ノマディ族の若者達
ついにノマディ族の若者達に追いついたもようです。
「逃げろ!!!!」
「兄貴、やばいっす!どんどん集まってくるっす!!!」
「余裕のあるやつは少しでも魔物共を足止めするために攻撃するんだ!火属性しか使えないやつは石を投げ込むんだ!」
盗まれた備蓄品を取り戻すため人族に追いつこうと、ラグジュン平原でショートカットを試みたノマディ族の若者達は大量の魔物達に追いかけられていた。
「どうしてこうなった…。」
若者達の兄気分であるカップはサテュロスを鼓舞しながらひとりごちる。
ラグジュン平原が寒いことは幼い頃から長老達に耳にタコができるほど聞かされていた。少しでも火を焚けばたちまち魔物が集まってくる。ラグジュン平原の魔物は常に飢えている。滅多に現れない暖かい獲物を確実にしとめにくるだろうと。
旅は最初順調だった。極寒の中、乾き物の食事ばかりには辟易していたが動いていれば少しは暖かかったし、運良くそこまで強い魔物には遭遇しないで進むことができた。しかし日を追う毎に寒さに耐えられないものが出てきたのだ。限界がきた者達を中心に他の者が囲う形で火を起こせば魔物も気付かないのではないか。誰かがそう言い出し、最終的には俺が決定をしたのだから俺の責任だ。俺達が火を起こすと程なくして1匹の魔物が現れた。火に気づいたのか、それとも偶然遭遇したのか…。
「アイスラットが寄ってきたか。だが1匹ぐらい大丈夫だ。火が洩れぬよう、外側の者だけで対処するんだ。」
1匹ぐらいなら大丈夫と剣を構えると、やつは武が悪いと悟ったのか突然声高々に吠え出す。
「まずい!仲間を呼ぶつもりだ!!!ネズミとはいえ、数が多いと面倒だ!」
俺は敵の狙いを察知し、すぐに切り掛かる。一撃で、とは行かなかったがなんとか倒すことができた。
「あ、兄貴!!!!」
アイスラットの解体をしようと屈んでいた俺は、気づくのが一歩遅かった。仲間の声に顔をあげると、アイスラビットと数体近づいてきていた。
「なっ…。遅かったか!まさか他種族の魔物を呼び寄せるとは…。」
「兄貴、アイスバットも来てます!!」
見れば別の方向から飛んでくる魔物が見える。流石にこの数はまずい。そう判断した俺たちは、火を放棄し逃げることに。すぐさまサテュロスに飛び乗り、全力で走らせる。火の側から離れる分には魔物もそちらに気を取られて逃げやすくなるだろう、そう思っていたのだが、その考えが間違えだったことはすぐにわかった。
「兄貴!!森から…!!!」
火を隠すのをやめた途端、森の方から咆哮が響き、魔物がわらわら出てきたのだ。例え火の側にいないとしても、目視されたら元も子もないというのに。まさか、こんなことになるとは…。火で集まった魔物達は確実に俺達を獲物と見定め追いかけてくる。足の強いサテュロスといえども、何日も走らせてきて疲れが溜まっている。どこか隠れる場所を見つけなければ…。そう考え前方を見据えるのだが目の前に広がるのはどこまでも続くなだらかな平原。森に入るべきか。そう思った瞬間、突然地面が崩れたのだ。
「うわっ!!!」
「兄貴ー!!」
まるで落とし穴。崩れた地面は土煙を上げながらノマディ族の若者達を下へと突き落とした。
「ゴホッゴホッ…。み、皆無事か…!?」
「だ、大丈夫です…!」
「こっちも大丈夫っす!」
「無事だが、サテュロスがやられた…!」
土煙が落ち着いてきたところで辺りを見回すと仲間達はかすり傷程度で全員無事だった。しかし何頭かのサテュロスが足を折るなど動けなくなっていた。どうやら俺達はサテュロスがクッションとなって助かったようだ。ここで足を失うのはかなりまずい。回復魔法が使える仲間達に、まだ息のあるサテュロスを助けるよう指示を飛ばす。
「兄貴!魔物達が!!!」
落ちてきた穴から見上げると穴の淵から魔物達の群れが見下ろしていた。しかし穴の深さは4・5メートルはあろう深さ、穴へ降りてくることはせず、出てくるのを待っているようだ。
