ノマディ族の選択
大所帯となっても旅は続くようです。
「本日も晴天なーり!目が覚めるような青空だな!…うぅ、でもやっぱ寒い…。」
ホバーボードハウスから外に出て思いっきり伸びをする楽。ノマディ族と肉パーティでワイワイ盛り上がった翌日は雲ひとつない快晴だった。
「といっても、ラグジュン平原に来てから一度も雨降ってないんだけどね。」
魔物達が降りてこれない深い穴の中、更には凍った魔物達がいい感じに熱ガードとなってくれていて、久しぶりの安全圏。ガンガン火を焚き好きなだけ飲み食いする。心身ともに充実した一夜を迎え、程よい充実感からかいつも以上に辺りが美しく感じてしまう。
「お、楽さんおはようございます!」
「カップさん早いですね。調子はどうですか?」
「おかげさまで、昨日は久しぶりにゆっくり休むことができました。寒さの限界が来ていた仲間達もなんとか回復して、これならまだまだ頑張れそうです!」
「何を言っておる!お前達はこれから街に帰るんじゃ!」
やる気を漲らせるカップさんの声に、爺さんが呆れて苦言を呈す。相変わらず爺さん達は朝が早いようで、ぶら下げたバケツやブラッシング用のブラシなどをみるに、サテュロスの世話を終えて戻ってきたところなようだ。
「何言ってるんだ爺さん!まだ奪われたもん取り戻せてないんだぜ?」
「食料を取り戻したんじゃろ?じゃが、見てみろ。楽達のおかげで十分な食料が確保できたではないか。」
そう言って上を見上げる爺さんの視線の先には昨日と変わらずカチカチに凍った魔物の群れの姿が。仮死状態だから鮮度もバッチリ。ノマディ族の村の規模感は分からないが凍った魔物はざっと1000はいる。きっとこれだけあれば飢えることはないだろう。
「奪われたまま見過ごすことなんてできるもんか!あいつらは俺達ノマディ族を食料庫扱いしたんだぞ!?」
「敵は何人いるかも分からぬのじゃぞ?もし大群だったらお前達15人ぽっきりではかすり傷さえ与えられぬぞ。」
人族に襲われ食料の備蓄場所をはかされた村人の話によると、敵は時は数人で現れ、あっというまに制圧されたようだ。話し振りから考えるに敵の仲間達は別の場所に待機していて少数精鋭を送り込んでいたようだ。つまり敵の規模を把握することができなかったらしい。敵の戦力も分からず向かっていくとは…無鉄砲。若さかねぇ。
「村のみんなが毎日頑張って準備してきた食料だぞ!爺さんは、勝手に持っていかれたのを指を咥えて見てろと言うのか!?」
「命をかけるほどではないじゃろ?お前達若者を失えば村の未来はない。」
「しかし…、一族の誇りが…、踏みにじられたのだぞ!簡単に奪えると思われたら何度でも繰り返される!」
悔しさで歯を食いしばるカップ。
「だったら嫌がらせだけしましょうよ。」
カップは食べ物を取り戻したいというより、ノマディ族が軽んじられたことの方が悔しいようだ。だったら食べ物を取り戻すのが目的ではなく、ノマディ族に手を出すと面倒くさいと知らしめたい、ということだと思う。敵の戦力すら分からない状態で奪還を試みるのは無謀だけど、嫌がらせならば少人数でだってできるしね。
「嫌がらせじゃと?何をするんじゃ?」
「んー、例えば目の前で豪勢にどんちゃん騒ぎして、奪いにこようとしたら逃げる。これを繰り返すとか?敵は軍用飯として食料を奪ったんだよね?だったら節約しながら食べていると思うんだ。目の前で豪遊されたらむかつくだろ?」
「そんなの直ぐに奪いに来ると思うぜ?」
「だから逃げるんだよ。付かず離れずのところでずっと宴会して精神削るんだよ。」
「なるほどな。それは…想像しただけでむかつくな。しかしそんなうまくいくのだろうか?」
「食材は豊富にあるし、こだま達がいれば逃げるくらいならきっと大丈夫だ。それにうちにはエティもいるからな!」
「ん?オラ?」
「そうだぞ。派手に遊ぶのが得意なお前がいればな。鬼ごっこ得意だろ?」
「おぉ!鬼ごっこならオラに任せろだぞ!」
「ね?危なくなたら退散すればいいし、悔しがる顔を拝めれば少しは溜飲も下がるだろ?」
「うむむ。まぁ、ちょっと嫌がらせして逃げるぐらいなら…。一泡吹かせられるのもよいかもじゃな。」
「よし、楽さん!その作戦で行こう!」
「カップは考えなさすぎじゃ!薮蛇だってありうる。本当に…うまくいくのじゃろうか?」
「迷ったらやる、をおすすめしますよ。やらなかったって後悔する方が、やって後悔するより長く引きずるもんですからね。」
「むむぅ。それも一理ある…のか…。」
迷ったらやる、ということで俺達は早速人族を追いかけることに。その前にまずは凍った魔物の下処理。全部捌いていくと時間がいくらあっても足りなさそうなので溶けて襲われるというリスク回避のため、トドメだけ刺していきこだま庫に凍ったまま格納していく。
「この量を収納できるなんて…。」
こだまを見て絶句するノマディ族の面々。わかるよ、爺さん。世界基準が分からないけど規格外なんだよね。
