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ハーベストムーン祭、怪盗が予告をした日がやってきた。もう既に日も暮れて、月明かりが輝き始めた頃。城は騒然としていた。
「おいっ!騎士たちはどこにいる?」
「怪盗はまだ来ないのか!」
「予告日はあっているのかしら……?」
苛立ちや焦り、そういったもので溢れ返っていた。
「——俺がそうも待ち遠しいとは、光栄なものだね。さぁ、待ち遠しい相手が来た気分はどうだい?」
月明かりの差す窓際に、怪盗レイモンドは突如として姿を現した。怪盗はお辞儀をし、まるで、ショーの余興のようにも見える。
「……っ!怪盗!怪盗が出たぞ!」
「ふむ、ここにこれだけ警備を割いているのか……」
怪盗の仕草は終始優雅だ。顎に手を当て、何かを考える仕草をする。
「……は、早く捕まえろ!何、ほおけている!」
執事長が騎士たちに命令する。
「はっ!」
「____________」
怪盗は異国語のようなものを唱える。
「悪いね、長居する気は無いんだ」
怪盗はそう言い、光に包まれて消えた。同時刻、怪盗は魔術師の水晶の置いてある部屋に姿を現した。
「………これが、曾お祖父様の……」
怪盗が水晶へ手を伸ばす、その時、怪盗を制止する声が響いた。
「——怪盗!それに触るな!」
怪盗の手が止まる。そして、ゆっくりと降ろされた。
「……君は?」
怪盗は一切狼狽えることなく、問いかけた。
「僕は探偵ヴェリタスです」
「探偵……俺もナメられたものだ。君のような3流を寄越すとは……」
怪盗は小馬鹿にするように笑うこともなく、淡々と告げる。探偵の表情はその言葉を聞き、少し崩れる。
「貴方は、何を目的としているのですか?この国の天才魔術師レイモンドの名を汚す理由は?」
「……君の声は頭に響く。少しは黙ってはいかがかな」
怪盗はそう言い、探偵ヴェリタスと向き合う。ヴェリタスは目を見張った。怪盗の服装がとても怪盗には見えなかったからだ。どちらかと言えば、貴族の紳士のように見える。貴族と違うところを挙げるとすれば、それは仮面で顔を隠しているところだろう。
「怪盗風情にそう言われる筋合いはありません」
「そうかい。好きに言うといい。だが、俺の邪魔はするな」
怪盗はヴェリタスなんぞ、眼中に無い様子だ。
「邪魔ではありません。貴方は捕まるべきです。魔術師の水晶はレイモンドの最高傑作ですよ!」
「俺はレイモンドだ。自身の作品を取り戻して何が悪い?」
怪盗は本気でそう言っているようだ。そうこうしているうちに怪盗は先程と同じ異国語を発した。
「____________。さぁ、探偵、時間切れ。それとだな、残念ながら、それは偽物だ。よく見ることだな」
怪盗はそういうと、光と共に消えた。同時刻、怪盗はある高貴な姫の部屋に姿を現す。
「……」
怪盗は目の前にある目当ての魔術師の水晶を手に取り、月明かりに照らした。不意に誰かが怪盗の腕を引っ張った。
「——ねぇ、貴方。どうやって入ってきたの?凄いわ、ねえ教えてちょうだい?」
「…離してくれないかい?君に構っている暇はない」
そう怪盗は低い声で不愉快そうに告げた。
「まぁ、そんなこと言ったら、わたくし、大声で叫ぶわよ」
いいの?とミラは畳み掛ける。
「…はぁ、何が望みだ、貴族のお嬢様?」
怪盗はたまらず、頭を抱える。誰が、貴族…それも王族のお嬢様がこんなに面倒だと予想できただろうか。
「ねぇ、さっきのはマジックなのよね。どうやったの?」
「…マジック?はっ、あんなペテン師共と一緒にするな」
怪盗は酷く軽蔑した顔をする。
「なら、あなたは何なの?」
「……答える必要はない。早く手を離せ」
怪盗はミラの手を振り払う。
「……でも、そうだな、我が偉大なる祖先が誤解されるのは避けたい…俺は魔術師だ。あんなペテン師共とは違う」
「あら、魔術…魔術師……!」
ミラの目が輝いた。それは好奇心からか、はたまた思惑からか。怪盗の表情は明らさまに歪む。
「それは病気も治せるの?怪我も治せるの?」
「どこか怪我でもしているのかい?」
怪盗からの返答、それはミラの質問を肯定したという事でいいだろう。ミラの目はますます輝く。
「いいえ…でも、治したい人がいるの……」
怪盗は何も言わない。ミラはもう一歩怪盗に近づいて言った。
「——ねぇ、わたくしを弟子にしてちょうだい」
「……はぁ、断る。ほら、早くどけお嬢様」
「嫌よ。まだまだ気になることがあるの。教えてちょうだい」
ミラはもう一度近寄る。その時だった。廊下から勇ましい騎士たちの叫び声が響いた。
「——こっちにいるはずだ!急げ!」
はぁ…と怪盗はため息を吐き、何かを小声で呟く。
「____________」
異国の言葉なのか、はたまた別の何かか、ミラには聞き取れなかった。
次の瞬間、怪盗の足元が淡く光り出し、魔法陣のようなものが浮かんでいた。
「では、失礼する。お嬢様」
「えっ?待ってちょうだい。私も連れて行って——」
魔法陣に駆け込んだミラごと、輝き、そして消えた。




