四十二話 崩壊の灰色
旅に出てからと言えば、時間の進みが果てしなく早く感じられる。
一体何日経ったのかすら忘れてしまうほどに。
いやいや、今のは流石に冗談だよ。
とはいえ最初の内はそうではなかった。旅自体が新鮮で、アリシーと共に地を歩くだけで充足していたのだから、あの頃の自分は能天気だったな、と思わざるを得ない。
さて。現時点での結果を含めて今日の出来事を『日記』に纏めてしまおうと、僕は本を手に取った。一冊の白紙だった本。そこの数十ページは、僕が書いた“日本語”の文字で埋め尽くされている。勿論アリシーに読めるはずもなく、彼女の日記への興味は薄い。
この本は、町から出発する前、全てが白紙だった本とペンを事前に手に納めていた。何かに使えるとは思っていたが、当時は日記になるとは思いもしなかったであろう。
ペン先を走らせ、独特の音を響かせ紙に線を描く。
今日も、ただ歩を進めたばかりで町や人影は見付からなかった。見た景色は砂漠に草原に荒野、古い遺跡、幻想的な大樹など、様々だ。表現不可能な地形や物体もちらほら見受けられる。
歩いてみて分かったが、この世界には色んな物が詰め込まれているらしい。まるで子供が描く現実味の無い世界を見ているようだが、現実にそれがある。
シャインハートが言っていたはずだが、自分の目で確かめた迫力はそれなりだ。
「私はそろそろ寝るよ」
こくこくと頭を傾けていたアリシーは遂に限界を迎えたようで、僕の返事を待たずして一足先に夢の世界へと落ちていった。
その頭を一撫でして、日記の続きに取り掛かる。
空は暗い。パチパチと火が弾ける音を耳に入れ、焚き火の炎で本を燃やされてしまわないよう注意を払いながら、続きを書く。
今日も異常は無し。悪く言えば、発見も無し。いつも通り見慣れない地形を進み、訳の分からない生物を眺め、時には襲われて戦い、倒し、また先へ。一応自分なりの地図を作製しつつ先に進むけれど、ごちゃごちゃで地図がうるさい。正直見辛い。
あと、そろそろ保存食が尽きそうだ。かなりの量を買ったつもりだったが、見通しが甘かったのか。まあ味にも飽きていたけれど、やっぱり安定した食事は嬉しい。
これから得体の知れない生物を狩って食べなければいけないのかと思うと、凄く嫌だ。毒がないとも限らないし、そもそもアイツらも時折喋る個体がいるし。
まあ、生きる為だ。襲い掛かってくるのなら容赦はしない。
「ふぅあ……僕も寝よう」
日記とペンを麻袋に仕舞い、横にある大岩に背中を預ける。大丈夫、この時間に動物は襲ってはこない。後大抵の奴は、焚き火の炎に怯えて近寄っても来ない。最悪、いつ襲われても対処が効くように横にはならないようにしている。
瞼を落とし、朦朧としていく意識を享受する。しばらくそうしている内、意識は完全に絶たれた。
出来事は夜更けに起こった。
「あのー、だいじょぶですかー? 死んでませんかー? 生きてますよねー?」
落ち着かなげな呼び声が、休息を欲する脳を叩いて活性化させる。
「……んん、アリシー……じゃ、ないよな」
女の声だ。
寝惚け眼で前方に視線をやれば、誰かが屈んでこちらを見ていたのが確認できた。ぼやけているが、アリシーでないのは一目瞭然。声も違うし、では気安く喋り掛けてくるのはどこのどいつだ。
「アリシー? その方はご存知ないのですよ、私は私です」
「いや、知らないよ……」
ようやく明瞭になり始めた視界は、長身の女を捉えた。目が痛くなるほどに鮮やかな桃色の髪の毛が胸の下まで垂れ下がり、秀麗な顔が眼前できゃっきゃと喜んでいる。特筆すべきは、耳だろう。単純に、長いのだ。
久々に人と出会えて嬉しい! ってのは容易に理解できたが。
「知らないのは当然です、私も貴方のことは存じておりません」
半分言葉が通じてないな――?
