七十一話 誤想
昨日は変な夢を見た。
それが何だったのかと聞かれると思い出せないので頭がもやもやするのだが……どんな夢だったのだろうか。
まあ、いいか。
「……アリシー?」
上体を起こしてみれば、彼女は壁に寄り掛かっていた。周囲を警戒しているのか、彼女は大した反応を示さず、代わりに緑色の瞳がこちらへ寄せられた。
「起きたんだね、リッキー」
「何かあったの?」
彼女がこうなるのは珍しい。必然的に、僕が寝ている間に何かが起きたのではという予測を立ててから聞いた。
だが、リセルさんもすやすやと寝ているみたいだし、辺りには異常も感じられない。それでもアリシーが寝ずに見張りを行うこと自体が異常であった。
「そこまでってことでもないんだけどね」
アリシーは少しの間逡巡し、やっと答える。
「アリシーがそうやって起きて警戒してるなんて、結構やばい事態かと思ったんだけど……」
「――カオナシ、それに襲われたから。撃退したけど一応、ね」
――な。
迷った様子だったが、アリシーはそう呟いた。カオナシって言ったらあいつしかいない。でも何故、僕ではなくアリシーを。
そう、か。僕がのうのうと寝ている間に、そんなことが。
「ごめん、気付けなかった」
「いいよ、私だけでも倒せたから……それで危ないかなって思って、こうしてるだけ」
本当に全く気付けなかったのは、どうしてだ。いくら寝ていてもあんな狂気が近寄れば起きると思ってたんだけど、全く分からなかった。
「じゃあ後は僕が見張るよ、アリシーはその間寝てて。ある程度経ったら起こすから、そうしたら出発しよう」
「ううん、大丈夫。私は三日飲まず食わずで睡眠をとらなくても平気だから。それより、早く目的地に辿り着く方がいいよ。行こう」
いや、でもと言う前にアリシーは支度を始めてしまった。
そこまで急ぐ旅でもないはずなのに。まあ、到着は早いに越したことはないのだけど。
「アリシーが大丈夫ならいいんだけど。あんまり無理はして欲しくないよ」
「それリッキーが言う? 私は大丈夫だよ。リセル起こしてくるね」
それを言われてしまうと本当に何も言い返せず、力なく頷くことしかできなかった。
ただ、見た感じだとアリシーに大した疲労は見受けられないし、本当に無理をしているわけではなさそうだ。なら、このまま先に進んでも大丈夫か。
「んんっ……あ、皆さん、おはようございますー……」
寝惚け眼でリセルさんが起床し、出発することになった。
そういや日記はどうなったのだろう。後で一応見てみるとするか。
黒い大地、と呼ぶのが正しいだろう。
僕らが足を踏み入れた地形は、およそ自然界には発生しないような異質なところだった。
ほとんど陽の光が差さず、色が漆黒で埋め尽くされた地。光が届かないから黒いのではなく、そのままの色が黒いのだ。
辺りには灰色の乱気流のような風が舞い、奇妙な雰囲気を醸し出している。地図で見れば特に何の記載もない土地だったが、こりゃ砂漠とかより危険なにおいがする。一体どこの世界から転移してきたんだろうか。
「あまりよくない臭いがするね」
近くの枯れ木を触るとぼろぼろ崩れて地面へ落ちていく。触れただけで、とは。かなり風化しているな。
「この風、なにかの力の塊が風となって動いているみたいだね。リセルさん、如何にもそうな感じですけど、まさか禁忌的な場所じゃないですよね?」
「ええ、そうですね。至って普通の地だと思いますよ」
それならよかった。見た目禍々しくても普通に踏破できるのならそれでいいんだ。だけど気味が悪いし、さっさと先へ進むのが無難だ。
「……ま、んな簡単に抜けられたら苦労しない、か」
地面から這いずり出てきた“それら”を眺め、僕は苦笑する。腐敗した人間に、動物、骨だけの怪物。まさにアンデッドって感じの奴らがうじゃうじゃと現れ、僕らを取り囲もうとする。
アリシーはすぐさま短剣を抜き、僕は雷を全身に付与した。
