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ノマディの若者救出

魔物を倒すには速攻が一番です。

ルプキメラに餌を押しつけ逃げ出した後のラグジュン平原の旅は割と順調だった。エティも炎系じゃなくそれ以外の魔法で遊んでくれるので魔物に大々的にロックオンされることはなくなった。もちろん偶然遭遇する魔物もいれば物音でバレて襲ってくる魔物もいたが大群でなければ難なく対処できた。むしろ時折現れる魔物は食材ゲットのチャンスでもあるので食べられる魔物はウェルカムだった。


しかし一度だけ、ルプキメラの群れに囲まれたことがあった。ガス欠のルプキメラの群れに餌を置き土産してきて数日経った頃、気がついたら囲まれていた。視界の開けた場所だったため、突然現れた群れに非常に驚いた。どこからやってきたんだろう?動かなくなっている状態でも獰猛さを感じていたがあの巨大な牙と鋭い4つの目、シューシュー音を立てる尻尾の蛇、それも2m級のデカさの魔物が20体に囲まれた時は怖すぎてちょっとちびってしまった。しかしルプキメラ達はじっとこちらの様子を伺い、しばらくしたらいなくなってしまった。よく分からないがきっと彼奴らは赤ちゃんルプキメラの仲間達で、ご飯に免じて見逃してくれたんじゃないかと思う。借りがあるから1度は見逃すよ、的な?


「それにしてもラグジュン平原、めちゃくちゃ広いな。」

「何を言っておるんじゃ、まだ半分も行ってないぞ。」

「えぇ、そうなのー…。もう寒いの飽きたのに。」

「寒いに飽きるも飽きないもない。」

「そうだぞ!それにここはかき氷食べ放題だからいい場所なんだぞ!」


エティの声に振り返るとエティとこだまとクルは巨大なかき氷に色とりどりのシロップをかけて楽しんでいる。かき氷のシロップって実は色と香りが違うだけで全部同じ果糖ブドウ糖液。だから味は一緒だって知ってた?しかしこだま達が使っているシロップは果物の果汁を煮詰めて作ったものなので見た目だけでなく味もカラフルだ。


「お前らこの寒いのによくそんなの食えるな…。」

「かき氷おいしいよ?楽、食べないの?」

「ブルル…。想像しただけで寒くなってきた。俺は遠慮しておこうかな?ありがとうなクル。」

「皆、前方。何かいる。」


突然リアが警戒心を高める。リアが見つめる先には正直何も見えない。爺さん達の方を見ても同じく見えないのか首を振ってくる。しかしリアが見間違えるはずはないので注意しながら進んでいくと次第に何か黒い影のようなものが見えてきた。


「あれは…魔物じゃ!大量の魔物が集まっておるぞ!」


俺なんかより遥かに目のいい爺さん達が黒い影の正体を教えてくれた。影の正体は魔物の集団だったようだ。


「流石にあの量は厳しい。」

「そうじゃな、迂回して避けた方がよいじゃろうか?」

「しかし、このルートが一番安全なルート。下手に外れて大丈夫じゃろか?」

「あの量は流石に無理じゃ。多少魔物の強さは増すが森のルートに切り替えた方がよいじゃろう。」


ラグジュン平原に一番詳しい爺さん達が魔物の大群を前に相談し始めた。


「ダメ。あそこに人の気配がする。」

「人の気配じゃと?」


目視できない距離から魔物の気配を感じられていただけでなく、あんなにたくさん魔物がいると言うのに、人の気配まで感じ取れるなんてリアって規格外すぎません?しかしあの魔物の中にいる人、無事なのだろうか?気配がするってことは死んでいるわけではないとは思うが…。


「その人の気配とやら、どの位の数がいるか分かるか?」

「ん、10人?いや15人いる。」

「15人…。むむ、まさか!もしかしたら若い衆やもしれん!急ぐぞ!」


人数を聞いて焦り出す爺さん達。飛び出して行った若い人達の数が近いようで避ける選択肢は消えたようだ。俺達も戦う準備を整えながらスピードを上げていく。距離が近づくにつれ、魔物の数に驚くこととなった。


「多いな…。」

「ざっと1000はいる。」

「えっ!そんなに??やばくない???」

「あの数に一斉攻撃されたら…大変。」

「いや大変ってレベルじゃないでしょ?こだま、なんとかならない??」


リアが告げる魔物の数に一人驚き、不安になる。なぜ皆は平然としているのだろう。仕方なくこだまに泣きついてみる。


「こだま、なんか一気に動けなくする方法ないのかな?」

「動かなく?」

「そう。だってあんなにいっぱい、一気にこっちにきたら怖いじゃん。」


俺の言葉にしばし考える様子のこだま。そしてリア、エティに声をかける。


「リア、エティ、魔物に雨降らせて。」

「雨ですね。わかりました。」

「ドバーッてバシャーンだな!おらに任せるんだぞ!!」


2人にお願いするとこだまはクルを伴ってホバーボードハウスの先頭に立ち、手を構える。


「バシャーン!!!!」


リアとエティが手をかざすと突然魔物の群れの頭上に雲が出現し、ザァザァの雨が降り始める。2人共基本無詠唱なのだがエティだけは気分で声を上げている。文字通りバケツをひっくり返したような雨が魔物達に降り注ぎあっという間に水が滴る。そこですかさずこだまとクルが魔法を施行。手前の魔物から次々に凍り始めたのだ。