「くそ、諦めの悪い魔物共だ。しかし、降りてこようとしないのだけは助かったな。みんな一旦ここで立て直す。小休止だ!」
「え、こんな所で休憩するんですか??」
「魔物達は俺達が出てくるのを待つ腹づもりのようだし、どうせ俺達も動けん。落ち着いて状況確認し、何か手立てを考えるんだ。ジェネ、お前達は魔物を見張れ。もし降りてこようとする奴がいたら弓と魔法で迎撃。タビブ、お前達医療班はサテュロスの治療、残りの者は戦闘に備えつつ交代で休むんだ。」
「「「了解」」」
俺達は魔物に警戒しながら自分達の置かれている状況を確認していく。ノマディの若者兵の全15人は無事だった。しかし足として、荷物運びとしていたサテュロス20頭は5頭が即死。7頭が骨折し動けなくなってしまっていた。即死のサテュロスは仕方ないので解体し食料とすることに。幸いこの地は天然冷凍庫。処理しておいておくだけで自然と凍ってしまうので楽である。食べるためには火を起こさないといけない点を除けばだが。
「仕方ない。ダメになったサテュロスの肉は火を起こして焼こう。」
「え、火を起こすんすか?」
「どうせ膠着状態。すでに大量の魔物に囲まれているんだ、生肉を凍らせて食べれなくなるよりは、干し肉にする方が優先だろう。だが、火や匂いに我慢できず降りてくる魔物がいるかも知れん。警戒は怠るな!」
食べ物を無駄にしないためだけではない。思い切って火を起こし、限界に近かった仲間達の体力を回復させようと思ったのだ。毛皮も新たな防寒具となる。寒さが耐えきれなくなった者達に優先的に使うように指示を出していく。
そして自分達の状況を確認できたら、次は落ちた穴。深さは先ほど目視した通り4・5メートル、いやもう少しありそうだ。魔物達が降りてこようとしていないところをみると、下手に飛び降りると魔物達でも簡単に出ることができない高さなのだろう。アイスバットは飛べるので降りてこれるはずだが、あいつらは他の魔物のおこぼれを狙う魔物。今のところ率先して降りてこようとはしていない。直径は15メートルほどでどうやら枯れた地下水道でできた空洞が崩れたもののようだ。土壁に囲われている状態で抜け道となりそうな穴などはなかった。その土壁だが、ゴロゴロと石が詰まっていて簡単に掘ることも出来なさそうだ。
「しかしあの魔物の量。見てるだけで気味が悪いな…。」
「本当っす。で、兄貴何か策は思いつきやしたか?」
「お前は人に頼りすぎだ!少しは自分でも考えてみろ!!」
「仕方ないっす!自分考えるのは苦手なタイプっす!!」
「自慢げに言うなっつうの…。」
危機的状況にもかかわらずいつも通りの軽口に少しだけ心が解れる。しかし完全に手詰まり状態。何か状況を打破できるきっかけはないものか…。そう思った時だった。魔物達が騒ぎ出したのだ。
「な、なんだ?」
とっさに皆で背中合わせに輪になり、魔物達を警戒する。最初はこちらだけを見ていた魔物達が次第に他の方向を気にするようにソワソワしだす。そして、
「な!?」
魔物の上に雨が降り出したかと思えば、魔物が突然凍りはじめる。1匹凍ったと思ったら、その1匹を中心に弧を描くように次々と。そして瞬く間に全ての魔物が凍りついていった。呆気にとられていると続いてドカドカ、岩を砕くような鈍い音が響いてくる。そして聞き慣れた声も…。
「おぉ!アイスラビットじゃ、アイスラビットじゃ!さっぱりしててうまい肉なんじゃぞ!」
「アイスボアもおるぞ!」
「こっちはアイスベアじゃ!」
「ふぁっふぁっふぁっ!今夜は肉祭りじゃ!
「ふぉっふぉっふぉっ!こりゃ食べきれんわい!」
「ふぃっふぃっふぃっ!明日は腹いっぱいで動けんの!」
まさか…、そんなはずは…、と思いつつ警戒していると、凍った魔物を砕いて頭をひょっこり出して覗いてきたのはノマディの爺さん達だった。