「なんかそんな感じはしたんだけど、その通りかよ。アリシー」
「害種よりマシでしょ。行くよ」
「はは、心強いなぁ……リセルさん、多少強引に突破するよ」
「は、はい、分かりました」
死者は生者を羨み、命を捕りにくるってか。残念だけどまだ死ぬ予定はないんでね、消させて頂こう。
「僕が前方の敵を雷撃で一掃する。そこを突破したいんだけど、僕がリセルさん抱えると感電すると思うからアリシーに頼むよ」
「分かった」
「よし――」
左手に帯電させた雷を前方に向け、狙いを付ける。いつの間にか全方位に大量の敵が蔓延っていた。なんか、殲滅戦ばっかやってる気がする。
「――ハァ!」
溜め込んでいた雷を、一気に撃ち放つ。それらは空を裂き、地面を伝い、前方向の敵を一掃してゆく。骨の怪物に至っては雷の衝撃でばらばらに弾け飛んでいた。
自分で言うのもなんだけど、雷の一撃もかなり強くなった。僕の雷――正確にはサインダじゃないのだろうけど、レベル換算したらいくつになるんだろうか。
かなり上がったと思うけど。
痺れて行動不能になっている連中の上を飛び、アリシーはずんずん先に進む。その後ろから僕も付いていき、邪魔になりそうな敵を雷で貫いて排除する。
「こいつら言葉が通じないのはいいにしても、いい加減気付いて欲しいよ。邪魔すれば殺されるだけだって」
「既に死んでるんでしょ。生きてる気配を感じないし」
敵の殲滅を続けながらもアリシーと会話をする。あ、そこの道は右とかここを真っ直ぐとか指示しつつ、なんとか敵が沸かない場所まで逃げてきた。
遠くの方を見やればまだ奴らは追っかけてきているみたいだが、その足取りの遅さが致命的となっているため、ここまで来るのにどれだけ掛かることやら。
地図を開いた僕は、とりあえず現在地を把握することにした。
「うん、大体合ってるね……あ、ここ記載してない、ここも書いてない。直さなきゃ」
「よく見ただけで分かるね」
「そりゃあ自分で書いといて見方が分からないなんて恥だよ」
「そうじゃなくて。ここ来たの初めてじゃないの?」
「初めてだよ」
地図に色々と情報を書き加えながら答える。最期に動く屍がいると記し、ぱたりと地図を閉じた。
「結構正確に書いたつもりだからね。細かいところはともかく、大まかな部分に間違いはないから途中で道に迷うこともないよ」
「へぇー……? そうなんだ」
そういうアリシーは地図の見方を未だに分かっていない。多分この記号が邪魔しているんだろうけど、ここは覚えて貰うしかなかった。繋がる数字の関連性を見出せないのは考えものだなぁ、僕だけ分かったところで、皆が分からないんじゃコンスタリエに渡したアレも意味がなくなる。
今度帰ってきたらそれも含めて改訂版を渡したいものだが、それに関しては解決策は出ていない。まだまだ先のことになりそうだ。
特に中央の大陸であるここはかなり細かく書いてある。もし今後他の大陸まで足を運ぶようなことがあれば、地図が役に立たない場所も出てくるだろう。
その時はその時だ。
「もう少し先に進むと山脈に当たる。そこを越えると原生林があって草原があって、その先に港町があるらしいね。ここから山脈は見えるからいいとして、あまり地形情報は当てにならないけど」
こんなゾンビだらけの土地は書かれていなかった。それもそうだ、転移してきた空間が、遥か大昔に書かれた地図に乗っているはずもない。
ギンラがくれた資料はありがたいけど、これに関しては実際に行って見なきゃ正確なことは分からないのだ。ここだって、仮に僕が土地ごと抉って破壊したとしたならまた別の何かが転移してくることになる。やらないしできないけど、そうなったらまた修正しなければならないのだ。
つまり砂漠のすぐ横に都会のような都市があって、そのすぐ隣に秘境があって、魔境があってということも普通に有り得るわけである。とんでもない世界だ。
「終了っと……あれ、どうかしました?」
