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Poisson d’avril ~四月の魚~  作者: 林 ちい
~おまけのSS:その後の2人~
7/7

おくりもの・その後のアリア

アリア視点です。

「リリエンシャール?」

「……」


 私の問いにかえってきたのは、言葉ではなく吐息。

 これは、寝ている。


「……やはり、疲れてたんですね」


 陛下に街で購入したお土産(元気が出る謎の飲料)を渡し、満足げな彼女を背負って帰宅した。

 彼女が陛下と歓談中にいったん帰宅し、生地を仕込んでいたのでパンケーキを準備するのには30分もかからなかった。

 だが、その間にリリエンシャールは寝てしまった。


「さて、これをどうしようか」


 ソファーにお気に入りのクッションを数個集め、座って……座っているのは彼女ではなく、硝子の球体だった。

 リリエンシャールはその球体が落ちないようにクッションを抱えるように押さえ、球体にソファーを譲って床にぺたりと座っていた。

 落ちるか落ちないかぎりぎりの位置に顔をのせ、寝息をたてていた。

 彼女がソファー座らせ……いや、置いているのは陛下からの‘お返し‘だった。

 たまたま‘お返し‘になっただけで、前々から注文してあった特注品だろう。

 あの方は私以上にリリエンシャールが好むもの、喜ぶものを知っていらっしゃる。


 思いつきもしなかった。

 あんなに欲しがっていた『わんこ』の代わりに、観賞魚を与えるなど……。

 私は小型の室内犬を代用にしようと考えていた。

 この観賞魚は確かに美しいが、リリエンシャールの好むもこもこ感(多分、毛並のことだろう)は皆無。

 なぜ毛が鱗に……謎だ。


「……さすが陛下だ」


 子供の頭程の硝子の球体の中には水が入っており、2匹の小さな鑑賞魚が舞うように泳いでいた。

 水色のクッションと施された金糸の刺繍が球体に映り込み、水の揺らぎに色を添えていた。


 ――こうすると、海と空の真ん中をお魚さんが泳いでるみたいで素敵でしょう?


 そう言って、リリエンシャールは私が厨房へ向かう前にうっとりと硝子の球体を眺めていた。

 私は観賞魚よりそれを見入る彼女に、見とれてしまった。


 ピンクのふわりとしたドレスを纏う彼女こそ、空の果てに住み、星を食べて夢を生むという天魚のように幻想的で美しかった。

 

「………」


 音をたてぬように注意しながら、私は持っていたトレーをサイドテーブルに置いた。

 蔦を模した縁飾りのついた銀製のそれには、リリエンシャールのために焼いたパンケーキが三枚。

 今日のドレスはピンクだったので桃のコンポートとアイスクリーム、ポットには彼女の好きな紅茶。

 

 焼きたてのパンケーキは冷め、アイスクリームは溶けるだろう。

 パンケーキは温めなおせるし、溶けたアイスクリームは紅茶に入れると美味しいとリリエンシャールが言っていた。 


 私の優先順位は、君。

 なにより誰より、君が大事だから。


「どんな夢を見てたのか、後で教えてくださいね?」


 微笑みながらまどろむ君に、見蕩れる私を許してください。

 



挿絵(By みてみん)




*イラストの著作権は作者である「やえ様」にあります。

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