生暖かい視線を送りつつ、続いて落下して死んでしまったサテュロスも同じく冷凍処理。怪我をして動けなくなったサテュロス達はリアに治療してもらった。後は移動手段を失ったノマディの若者達の移動手段の確保だが、そこは馬車を作り、荷物用だったサテュロスに引かせることにした。馬車に関してはノマディ族の持っていた荷物を組み合わせて作られている。最悪の場合を想定して荷物や人の運搬方法を臨機応変にするノマディ族の知恵らしい。少ない素材で作られた馬車は古代ローマ戦士の戦闘用馬車みたいで、なかなかかっこいい。
そんな感じでちゃちゃっと準備して再びラグジュン平原をひたすら進んでいくことに。
「見ろ、ラグジュン平原の終わりが見えてきたぞ!」
大所帯となった俺達は見張りや偵察など役割分担できるようになり今まで以上に順調な旅が遅れるようになっていた。見張りにたくさん人が割けられるようになったことで火を起こすリスクも減り、寒さの限界を超えるものも出なくなった。ある程度ラグジュン平原に順応できるようになった頃、ついに平原の終わりが見えてきた。カップ達と合流したのがラグジュン平原の半分も来ていない地点だったので、それなりに時間がかかったが漸く旅のゴールだ。ラグジュン平原の外、見えてきたのは巨大な岩が点在して見える草原だった。平原に入った時同様、薄く青いカーテンをすり抜け平原へ出てみると、突然空気が、そして温度が変わる。
「入った時もそうだが、気温差が半端ないな…。しかし漸く寒いのとおさらばだ!」
念願の外は決して暖かいわけではなかったが、ラグジュン平原の肌が痛むような極寒と比べれば北の地程度の気温。全力防寒具を脱ぎすて、久々に身軽となった体をしっかり伸ばしていく。寒さで筋肉も萎縮していたのでパキパキ音がなるが、伸びで解れるのはとても気持ちいい。思いっきり息を吸い込んでも肺が痛まないのもうれしい。ストレッチしながら辺りの景色を観察してみると、巨大な岩は大きいものは一軒家ぐらいありそうなものもあれば成人男性ぐらいの大きさのものなど様々、地面は草原というなんとも不思議な組み合わせだった。砂利道は走りづらいので草原の方がいいのだが、岩を避けなければいけないので真っ直ぐ走るのは難しい。非常に移動にストレスのかかりそうな草原だ。そして草原の北、遠くには黒っぽい山脈が壁のように立ちはだかっている。
「あの山は?」
「あれは、トラムンターナ山脈じゃ。」
「トラムンターナって魔族の国の?」
「トラムンターナ国はあの山脈の中にある。30以上の険しい山の中腹、一際でかい山は頂上がスパッと切られたように平らになっていてな、そこにトラムンターナ国があると言われているのじゃ。」
「言われている?」
「わしらノマディ族はトラムンターナ国とは交流を持ったことがないのじゃ。だから実際に見たこともなければ行ったことがあるという者にも会ったこともないのじゃ。」
「なるほどねぇ。でも30以上の険しい山々か。本当に人族はそんなトラムンターナ国に攻めいるつもりなのかな?」
遠くからみると黒くて鋭く、トゲのようにも見える山脈。あの山はそう軽々超えられるとは思えない。
「たぶん海沿いから攻めるんだと思う。」
俺の疑問に首を傾げ、分からないと首を振るノマディ族の爺さん達。そんな俺達にリアが推測してくれた。
「トラムンターナ山脈は海沿いにそびえ立つ山脈。トラムンターナ国のある一番大きい山も海に面してるって聞いたことあるから。それに人族はチャンチョンで合流しようとしてるんだよね?海沿いを進んでそこから進軍しようと考えているのかも。」
「なるほどチャンチョン!…ってなんだっけ?」
「お前さんはそんなことも知らんのか?チャンチョンは巨大な道の遺跡じゃ。」
「そうだったそうだった。通路の遺跡ってのがあるんだっけ?話だけ聞いてると万里の長城みたいだな。」
「ばんりの…なんとかってのは聞いたことないが、ふむ、あそこは確かに海岸まで伸びているから、海側から進軍。あり得る話じゃな。」
トラムンターナ国は頂上が平らになっている山にあるのだという。山の天辺をスパッと切り落としたみたいって想像すると非常に人工的な山に思えてしまう。防犯の意味でも山の上の城塞は攻め落とされにくいし、あえてなのかもしれない。ちょっと見て見たいかも。しかしいくつか山を超えるか、海添えから直接目的の山を登るしかないようだ。山登りは避けられないとなると二の足を踏んでしまうな。
「そんなことより、追いかけてきた人族は?あいつらもうここ通っちゃったかな?」
カップは一際大きい岩に飛び乗り辺りを見渡しながら、目的である人族達の姿を探す。するとリアもカップの立つ岩に飛び乗り遠くを見つめる。するとフードの中のレアとブルーが顔を出し、同じく遠くを睨みつけた。
「まだみたい。遠くにたくさんの気配を感じるから…数日中にはここを通ると思う。」
「数日…君はそんな遠くにいる気配も察知できるか??」
「流石に人数までは分からないけどね。この子達と狩をするようになって気配察知のレベルが上がったの。」
そんな凄い?と思っているのか首を傾げながら答えるリアに複雑な表情のカップ。
リアは人数は分からないというが、そんな遠くに気配を感じるということはかなりの人数が予想される。だって馬で数日の距離から気配を感じるってことはそれなりの人数がいないと分からなくない?何はともあれ、無事先回りに成功した俺達はゆっくり嫌がらせの準備をしながら人族を待ち構えることにした。