追加情報の修正が終了したところで隣のリセルさんへ視線を寄越すと、彼女は先程やってきていたゾンビの大群に向けて目を細めている。
深刻そうな表情だ。
「リセルさん?」
「感じます」
ただ一言で。
――リセルさんの言葉に反応したアリシーが、駆け出した。いつの間にか抜いていた短剣を逆手に構え、黒装束を纏う華奢な身体が疾風の如き速さで地を走り、宙を舞う。
突然の出来事に僕は少しだけ放心して、離れていくアリシーを見失わないよう注視しながらも、再度リセルさんに尋ねる。
彼女の答えは、予想通りのものだった。
「“禁忌”が来ています。もう、すぐそこまで」
「そう、ですか」
どうしてアリシーが先行してしまったのか分からない。が、リセルさんを置いて彼女を追いかけるわけにも行かず、ひとまず思考に移る。
まずこんなところに誰が来ているのか。メリーさんはまずあり得ない。だとするとグリーフかレイジの二択だ。
何をしにこんなところへ? 答えは見つからない。
だが今は理由など探っている暇はない。危ないのは、アリシーが一人で禁忌へ向かってしまったことだ。彼女は強いが、禁忌を持ったあの四人には絶対に敵わない。
どうしてアリシーが一人で向かってしまったのか。一人で戦ってはいけないことを僕に教えてくれたのは彼女とリセルさんだ、そんな彼女が理由も無しに無謀な突貫を仕掛けるはずがない。
ともかく、彼女の元に追いつくのが先決だ。禁忌が誰だか知らないが、誰が来てもアリシー一人で戦うことは絶対にしてはいけない。
「リセルさん、アリシーを追い掛けます。掴まってください」
手を出し、掴まった彼女を背中に背負って遠くのアリシーを見据える。
「実は、禁忌が来ることは分かっていました」
――行こうとした瞬間、リセルさんの言葉に静止してしまった。
事前に分かっていた、とでも?
「もしかして、アリシーはそれを知っていたから寝ずに見張りをしていたんですか?」
「ええ。私は律樹さんには教えず、アリシーさんとだけ話し合いました」
「……どうしてですか?」
これ以上待っていられない。アリシーの元へ一歩でも早くと駆け出し、その途中でリセルさんがぽつりぽつりと語りだした。
「私が……私が、もしも律樹さんに話せば、律樹さんは一も二もなく禁忌へ向かっていったでしょう。それも一人で。貴方はどうしたってそういう人なのですから。なので、私はアリシーさんだけにこのことを伝えました」
そう、だったかもしれない。もしもその話し合いに僕が参加していれば、あの日起きていたのは僕だったかもしれないのだ。
「ですから、律樹さんは一人で行ってしまったアリシーさんを助けるため、向かってください。律樹さんは誰かを助けるために一人で何もかもをやろうとするのではなく、誰かを助けるためにその人の元へ向かって欲しいのです。そうでなければなりません……孤独は毒にしかなりません。少し遅れるくらいで丁度良いのですよ、律樹さんは」
「最初からそれを狙っていたんですか」
「はい……すみません」
じゃあ。わざわざリセルさんが回答を一拍遅らせたのも、アリシーに先手を取らせようとしたからだったのか。
二人の共謀、だったか。
――全く。
「リセルさん、少しだけお仕置きです」
言って、全身に電気を纏わせた。すると「ひゃああああ」という彼女の叫び声が背中から聞こえてきたが、敢えて無視して先へ進む。大丈夫、彼女の方へはなるべく電流が流れないように注意しているから、大した痛みはないはずだ。
「律樹さん、な、なんですかっ! なんですかこれ、あ、あひゃあああああああああ!」
「走るスピードを上げているんです。ちょっと我慢していてください」
「むずがゆいです、いだいです、だすけでください――ああっ」
なんか可哀想に思えてきたけど、でもすみませんリセルさん。
アリシーに追いつくんなら、これくらいはしないと絶対に追いつけないから。
周りのゾンビ共を蹴散らしつつ、僕は彼女に追いつくため、地を駆ける。
