餌付け
野生の生き物に餌を与えるのはいけないことです。(2回目)
翌朝外に出てみると、毛玉の魔物は昨日と同じ場所、台の上で毛繕いをしていた。朝の光を浴びて白い毛がキラキラして見える。昨日よりも心なしか毛に艶が出た気がする。昨日よりも心なしか毛並みがよく見える所を見ると大分体調が良くなったようだ。俺達が現れると、毛玉の魔物は毛繕いを止めてじっと様子を伺ってきた。
キュルキュルキュルキュル
「楽、ハンバーグ。」
「魔物さんお腹すいたの?クルも!」
俺達を見て腹を鳴らすってまさか俺達を獲物と認識した…なんてことないと信じたい。
「餌をくれるって思ってるだけだと思うよ。」
複雑な表情で見ていると横にリアがやってきて俺の思考を読み取り答えをくれる。
「昨日食べてすぐ寝たくせに、餌をくれた人は覚えてたんだな。あれ、レアとブルーは?」
「まだ警戒している。ほら。」
リアの視線の先、背中のフードに視線を送るとフードの中にはレアとブルーが入っていてじっと魔物を見ている。
「え、レアとブルーっていつもここに入ってたの?」
「気づかなかったの?」
「いや全く…。」
姿が見えないから存在から忘れ気味だったけど実はいつも近くにいたという事実に驚く。俺は気配とかよく分からないけど皆んなはこいつらの存在知っていたのだろうか?
「おぉお前さん達起きてきたか。」
「サテュロス達も元気そうだし、朝飯食ったらすぐ出発するぞ。」
声に振り向けば爺さん達がサテュロスの世話を終えて戻ってきた所だった。さすが爺さん朝が早いな。
「それで、そのルプキメラの幼体はどうするつもりじゃ?」
「ルプキメラ?」
「そうじゃ。昨日の夜は気づかなかったが、その魔物はルプキメラと言ってこのラグジュン平原に生息する魔物じゃ。ラグジュン平原の狩人と呼ばれていて本来は群れているはずじゃが、そいつはまだ子供だからきっと群れから逸れてしまったんじゃろ。ルプキメラはかなり仲間意識が強い。あんまり長いこと捉えていると仲間が探しにくるやも知れん。早いとこ逃した方がよいな。」
「へー、やっぱりこいつ子供だったんだ。でもそっか、仲間が探してる可能性があるなら早いとこ逃した方がいいかもな。」
「楽、楽、オラ腹減ったぞ!」
「ハンバーグ。」
「クルもお腹すいた!」
キュルキュルキュルキュル。
「…取り敢えず朝食食べてから考えますか。」
俺はチャチャっと皆んな朝食を用意することに。昨日のスープの残り物とパンにハムエッグ。朝だし軽めがいいと思うのだが食べ盛りにはハンバーグを作ってあげた。
「昨日と言いこの朝食と言い、まさかラグジュン平原で温かい食べ物が食えるとは…。」
「本当じゃ本当じゃ。体が冷えないから体も問題なく動く。これなら仲間達に追いつくのも早いかも知れんのぉ。」
「よし、目標は今日中に若い衆を捕まえるぞ!」
皆んな朝食もお気に召してくれたようで、鋭気を十分補充できたようだ。ハンバーグを与えたルプキメラももりもりかぶりついている。昨日はぐったりとしていた尻尾も今日は元気になったようでシャーシャーいいながら揺れている。気分がいいからなのかも知れないがちょっと怖い。
