――。
[喰らいやがれ!!【衝撃波】!!]
死角から放たれた一撃が直撃する。
その隙を突き、サクメが拘束されていた精霊を救出した。
[ナイトディラン!!【氷雷】!!]
[ウォォォォン!!]
上空から氷が降り注ぎ、さらに雷撃が連鎖する。
ヴォルレッグタイガーは回避を試みるが、完全には避け切れず雷撃を受けた。
リョウは即座に離脱し、トレンたちの元へ戻る。
[リョウ! 精霊は!?]
すると、精霊を抱えたエアネスが静かに答えた。
[命に別状はありません。ただ、炎の魔力を吸収され続けていたようです。かなり衰弱しています]
その時――。
[ウォォォン!!]
ナイトディランが精霊へ優しく炎雷を放った。
すると精霊の身体が淡く輝き始め、少しずつ回復していく。
やがて精霊は目を覚まし、必死に何かを訴え始めた。
その言葉を聞いた瞬間――エアネスの表情が凍りつく。
[……そんな……]
[エアネス?]
[他の仲間たちを助けて欲しいと言っています……]
その場に緊張が走る。
[ヴォルレッグタイガーに精霊たちが次々と飲み込まれているそうです。そして……火の里の住民たちは、既に全員……]
[[っ……!!]]
その言葉に、全員が戦慄した。
だが――。
トレンとリョウの表情からは、怒りが完全に消えていた。
代わりに浮かんでいたのは、“殺気”だった。
[……リョウ。準備は出来てるな]
[もちろんっすよ。流石にブチ切れたっす]
[なら――行くぞ]
トレンは真っ直ぐヴォルレッグタイガーを見据える。
[黎極麗火獣ヴォルレッグタイガー――討伐開始だ!!]
こうして――。
トレンとリョウ、そして従魔たちは、黎極麗火獣ヴォルレッグタイガーとの戦闘を開始するのだった。
――だが。
この時の二人は、これから待ち受ける“壮絶な死闘”を、まだ知らないのである――。




