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彼女の映る世界  作者: 桜之玲
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謎めいた女性と僕の4日間。

こんにちは、こんばんは。

桜之玲です。

「彼女の映る世界」2話更新しました。


こちらも、カクヨム で投稿した内容と同じものを投稿させて頂きます!

広い河川敷にも出店は構えてあり、土手から見下ろした河川敷は光る川の様だった。

流れゆく人々を煌々と照らす豆電球、お祭り独特の芳ばしい香りの入り交じった空気。

僕は夢の中にいるのかと錯覚に陥る。

「綺麗…。友也くん、行こう」

すっ、と彼女の雪のような指が僕の指と絡まり、僕をゆったりと引っ張る。

いきなり手を繋がれた僕は驚き、顔が赤くなっているのを自覚しつつも、至極冷静であるように振る舞う。

「今年は、いつもより人が多いね。人がゴミのようだとか言ってみたくなる」

「ふふ、ひどいなぁ、友也くん」

土手を降りていくと、楽しそうに笑い合う声が聞こえ始め、芳ばしい香りはより一層強くなった。

「あ、椎名さん、焼きそば食べれる?半分に分けて食べない?」

「うん、食べれるよ!お祭りと言ったら焼きそばだよね」

空いている屋台か混んでいる屋台のどちらに並ぼうかたっぷりと話し合った結果、僕は1番並んでいた焼きそばの屋台の最後尾に並んで買うことにした。

どうやらこのお店は有名らしく、味も良いらしいと前で話している若いお兄さん達の声が耳に入る。幸い回転は早く、思ったより時間はかかりそうにない。ふと後ろで待っている椎名さんのいる方を見やると彼女と目が合い、彼女はまた にこやかに僕に微笑んでくれる。けれどその瞬間、その美しさはどこか儚く、近くにないと消えてしまいそうに感じ、僕は水の中に溺れたような苦しみに一瞬襲われた。

訳の分からない恐怖に駆られ、僕は焼きそばを出されるとすぐにお金を渡し、小走り気味に椎名さんの元へ向かう。

「ど、どうしたの友也くん。急ぐこと無いのに」

「なんでもないけど、なんとなく、ね」

彼女が僕の肩に触れ、心配そうな表情をしながら声をかけると、自然とさっきまで僕の心を蝕むように存在していた黒い影は跡形もなく消えたけれど、それと同時に僕の心に大きな傷跡を残して行った。


────────────────────

友也くんは良い人だ。こんな私にでも笑いかけてくれる。最初声をかけた時、無視されるんじゃないかと少しだけ怖気づいたけれど、この人は私を見て笑ってくれた。

─秋祭り。それは私にとってとても大切な日。ふふ、まぁいつもひとりで回っているのだけれど。

この秋祭りの期間だけは、誰もが等しく楽しみ合い、誰もがこの世の中の嫌な事を忘れて、笑っていられる。私はそんなこのお祭りが大好き。さっき友也くんが少し慌てたように、私の方を確かめるように見た時は少し怖かったけれど、どうやら私の勘違いみたいだったから少し安心した。まぁ、いつかその時は来てしまうけれど、けれどその時まではこの甘くて切ない気持ちに浸っていたい。

──あの日から何年だろうか。

────────────────────


僕と椎名さんはあの後、お好み焼きも半分ずつ平らげ、椎名さんがやりたいと言った射的でどちらが多く倒せるかという競争もやった。驚いた事に椎名さんはめちゃくちゃ射的が上手かった。当然、ゲーム機の板なんて倒れるわけも無いから、椎名さんは小さいコーララムネのお菓子を狙っていた。けれどまさか百発百中の勢いでお菓子を倒していくとは思わなかったから、僕は呆然としてしまった。

そんな僕の表情を見て、悪戯っぽく微笑む彼女に負けじと、一生懸命狙いを定めたはずの僕の弾は、いつも僅かに逸れたところで空を切る。

「ふふふ、そんなに落ち込まないで、これあげるから」

結局競争はもちろん僕の負け。落胆する僕に微笑みかけ、彼女は手に入れたお菓子を乗せた手のひらを差し出す。

「友也くん、意外と苦手なんだねー、ちょっと休憩しよっか」


煌々と煌めく河川敷から離れ、僕らは神社へ続く薄暗い道の傍らにある岩に座っている。

河川敷とは反対の、一直線上にある神社ではまだ多くの人が賑やかに楽しんでいて、時折祭り太鼓を叩く音が風に流れてこちらまで響いてくる。

「ここは静かだね。なんか落ち着くよ」

ふぅ、と溜息を漏らし僕は岩に寄りかかる。

「なんだか、あっちとは違う世界みたい」

僕と同じように岩にもたれ掛かり、冗談まじりに言う彼女の表情からは疲れを感じなかった。この子はいつも微笑んでいて、周りからも好かれているのだろう。こうやって一緒にお祭りを回っていると、僕は椎名さんと親しくなれてきているような気がして嬉しかった。

そういえば、椎名さんは高校生のように見えるけれど、どこの高校なのだろう。引っ越してきたと言っていたし、もしかしたらだけど、僕の通っている高校って事も無いわけではない。

「ねぇ、椎名さん。」

「そういえばさ、この秋祭りあと3日やるけど、友也くんは暇……?」

彼女への質問は、運悪く彼女の発言と重なってしまう。

「え?あぁ、暇だね。最終日には花火もやるみたいだし、それだけは見に来る予定だよ」

「そっか、えっとさ、もし良かったらでいいんだけど、また回って欲しいなって…。あぁ、都合が悪ければ全然断ってくれても構わないんだけどね」

「ぼ、僕で良いの?椎名さん。他にも一緒に行く人いそうじゃん」

「ふふ、良いんだよ」

「お、おお。なんなら残りの3日間一緒に回ってもいいけどね」

「良いの?3日間も来てくれるの!?」

椎名さんに必要とされているのが嬉しく、それでいて恥ずかしかった僕は冗談でそう言ったのだか、彼女はどうやらそれを間に受けたらしい。

「まぁ、暇だから来れるけど、3日間回ってたらさすがにお祭り飽きちゃいそうだけどね」

「ううん、普通に話すだけでも良いの。友也くんがよければ、お祭りの時間にお話しましょう?」

どうして彼女は僕と回ろうとするのだろうか。こんなつい2時間ほど前にあったばかりの男なのに。僕の方を向いて微笑む彼女に見つめられ、僕は照れくさくて冷静を装いながら顔をそらした。

「わかった。じゃあ明日もまた7時くらいに神社に来るよ。」


結局、その後は令奈に呼び出されてしまい、椎名さんとは神社で別れた。

椎名さんは河川敷に向かう僕に向かって微笑みながら手を振っていた。それだけでも絵になりそうなのに、その姿はどこか儚く、寂しげな印象を僕に焼き付けた。



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