リセルさんの悲痛な叫び声は、しばらく続いていた。
◇
鮮血が噴き出したのは、その一瞬のことであった。
自身の両腕が切断された。それに気付いたグリーフは目にも留まらぬ速さで飛来してきた人物へ意識を飛ばす。
黒装束。細身の人物だ。少なくともグリーフが知る人物ではなく、何を持って敵と断定してきたのかは知るところではない。
同行する竹内洋助と“アウゼン=セラ”を、即座に安全な隔離空間へと送り込み、堪えず辺りを駆け廻るそれへ対し、鬱陶しそうに溜め息を洩らす。
その僅かな間に再生し、生える両腕。
相対する黒装束の相手は何を考えたか、グリーフへ急接近してきた。消し飛ばそうと力を収束させるが、既にそこには何も存在しない。
殺気の塊だけをぶつけてきたのか、と悟った刹那。
ずぶり、と首筋に刃が突き刺さった。切断に至らなかったのは、その刃を右腕でもって掴んだためだ。
「質問をしましょう――貴女は一体、何者なのでしょうか」
「……!」
返事が返ってくる可能性は薄そうだ。首を落とせないと分かるや否や右手首の間接を壊され掴んだ刃を外し、飛び退いた女へ対し、グリーフは“悲哀”を顕現する。
「答えないならそれでもいいでしょう。一言も語らぬまま、命を散らせてしまいなさい」
「死ぬのは貴方だから」
初めて黒装束の女は言葉を放った。冷たく鋭い台詞は、透き通る高い声には似合わない。この少女に裏があると見抜き、それからグリーフは悲哀を振り撒いた。
紺碧の空間が漆黒の大地を侵食し、蒼く蒼く染めゆく。
それに警戒を示したか、黒装束の女は自身の存在そのものを消し去った。その姿を見失ったグリーフは深呼吸一つ、冷静に姿を探る。
殺気だけでなく存在すらも消すことができるとは、相当な実力者だ。もしもグリーフが人ならざる者ではなかった場合、勝負は最初の一撃で終わっていたに違いない。
しかしグリーフは“悲哀”を宿す三姫の一人。一介の人間に上を越されるはずもなく。
「まずは、動きを止めてしまいましょうか」
漂う悲哀を感知に特化させ、存在を消す黒装束の姿を捉える。
――捉えてしまった以上、どれだけ策を弄したところでそこに意味など有りはせず。悲哀に拘束させられた黒装束の女は、目を見開いて驚愕の表情をグリーフに見せた。
「……な、なんで……ラプスより、次元が……」
口振りから察するに“禁忌”について何らかの知識を得ていそうだ。
くすりと笑うグリーフはこの女に“鈴峰律樹”の関連性を見出だし、冷たい微笑みを向けた。
「貴女はラプスと戦ったのですね」
ラプス。
グリーフ自身は相対したことはないが、アヤクスィダントと三姫の禁忌の残滓から産まれた“消滅”を司る禁忌だということを知っている。その名を出したということは、ラプスとグリーフの戦力が同等だとでも勘違いしたか。
否。あのような残り物の寄せ集めが、純粋な悲哀に近付ける道理はない。当然、狂喜にも憤怒にも――災厄にも届きはしない、中途半端で異質な力だ。
そんな紛い物と同列に比べられても、と嘲り。グリーフは黒装束の女の傍まで寄る。
固まる彼女の頬を優しく撫でると、そこが冷気を帯びたように凍り付いた。
「……っ」
恐怖に支配された女は、それでも無表情を貫こうと不適な顔でグリーフの目を見続ける。
気丈な女の子のそれ。グリーフから言わせれば、そんなものは無駄な抵抗でしかなかった。
とにかく、これで恐怖は植え付けることができた。
「鈴峰律樹、という男を――知っているのでしょう」
「……」
無言だ。拷問の訓練でもされているのかと首を傾げ、次は何処を凍らせてやろうかと彼女の肌に指を這わした辺りで。
「――その手を離せ、グリーフ!」
下らない時間の必要がなくなった。
◇
「襲って来たのはこの女の子ですよ。被害者面をするのは結構ですが、相手を考えてものを申した方が懸命ですよねぇ……鈴峰律樹さん?」