こう毒気を抜かれる佇まいをされると、警戒も薄くなるというもので。少なくとも襲ってくる気配はなかったので、緊張させていた身体を緩めた。
「そうですね。では初めまして、なんでしょうか?」
「はい。お初にお目に掛かります、私はリセルです」
「僕はリッキーです。それで、ここには何をしに?」
このような問いもどうかと思ったが。
今回僕らが野宿をしていたのは、樹海みたいな場所だ。近くにはいい感じに澄んだ川の水があったので、大岩を目印にここで夜を明かすことに決めただけ。とてもではないが、好んで人が立ち寄るとも考え付かない。
何をしに来たのか。
向こうから言わせればそれはこちらも同じなのだから、先に訊いたもん勝ちだ。
「それなのですよ。実は私、ここがどこだかさっぱりなんです。リッキーさん達も道に迷ってしまわれたのでしょうか?」
寝ているアリシーにも目を向けたリセルという長耳の女は、目を爛々と輝かせて返事をした。
道に迷ってたのか。
あとそれから勝手に僕らまで迷子にするんじゃない、どうして仲間を見付けたみたいに目を輝かせているんだ。
外見だけでの感覚だと、彼女はかなり大人びているようにも見られるのだが……言動とは一致しないな。
「僕らは旅をしているんですよ」
「ほえ……旅人様でございますか。それは素晴らしいですね。私にはそんな真似できません」
「はあ、そんな大層なもんでもないですがね。道に迷っていると言いましたが、一体どこから来たんです?」
「それが、分からないのです……私、気が付いたらここに居まして……こうして会話をするのも、もう久しいのです」
「へ、へぇ……何日くらい?」
「大体一年はこうしていたでしょうか、具体的には覚えていません」
そこから飛び出した桁違いの数字に、僕の顔は引き攣った。
一年もこんな場所で一人? 嘘だろ。樹海から外に出ようとは思わなかったのか。それ以前にどうやって生計を立てていたんだ。
「えー……最後に見覚えのあった、自分の知っている場所は?」
「私の住む里が、最後ですけど?」
ああ。なるほど。
どうやら。彼女は里で平凡な生活を送っていたところ、知らぬ間にこの樹海に転移してきてしまったようだ。
里と言うのだからきっと自然溢れる村か何かなのだろう。彼女――リセルは、樹海のどこかに里があるとか思っていそうだ。
でなければ一年も迷い続ける理由はない。
「あー、何と言いますか。リセルさん。貴女、道に迷ったんじゃないですよ」
「へ?」
「まあ、そこに座って下さい」
火はとうに消えているが、もう明るいし寒くもない。再び焚くこともなかろう。
それから僕は、懇切丁寧にこの世界の説明をしてあげることにした。
◇
「そ、そんなああ……では、私、私、どうやってこれから生きていけばいいんですかああああ……えぐ、ひっぐ」
数十分にも渡る説明を受けたリセルは、しばらくはぽかんと呆けていたのだが……事態を飲み込んだ瞬間、目に涙を溜めて泣いてしまった。
色々と突っ込むべき箇所はあるが、それは置いとくとして。
自分より大人びている女が、こう、わんわん泣いてしまっているのは如何なものか。
どうやって泣き止ませよう。
「あ、あの……リセルさん?」
「はい……私はもう生きていけません。どうぞお好きなように」
「ええ……」
まさかの自暴自棄。
「むー?」
「……っあ」
物音と聞きなれた声が後方より発せられ、僕は一旦リセルから目線を外してそちらへ注意を割くと、アリシーがもぞもぞと動いていた。
こんな非常事態にアリシーが目を醒ましてしまった。むくりと起き上がった彼女は、むにゃむにゃ寝言を発してリセルを見やる。
寝惚けているアリシーは、本当にどうしようもない。その事実はとっくの昔から知っている。