何はともあれ温かい食事で俺達も爺さん達も大満足な朝食となった。やはり寒い場所こそ温かい食事が大切だな。
「さて、飯も食い終わったし…魔物を逃さなきゃだな。」
俺達は休憩所を片付けて出発の準備を終えたらいよいよ魔物を逃す番だ。俺とこだまとこだまの頭の上にいるクルは魔物の入った柵を魔法で丸ごと持ち上げ、周りを囲っていた柵の外まで持っていった。そして十分距離をとった状態で柵を消し去る。これなら万一襲ってきても対応できるし、あいつも逃げやすいだろう。
柵が消えると最初は突然の変化に驚いた様子のルプキメラ。しかしすぐに自由に動けるのだと理解したのか高くジャンプしたり左右に行ったりきたり大きく動きだす。そしてタッと大地を蹴って走り出す。
「うん。無事帰って行ったな。これでルプキメラの仲間に襲われる心配は回避できそうだ。じゃ皆んなのところに戻ろr」
「戻ってきた。」
「え?」
こだまが指差すので思わず振り返る。すると走り出したはずのルプキメラがこちらに向かって走ってきている。そして俺達の前まで来ると俺と平原の方を交互に見る。
「何か言ってるのか?」
俺は困ってこだまを見る。
「お母さんもお腹すいてるって。」
「え、ルプキメラがそう言ってるの?」
「うん。」
「えぇーそこは面倒み切れないよー。」
するとルプキメラが更に俺の足元までやってくる。そしてクルンと後ろを向くと、カプッ、尻尾の蛇が俺のズボンの裾を噛んだのだ。
「…え?おわっ!!」
するとルプキメラは足取り軽く歩き出す。俺を仲間のところに連れていくつもりらしい。
「こだま、何とかしてくれ!」
「でも魔物さんのお母さんがお腹すいたって。かわいそうだよ?」
「お腹すく、よくない。」
助けを求めても魔物に情が移ったのか普通に歩き出した。焦る俺の声が聞こえて異変に気づいたのかリアとエティ、爺さん達が俺たちの方にやってきた。
「楽、面白そうなことしてるぞ!」
「これのどこが面白そうなんだ?エティ早く助けろ!」
真っ先にやってきたエティはなぜか楽しそう。
「むむ。どうしたんじゃ?」
「なんかこいつの母さんもお腹すいてるから助けろって言ってるみたいで…。」
「それでズボンを引っ張られておるのか。人を襲わず人に助けを求めるとは。子供とは言え変な魔物じゃな…。」
「お腹すく、よくない。」
「お母さんにもご飯あげよう?」
「でも魔物危険じゃない?」
「お腹すく、よくない。」
「お母さんご飯だめなの?」
「えっと、これどうしたら…?」
助ける一点張りのこだまとクルに困り、リア達に助けを求める。しかし皆んなこだまとクルに甘いので止めようとしてくれない。こうなったら爺さん達を味方につけるしかない!
「大人の魔物に会いにいくのは流石に危ないですよね??ね!!ね!!!!」
「本来は避けた方が良いのじゃが…。」
「でもまぁ、ちっこいのも、エルフの嬢ちゃんもかなり強いしのぉ。ふぉっふぉっふぉ!」
「なによりクル坊のお願いは断れんしの!ふぁっふぁっふぁっ!」
「そうじゃそうじゃ。ふぃっふぃっふぃっ!」
「よし、そうとなったらさっさと行くぞ!」
止めるどころか背中を押してくる爺さん達。笑ってるけど、魔物ってこんな感じで関わっていいものなの?あと爺さん達、笑い方独特ですね?