「「「すごい…。」」」


俺だけでなく爺さん達もつい声を漏らす。そしてノマディ族の若者達が目の当たりにしたように、魔物達はあっと間に凍り付いてしまったのだ。


「死んだのか?」


魔物達の所まで辿り着き、爺さんが1匹のアイスラビットの前へと行き恐る恐る魔物を叩く。


「凍ってるけど死んでない。動けないようにしただけ。」

「なるほど。なら…。」


ナイフを取り出し、アイスラビットの心臓に刃を当て一気に押し込む。ナイフはスッと氷ごとアイスラビットの心臓に突き刺さった。凍ってなければ即死の攻撃だ。


「こだま殿、こいつの氷を消せるか?」

「わかった。」


こだまが手をかざすとみるみる氷が溶け、アイスラビットドサっと地面に落ちる。心臓をひと突きされているので息絶えていた。試しにその場で解体してみると普通に狩をした時と同じように難なく解体できる。狩りたてで新鮮そのものだ。


「おぉ、一瞬でしとめられたぞ!これはすごい!これなら魔物の肉が取り放題だ!」


楽に、そして安全に仕留められると分かるや否や、嬉々として食べたい魔物を狩り始める爺さん達。そしてそのまま魔物を倒しつつ中心へと進んでいくと、中心にはまるで月面のクレーターのような巨大な穴が開いていた。大量の魔物達はこの穴を囲うように凍っている。そして穴の下にはノマディ族の若者と思われる15人と何体ものサテュロスがこちらを見上げていた。


「爺ちゃん?」


呑気な会話を続ける爺さん達にリーダーらしき男性が声を絞り出した。


「おぉカップか。皆無事かぁ?」

「サテュロスが何体か潰れちまったが、皆無事だ。しかし一体何が起こったんだ??」

「そうかそうか、無事でよかった。ちょっとまっとけ。今そっちに行って説明しちゃるで。と言うわけで、なんとかならんかのぉ?」


そう言うと爺さんが俺達の方を見てくる。正確に言うと、俺でなくこだまを。こだまが爺さん達に手をかざすと、爺さん達がサテュロスもろとも光に包まれ、フワッと浮かび上がる。そのままこだまと一緒にノマディ族の若者達がいる穴の底へと飛んでいった。俺達もホバーボードハウスで跡を追う。若者達は豪快な魔法と、見たこともない乗り物で降りてくる俺達に絶句していた。


「なんて凄い魔法だ…。それに見たことない馬車?いったい何者なんだ…?」

「こいつらは丁度わしらと同じ方向に旅するっていうことで、道に詳しいわしらと同行することになったんじゃ。こんなに強いとは知らなくてのぉ、おかげでラグジュン平原だというのに楽な旅をさせてもらってるんじゃ!」


呑気に笑う爺さん達に緊張の糸が切れる若者達。安心したのか座り込んでしまうものもいた。


「爺さん達が世話になったようだ。俺からも礼を言わせてくれ。俺はノマディ族のカップ。一応皆のまとめ役をやっている。」

「俺は楽。そんでこだま、リア、エティ、クルだ。爺さん達のおかげで迷わず進めるから俺達も助かってる。礼には及びませんよ。」

「そう言ってくれるとありがたい。それで、上の魔物達は?」

「こだま達の魔法で氷漬けになってるみたいだ。死んだわけじゃないから仮死状態なのかな?」

「あの魔法はすごいぞ!とどめをさしてから解凍すればあっというまに肉じゃ!」


実際に仕留めた戦利品を見せながら爺さん達が興奮気味で魔物達の状態を説明を補足していく。そのため俺達は簡単な説明だけでノマディ族の若者達も状況を理解することができたようだ。


「折角だからここで休憩でもしますか。この穴の高さなら魔物達も簡単には降りてこれないようですし、火を焚いても問題ないでしょう。体が冷えすぎて動けなくなっている人もいるみたいですし、ちゃんと暖をとらないと。」


安心し崩れ落ちたノマディ族の若者の中には体が冷えすぎて顔色の悪い者や手足に凍傷のような症状が出ている者もいる。無事ではあったが満身創痍な状況になっているようだった。そこで俺達は豪快に幾つもの焚火を起こし、さらにたくさん料理が作れるように簡易的なかまどもいくつかつくった。こだまが。

そして料理は俺とリア、爺さん達で手分けして作ることに。若者達はとにかく体を温めてもらっている。


「す、すげぇ…。」


若者達の前にずらりと並ぶ熱々料理の数々。すぐに冷めてしまうので火にかけたままで、よそってすぐ食べるビュッフェスタイルだ。爺さんが腕を振るう巨大な鉄板で次々焼かれるステーキ。肉の種類もアイスラビット、アイスボア、アイスベアとレアな食材ばかり。俺は体を温めるためのシチュー担当だ。そしてある程度味が決まったらリアに管理を任せ、こだま達用にハンバーグ作り。こちらも3種の肉でバリエーション豊富だ。最初はこだま達用として作っていたが結局全員欲しがったので後半は爺さん達にも手伝ってもらった。


「プファー、もう食えねぇ!」

「こんなうめー飯初めてだぜ!」

「俺もう死んでもいいっす!」


若者達はものすごい食いっぷりでどんどん食材を腹に収めていく。これだけ食欲があれば回復も早いだろう。後はしっかり温めて寝れば明日には動けるかもしれない。


「うまうまうまうまうま。」

「初めてたべたけど、アイス系の魔物って獣臭さがなくておいしい。」

「本当なんだぞ!楽、オラのシチュー、ハンバーグ追加して欲しいんだぞ!」

「クルかき氷食べたい!」


うちの子達はもちろん平常運転だ。

こうしてノマディ族の若者と合流した俺たちは宴会に近い派手な夕食を堪能し、贅沢に火を起こして一夜を迎えたのだった。

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