動物に襲われた際は、どんな体勢で寝ていても瞬時に飛び起きて攻撃体勢に移ると言うのに――。
その、アリシーがだ。泣き喚いているリセルを見た後、物凄い形相で僕を睨んだのだ。
そして、寝惚け眼だった瞳に光を宿し、獰猛な眼光で彼女は口を開いた。
「――何をしたの?」
「えっ……えぐっ……」
「ちょ、ちょちょちょっと待って誤解! 誤解だから!」
朝起きると、眼前には目を腫らして泣く女性が一人。それと向かい合っているのは、慌てた怪しい男が一人。
果たして寝起きのアリシーの思考は、この現場のみを見てどういった判断を下すのか。
それは、火を見るより明らかだった。
万が一寝起きのアリシーを怒らせてしまうと、怖いのだ。それは、動物でも人でも一緒なのだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
◇
「――と、という……わけ、なんだ」
がくり。
「ご、ごめん、リッキー」
ボロ雑巾のように地に横たわる僕へ、完全に目を覚ましたアリシーの謝罪が落ちてきた。
手加減の見られない彼女の猛攻により、僕の全身は悲鳴を上げている。リセルはとうに泣き止み、ぽけっとした様子でアリシーの一方的虐待を眺めていたばかりだ。
「い、いいよ……釈然としないけど、誤解される状況を作ったのは、僕だし……」
満身創痍の僕を撫でてくれるアリシーは慌てているのやら必死なのやら、かなり心配してくれている。大丈夫、大丈夫だよ、一応はアリシーの元で鍛えてるから、一応。
「ほぇ、リッキーさん大丈夫ですか?」
しかしながら、リセルは泣き止んでいた。なら羽交い締めにされたりマウント取られたりして全身を痛め付けられた甲斐があったというものだ。
「ええ、大丈夫です。とにかく、焦るのはまだ早いですよ。落ち着いて下さい」
「そ、そうでした……私はもう、駄目です……っひぐ」
……えっ、今の言葉地雷だった?
再び塞ぎ込もうとしたリセルの肩に、僕は手を乗せる。それにビクンと身体を震わせた彼女へ、なるべく優しく言葉を掛けた。
わざわざ僕らに関わろうとしたってことは、きっと彼女は寂しかったのだろうから。
「安心して下さい、僕らが傍に付いてますから」
「え、ふぇ……」
泣き腫らした目を僕に向け、リセルは乱れた前髪を掻き分ける。その妙に扇情的な姿から変な想像が頭に浮かび上がったが、ぶんぶん頭を振って直ぐに振り払った。
誤解が誤解じゃなくなってしまう。
「ところでリセルさん?」
「ほえ」
なんだその返事。
「……一年はここでさ迷っていたと言ってましたが、どうやって生活していたんでしょうか? 飲み水はありますが、食べ物の方をどうしていたのか気になります」
僕の疑問はそこにあった。里からこの地に強制転移され、既に樹海で一年以上の時が経過している。ならば、その期間でどう生活していたというのか。
とても一人で生きていられるようには見えないが。
「いえ、見ての通り私の髪はピンクに染まっています禁忌の女なのです。ですから、不老不死なんですよ。それに息を吸うだけで身体に栄養が行き渡るので、特に食事を摂る必要は……」
「はい?」
リセルの返事に僕は眉をひそめたが、直ぐにそうじゃないなと自分に備わっていた固定概念を払った。
この人が“禁忌”だかどうかは知ったこっちゃない。つまりあれだ、この人は食事を必要としないだけだ。植物みたいなもんだ。シャインハートが超能力を扱うように、ランサーが魔法を扱うように、目の前で目尻を真っ赤にする彼女は“そういう人”なのだ。
なるほど、理解したよ。
「あぁ、そうなんですか。じゃあ一人でも生きていられますね」
でもそれなら泣く必要があったのか。転移が数日前に起きたのなら不安に駆られて情緒不安定になってもさほど可笑しくはないが、年単位である。流石に慣れてしまうだろう。