様々な疑問を飲み込み赤ちゃんルプキメラに続くと、辿り着いたのは森の奥、岩がゴロゴロ転がる崖の麓だった。
「いる…!」
俺は気配とかそう言ったものがよく分からないが、リアが岩場に近づいた瞬間気配を察知したらしい。
「もしかして魔物?」
「うん。しかもかなりたくさん。」
「えっ母ルプキメラの他にもいるの?やっぱ危なくない??」
「分からない。行ってみよう。」
赤ちゃんルプキメラは機嫌よさそうに岩の間をぬって更に進んでいく。尻尾の蛇がリズムを刻むようにゆらゆら揺れているので分かる。機嫌がいいのはいいことだが揺れる蛇、ちょっと不気味。いろんなことを考えながら岩を乗り越えていくと、一際大きい岩が見えてきた。赤ちゃんルプキメラはタンッと岩に飛び乗り俺達に振り返る。どうやら目的地についたようだ。リアと爺さん達が心なしか警戒を強めているようだから、俺も警戒しておいた方がよさそうだ。赤ちゃんルプキメラが急かすので気を引き締め直しながら岩の裏をそっと覗いてみる。
「ヒッ…!」
「シッ!静かに。この数に襲われたら流石にひとたまりもないぞ…。」
ルプキメラはどれも2mはあるのではないかと思われるほど大きい。そして、どのルプキメラの口にも巨大で立派な牙が覗いている。赤ちゃんルプキメラの牙で驚いていたが、それが可愛く思えるほどに鋭そうだ。そんな恐ろしい見た目の巨体がこのスペースに20体はいるんじゃないかと思われる程ぎゅうぎゅうにひしめいていた。
「…大丈夫。多分襲う力残ってなさそう。どれも動こうとしてないでしょ?もし動く力があっらとっくに襲われてたはず。」
「確かに、こんなに近づいてるのにこちらを見ようとしない。まさか死んでる??」
「ルプキメラ、死んでないぞ!でもすっごいガリガリだぞ!」
見るといつの間にか群れの真ん中にいるエティが、ルプキメラの1体を持ち上げてこちらに見せている。大胆すぎるぞエティ。しかしルプキメラ達は抵抗する力がないのかぐったりとしなだれている。エティが言うように、どのルプキメラも長い毛の上からでもわかるくらい痩せこけていて生きているのか分からないぐらいぴくりとも動かない。
こだまがルプキメラ達の状態を魔法で調べたところ、なんとルプキメラ達は餓死寸前の状態、痩せ具合、エネルギーの残り具合からすると2ヶ月近く食べてない状態らしい。
「本当にお腹空いてるのがいるとは…。」
「ガルッ♪」
ホントだったでしょ♪とでも言っているように赤ちゃんルプキメラが俺に答える。ように、喉を鳴らす。
動かないとはいえこれだけの魔物の前にいるのは流石に不安なので、俺達は一旦岩場の手前まで戻ってきてどうするか相談することに。話し合った結果、プキメラの群れ用のご飯を作ることにした。綺麗事かも知れないがあれを見ちゃったら魔物とは言え見殺しするのは気がひけるし、ご飯さえ置いてけば赤ちゃんルプキメラも俺達を開放してくれるだろう。ただ動けるようになった途端襲われたらたまったもんじゃないので離れた場所でご飯を用意し、こだまの魔法でドーンとデリバリーする作戦にすることとなった。そうと決まればさっさと終わらせて出発したいということでリア、爺さん達にも手伝ってもらうことに。こだまとエティには餌用の狩をお願いした。
用意するのはホットミルクとハンバーグ、そしてステーキだ。1ヶ月ぶりの食事だから消化に良さそうなミルクとハンバーグ、食べれるやつはステーキの方がよいだろうと考えてこの3品だ。寒い中生肉のまま置くとすぐに凍ってしまうかもしれない。そのためどれも熱々で提供することにした。食べる体力がどの程度残っているかは分からないが、食べ終わるまでに凍らないことを祈るばかりだ。狩りをお願いしたこだまとエティがあっという間に、そしてつぎつぎ獲物を捕まえてきてくれたこともあり、小一時間で相当量作ることができた。
「よし、こだま頼むぞ!」
「分かった。」
こだまがご飯に手をかざすと大量のご飯がスッと宙に浮き、ルプキメラの方へ飛んで行った。
「お前も仲間のところに戻りな。」
空飛ぶご飯と俺達を交互に見ていた赤ちゃんルプキメラ。ここが別れの時だ。俺が声をかけると言葉を理解したのかは分からないがご飯を追いかけるように岩場の方に走って行った。赤ちゃんルプキメラが見えなくなったのを確認し俺達は急いで岩場を後にしたのだった。




