ブレーン宇宙論。
「まず最初に言っておきたいのは、この世界、この宇宙は一つでは無い、という前提なのですが、ここの所は理解していただけますでしょうか?」
「はい」「ええ」
それはわかる。だって、異世界に転生したっていうのが事実なら、世界は無数にあるはずだもの。
「我々のいるこの宇宙、空間、というそのものは三次元空間と呼ばれておりました。これは20世紀末、21世紀初頭生まれの我々には馴染みがある言葉だと思います。そして、これはわりと専門的な言葉になりますが、相対性理論や量子論というものはご存知です?」
「はう、名前だけなら……」「わたしも……」
「では、超弦理論やブレーン宇宙論はどうでしょう?」
「……」
「そうですね。そこまではあまり良く知られては居ないかもしれません。当時はまだあくまで理論、宇宙論の一つに過ぎませんでしたから」
ハクアはそこでふっと息を吐いて。また大きく吸った。そして、その深淵のような漆黒の瞳でわたしたちを眺め。
「ここからは、わたくしがここまで長い間生きていたなかで感じだ事、学んだ事です。科学的にどうとか数学的にどうとかそういう話ではありませんから安心して聞いてくださいね」
☆☆☆
わたくしがこの世界に神を感じたのはいつだったか。
正直なところ、若いうちは無神論者でした。この世界にあるのは神だ仏では無く人と科学と物理があるのだとそう思っておりました。浅はかな自分を今では反省しておりますが。
ある時。
わたしの居た世界は大きな戦争で滅んだのです。一部の人間を除いて全ての文明は崩壊し、地上は破壊尽くされ生きとし生けるものは全て死んでしまったと、そう思われておりました。
生き残った人々、いいえ、生き残ろうと準備した人々も居ました。天城博士やアリシア、そしてわたくしはそういったメンバーの一員として、人類、いや、生命の存続に全力を尽くしたのです。
もちろんそれは科学的な方法論でした。神にすがるよりも人は自身で出来る可能性を選び取ったのです。それがイシスプロジェクト。
マリカさんの記憶にあるアリシア・ローレンと天城麻里子博士によって実行されたのです。わたくしはその協力者として、彼女たちのサポートをしておりました。
人々の肉体はコールドスリープで眠らせておいた上で、電子の海に仮想現実を創り、地球が再生されるまで人々の魂はその仮想世界で生きる。そういう筋書きだったのです。
そのシステムの全てはマハロという名の生体コンピュータによって管理され、ているはずだったのです。
しかし。
天城博士も、マハロも、多分知って居たのでしょう。
人の心が世界を産む、と。
ブレーン宇宙も、人の心、魂を構成する《レイス》も、元は同じ物なのだという事実を。