「無理ですよ……不老不死ったって、殺されたら死んじゃうんですよ、不死身じゃないんです!」
「え、話が掴めないんですけ、ど……っ?」
リセルは声を荒げ、寧ろ僕の両肩を強く掴み返して叫ぶ。感情の起伏と連動して僕の上半身が前後に揺らされる。頭はがくんがくんと上下に振り回され、アリシーに痛め付けられた傷も相まって地味に痛い。
なんでこの人こんなにヒステリックなの。
「ねえ。リセルさんは誰かに追われてるの?」
アリシーが横から顔を出し、リセルの揺さぶりを片手一本で止めさせる。
その後発された一言に、リセルの目は何らかの恐怖に蝕まれた。
「は、はい……だから、私は一刻も早く里に戻らなきゃいけないん、です。なのに」
「ふうん。“里の人”に追われてるのに、戻るんだ?」
アリシーは威圧するようにリセルを睨む。沈んだリセルは、何を言うでもなく黙りこくっていた。
「アリシー、里の人に追われてるってどういうこと?」
耳打ちすると、アリシーは呆れた瞳で僕を突き刺してきた。
「……リセルさんは自分の存在が“禁忌”だと言ったでしょ? だったらそんな存在を里の人が口外するはずがない。秘密のままにして、問題が起きれば処分すると思うんだ。多分、リセルさんは里の人に『ここから出るな』とかって言われてるはずだよ」
「あ、ああ……なるほど」
彼女は何らかの“禁忌”に触れているか若しくは“禁忌”を持って産まれている。禁忌とは“やってはいけないこと”だ。そんな人物が表に出るのを、他の人は良しとするわけがない。
アリシーの言う通りに里の人から忠告――いいや、命令でもされていたのなら。
変に素直そうな彼女は、この一年間必死に帰ろうと努力するであろう。
「リセルさんは、里に縛られているのか」
「多分ね」
彼女が里から出られない身なら、見た目に対して知能が発達していないのも頷ける。僕らが旅人だと言った時に素晴らしいと言ったのも、そういうことであれば……。
泣き止ませるのは容易い。
「リセルさん。もしもアリシーの言ってることが合っているのなら、何も心配する必要はないよ」
「ふぇ?」
そもそも、この世界に里は愚か彼女の世界の一部が存在するかも怪しいんだ。リセルさんを見て“禁忌”と認識し、その上で追い掛け回す者はいないと見ていいだろう。
「貴女が危険に晒されれば、僕らが守ります。それで一つ泣き止んではくれませんか?」
時間が経てば、彼女も理解する時がきっと来る。今はこれでもいいか。いや、本当に危ない時が来たら守るけどね。
「……本当ですか?」
「嘘を言うと思います?」
「でも、でも。私を守ったら、二人が死んじゃうかも、しれません!」
「死なないよ」
アリシーが確かな言葉で後押しし、腰から煌々と輝く短剣を引き抜いた。
――力の象徴。片腕の頼り無さを有り余ってカバーするそれは、リセルを魅了した。
胸の中心に両手を添えた彼女は、しばらくそうしてから。
「……頼んでも、いいですか?」
「ええ、勿論ですよ」
散々渋ったリセルだが、最後は折れる形で僕ら二人を見つめた。
ううむ。
元よりそのつもりだが、これではリセルさんが一方的に「立場が下」だと感じてしまいそうだ。
だが、ここに来た人達は全て同じ境遇であり、どちらが上とか下とかはあってはいけない。
一応は彼女が安全だと思われる場所まで連れて行くつもりだが、護衛ではなく同行の方が何かといいだろう。
「それで。代わりと言ってはなんですが、リセルさんには道案内をして欲しいんです」
ただして貰うだけではなく、こちらからも何かしらのお願いをすれば、そういった考えも軽減されてくれるだろうか。
「わたしが、ですか……?」