言動とは裏腹に、グリーフはアリシーからその手を離した。同時にアリシーに掛けられた拘束が解け、彼女は瞬時にグリーフから飛び退いた。
「……」
そう言われてしまってはどう言葉を紡いでいいか分からない。背中のリセルさんを降ろし、二人の前に立ちはだかった僕は雷を溜めつつ相手の行動を窺う。
「うふ、強くなったじゃないですかぁ。あの頃の軟らかくて存在すらも稀薄でそれこそ無力であった貴方とはまた違う。ここで私と貴方が出会ったのは――」
「“出会った”のではなく、僕を付け狙って来たんじゃないんですかね……?」
冷や汗が流れた。グリーフの大人びた妖艶な笑みが、細められた双眸が、害意を剥き出しにした唇が――その総てが僕に突き刺さって、離れない。
ごくりと生唾を呑み込んだ僕だったが、そこは雷の生成に意識を集中させて誤魔化した。
常より濃密に迸る雷は――それでもまだ頼り無い。
この女の前では、なんの意味も成さない、力。
為すことはできるが成就はできない。成功もしなければ成果も上げられない。その程度の、武器。
「分かり切ったことを言わなくてもいいのですよ。私は貴方に用があって、こうして遠くからずっと追い掛けてきたのですから」
「やっぱり。それじゃ僕にとって、出会いではなく……出遭いってやつ、か」
下らない独り言は誰にも拾われることもなく、大地に呑まれて消滅する。
恐ろしい。
久々にグリーフと対面した感想は、まさにそれだった。
全身に叩き付けられる悲哀は恐ろしく冷たく、絶対零度のような威力で僕を締め上げる。身体が思うように動かない、別にグリーフは能力を使っているわけでもないのに。
「あれから数年が経ちましたね。貴方の噂は様々なところから聞き及んでいますよ……今も、何やら危険に片足を突っ込んだまま先を進んでいるみたいですが」
「僕に、何の用ですか。アリシーとリセルさんにだけは――手を出さないで欲しい」
「何度も言いますが。そちらの女の子から私に危害を加えたのですよ。そのように勘違いされてしまうと私はただ単純に哀しいです」
背後のアリシーは純色の“悲哀”に当てられ、正常な思考が行えなくなっている。
口を開いて閉じて、言葉にならない声を上げているのがその証拠か。こんなアリシーを見るのは初めてだ、つまり、これが本物の禁忌が魅せる能力ってこと。
リセルさんは、嫌悪感があれどいつもの精神を保っているみたいだが……それも、いつまで持つか。
僕だって、この“異常”で“忌常”な鬼気に当てられ、ただそれだけのことなのに隔絶された壁を見てしまっている。
冗談じゃない。
――強くなったが故に、見えてしまうものがある。グリーフには、どんな手を尽くしても敵うことすら許されない。
それだけの差。住む世界が違うどころか、本来の意味で住む次元が……違ったのだ。
「いいでしょう、心配なら口にして差し上げましょう。私は貴方達に害を及ぼしにやってきたわけではありません。これでよいですか?」
「――分かりました、信じます」
元々攻撃を仕掛けてしまったのはこちら側。であれば彼女の言い分も充分に信用できる。
では何の用で訪れたのか。
溢れ続ける恐怖に耐えつつ、僕は少しずつグリーフから距離を取った。
背後のアリシー、リセルさんに並ぶまで下がると、グリーフは何かに気付いたように“悲哀”を消し去った。
すると感覚までもを蝕んでいた恐怖が解け、グリーフからの鬼気が収まった。だらりと流す冷や汗が止まる。そう、か。
「改めて聞きます。僕に、何の用ですか」
相手も力の放出を止めたのだ。僕も雷を解き、再び質問をする。いいや、そもそも僕にある用なんてのは一つしかなく、言われる前から分かっていたのだけど。
「今日は相談に来ました。お察しの通り、アヤクスィダントの件ですよ」
――そう。
ルリさんが関係してくることくらい、覚悟はしていたのだから。
「相談、ね」
その口からどんな言葉が飛び出すのか。
深呼吸をしてからグリーフと視線を合わせ、僕は身構えた。




