おくりもの・その後のアリア
アリア視点です。
「リリエンシャール?」
「……」
私の問いにかえってきたのは、言葉ではなく吐息。
これは、寝ている。
「……やはり、疲れてたんですね」
陛下に街で購入したお土産(元気が出る謎の飲料)を渡し、満足げな彼女を背負って帰宅した。
彼女が陛下と歓談中にいったん帰宅し、生地を仕込んでいたのでパンケーキを準備するのには30分もかからなかった。
だが、その間にリリエンシャールは寝てしまった。
「さて、これをどうしようか」
ソファーにお気に入りのクッションを数個集め、座って……座っているのは彼女ではなく、硝子の球体だった。
リリエンシャールはその球体が落ちないようにクッションを抱えるように押さえ、球体にソファーを譲って床にぺたりと座っていた。
落ちるか落ちないかぎりぎりの位置に顔をのせ、寝息をたてていた。
彼女がソファー座らせ……いや、置いているのは陛下からの‘お返し‘だった。
たまたま‘お返し‘になっただけで、前々から注文してあった特注品だろう。
あの方は私以上にリリエンシャールが好むもの、喜ぶものを知っていらっしゃる。
思いつきもしなかった。
あんなに欲しがっていた『わんこ』の代わりに、観賞魚を与えるなど……。
私は小型の室内犬を代用にしようと考えていた。
この観賞魚は確かに美しいが、リリエンシャールの好むもこもこ感(多分、毛並のことだろう)は皆無。
なぜ毛が鱗に……謎だ。
「……さすが陛下だ」
子供の頭程の硝子の球体の中には水が入っており、2匹の小さな鑑賞魚が舞うように泳いでいた。
水色のクッションと施された金糸の刺繍が球体に映り込み、水の揺らぎに色を添えていた。
――こうすると、海と空の真ん中をお魚さんが泳いでるみたいで素敵でしょう?
そう言って、リリエンシャールは私が厨房へ向かう前にうっとりと硝子の球体を眺めていた。
私は観賞魚よりそれを見入る彼女に、見とれてしまった。
ピンクのふわりとしたドレスを纏う彼女こそ、空の果てに住み、星を食べて夢を生むという天魚のように幻想的で美しかった。
「………」
音をたてぬように注意しながら、私は持っていたトレーをサイドテーブルに置いた。
蔦を模した縁飾りのついた銀製のそれには、リリエンシャールのために焼いたパンケーキが三枚。
今日のドレスはピンクだったので桃のコンポートとアイスクリーム、ポットには彼女の好きな紅茶。
焼きたてのパンケーキは冷め、アイスクリームは溶けるだろう。
パンケーキは温めなおせるし、溶けたアイスクリームは紅茶に入れると美味しいとリリエンシャールが言っていた。
私の優先順位は、君。
なにより誰より、君が大事だから。
「どんな夢を見てたのか、後で教えてくださいね?」
微笑みながらまどろむ君に、見蕩れる私を許してください。
*イラストの著作権は作者である「やえ様」にあります。