リセルは訝しげに眉を寄せ、僕を見て頭を傾けた。
そう、道案内だ。
リセルさんが今までに通っていた道でいいから、覚えている地形を教えてくれればいい。
がむしゃらに真っ直ぐ進めばいずれ必ず樹海からは脱出できるが、時間短縮が可能ならそっちのが何倍もいいに決まっている。
年単位で樹海で生活をしていた彼女なら道にも詳しいはずだ。とりあえずはこの迷宮から出ておきたい。まだ道に迷ってはいないが、いずれ迷うかもしれないのだから。
「ええ、そうです。ここら辺なら僕らより貴女の方が詳しいでしょう? ここから出られればどのルートを辿っても構いません。できることなら人が住んでいる場所若しくは見付けた場所まで案内して下されば嬉しいです」
川沿いに歩けば何かがありそうな気もしなくはないが、ここに詳しい人がいるのだからわざわざ手探りで探す必要もない。
「人ですか? それなら私見たことがありますよ!」
「そこまでの道は分かりますか?」
「はい!」
先程までの沈鬱な空気はどうしたのか、元気よく首肯したリセルは笑顔を振り撒いた。
何となく空気が和む。
「じゃ、案内――の前に、朝ご飯にしようとおもうんだけど。良かったらリセルさんも食べます?」
食事を必要とはしないらしいが、口が付いているのだから食べられないことはない……よね?
「いいんですか? 食べます!」
事もなげに言うリセルに安堵し、僕は保存食を取り分けるべく麻袋に手を掛けた。
◇
「――ええと、私があれを見たのは今より三ヶ月ほど前になりますか」
案内をするリセルに付いていくこと数時間。僕が目撃現場の詳細を訪ねると、彼女は顎に人差し指を当てて喋り出した。
「あの頃の私は無気力でした。生きる希望もなく、死ぬ理由もなく、何にも興味を示せずにここを彷徨い歩いているだけの抜け殻でした。ですが、そんな私でも驚かざるを得ない轟音が遠くから響いてきたのです」
長い耳をひくつかせ、リセルは耳に手を当てる。
「この耳はかなり遠くの音も拾えます。それもあって驚いた私は、でも初めて起きた異常に興味や興奮さえ覚えてしまいました。そして、興味の赴くままに音のする方向へ走り出しました。音は不規則な間隔で発生し、止むことはなかったので見つけるのには苦労しませんでした」
へえ、轟音か。
二ヶ月前と言えば“大災害”の時期と被るのだが、関係あるのだろうか。そうだとしたら、逃げ惑う人々で溢れ返る現場でも目撃したのか……。
「そこで私が見たのは、竜でした」
「え、竜?」
リセルの言葉で凍竜を思い出した僕は、思わず聞き返した。
「はい。紫色の立派な竜でしたよ。それと人間が戦っていました。少し離れた場所では人間同士で苛烈な争いを繰り広げていて、轟音は戦いの余波によるものだということがようやく分かったのです」
それがこの場所です、と。
丁度良い頃合で到着しましたねと言って、リセルは樹海の終わりでその歩みを止めた。
「うわ……」
ようやく樹海の終わりまで来られたことに喜ぶ暇もなく、僕は顔をしかめる。
そこに広がっていたのは、どこまでも広がる死地の荒野だった。昔はそこで力強く建っていただろう建物のほとんど全ては完全に倒壊し、瓦礫と化して荒野を転がっている。世紀末、という印象を受けた光景は、それがどういう戦いを物語っていたのかを如実に表現していた。
「私も途中で本能的な危機を感じて逃げてしまったのですが、そうですか……見る影もない平地に塗り替えられてしまいましたね。私が見た時は、もっと人工物で埋め尽くされた知性溢れる景色だったのですが……勿体ないです」
名残惜しそうに感慨に耽る彼女の隣。
話を聞きながらも神妙な面持ちで荒野を眺めていたアリシーが、ぽつりと言い放った。
「私、ここから逃げてきたんだよ」




