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迷い魔物

野生の生き物に餌を与えるのはいけないことです。

「こだま?」


皆でわいわい、寒い所で熱々料理に舌鼓を打っていたら突然こだまがすくっと立ち上がった。


「お客さん。」

「え?お客さんって?」

「クル?」


俺の問いかけに応えることなくスタスタ歩いていくこだま。こだまの頭の上でご飯を食べていたクルも強制的に連れ出されてしまったので、兎に角着いていってみようと後を追った。

こだまは部屋を出て、更に森の奥へと向かっていく。程なくして俺達が念のためにと設置していた氷の壁が見えてきた。流石に荷物運びのサテュロスは部屋に入れられないので魔物除けとして設置していたものだ。壁に近づいていくとコツコツと微かに音が聞こえる。そして壁のそばまでやってくるとどさっと何かが落ちる音が聞こえた。

こだまは迷うことなく氷の壁を魔法で溶かす。すると壁の外には、


「毛玉?いや…けむくじゃらな犬?」


そこに落ちていたのは白く長い毛並みの犬のような生き物だった。どうやらこの生き物が氷をコツコツ叩いていたようだ。今は力尽きたのか地べたに横たわっている。


「小さいな。子供…なのかな?」

「楽、ハンバーグ。」

「え…こだままさか…。しかもお前今ご飯食べたばっかなのに…。」

「?」


こだまの発言と毛玉を交互に見ながらギョッとした表情を向けたのだがこだまは首を傾げる。するとこだまの頭の上にいたクルが頭から飛び降り毛玉に近づく。


「ちょ、クル、危な…」


慌ててクルと止めようとするがクルは気にせず毛玉に近づき、手に持っていた食べかけのカップケーキを毛玉の前に差し出す。デザートで食べていたものだ。すると毛玉の鼻がぴくりと動き、わずかに口を開ける。弱っているのか非常にゆっくり開いた口にはめちゃくちゃ鋭利な牙がのぞいていた。その僅かに開いた口にクルはカップケーキを無理やり押し込む。毛玉は弱々しくだがゆっくり口を閉じ、咀嚼。そしてゆっくりと飲み込んだ。


キュルキュルキュルキュル…。


空腹に食べ物を入れ、活発になったからか毛玉からお腹の音が鳴り響いた。


「ハンバーグ。この子必要。」

「な、なんだこの子の為のハンバーグだったか。でもこの子は…?」

「魔物。」

「えっ、じゃあ危ないんじゃ…。」

「でもお腹空いている。かわいそう。」

「ご飯あげないの?」


こだまとクルが同時に俺をじっとみつめる。魔物ですよ?しかし、こだまとクルは訴えるように俺を見上げる。これじゃおれが意地悪言ってるみたいじゃないか。毛玉に視線を向けると、突っ伏したまま動かなくなってしまっている。


「はぁ…。何にせよここにはハンバーグないし、連れていくか。」


2人のじっと見攻撃に耐えられなくなり早々に折れる。襲ってこないよな?とビクビクしながら毛玉にそっと触れるが動く気配なはい。もう一度深くため息をつき、意を決して毛玉を持ち上げる。毛が長いので大きくみえたが持ち上げてみると非常に軽く、大きさも両手に収まるくらいだ。


「やけに冷たいな。寒い地域に生息しているからこんなもんなのだろうか…。」


急に動きだないかと冷や冷やする。改めて観察してみると、白い毛並みは軽くカールした癖っ毛で毛先の方が少し青みがかっている。犬かと思ったが狐のようにも見える。犬科と猫科の間くらいの顔つきだ。閉じられた口からは鋭そうな大きな牙が覗いていて思わず唾を飲みこむ。特出すべきは目だ。閉じられたまぶたがなんと4つある。そして尻尾。


「うん、蛇だね。こいつ、尻尾が蛇になってる。本体同様エネルギー切れなのか目を閉じてて延びた状態だが。キメラ的な魔物?こんなの連れて帰って大丈夫なのだろうか…。」


不安たっぷりに休憩地に戻るとレアとブルーが飛び出してきてグルグル威嚇しながら出迎えられた。警戒心が強いのとまだまだ子供であるため普段はリアがどっかに隠しながら育てている2匹のジャイアントシベットだ。リアの狩やトレーニングの時くらいしか見かけてなかったのですぐ存在を忘れがちだが初めて見た頃よりひとまわり大きく、獣感がましているところを見ると順調に育っているようだ。そんなレアとブルーが毛を逆立てて威嚇しているのはもちろんこの毛玉だ。


「レア?ブルー?」

「お客さん来たのかー?オラもお出迎えするんだぞ!」


突然飛び出して行った2匹を追ってリアとエティも出てきた。更に爺さん達も何事かと入り口から覗いている。リアが出てきたことで守ろうとしているのかレアとブルーは威嚇の咆哮を強める。視線は完全に毛玉にロックオンだ。


「なんで魔物持ってるの?」


警戒するレアとブルーを宥めつつリアも俺の手の中の毛玉にロックオンする。


「この子ね、お腹すいてるの。クルケーキあげたけど足りなかったの。」

「お腹すいたらハンバーグ。」


クルとこだまの言葉にしばし考え込むリア。しかしじっと見つめるクルとこだまに敗北したのかため息まじりに了承した。分かるよ、勝てないよね。


「中には入れない方がいい。人間の匂いがつきすぎると戻れなくなるから。」

「確かにそれは一理あるね。それじゃ…」

「オラにまかせるんだぞ!ハムラジャ!からの〜カッバーイラウン!」


どこにこいつを置こうか辺りを見回していると、エティが地面に手を向けて魔法を唱える。からの〜ってどんな魔法だよ。デタラメっぽいのにむくむく土が盛り上がり始め、あっという間に土台のような形に。更に土台の上にみるみる草が生える。見た目は芝生みたいで柔らかそうだ。俺は早速毛玉を芝の上に乗せる。そしてこだま達に見張りを頼み急いでご飯をつくりに家へと向かう。あの牙を見る限り肉食だろうからこだまが言うようにハンバーグでいいだろう。飲み物もあった方がいいだろうからホットミルクも用意しようかな。急いで作って急いで戻り毛玉の前に置いてみる。すると食べ物を匂いを感じてか全く動かなくなっていた毛玉の鼻が再び微かにピクピク動く。


「ご飯だよ?」


クルが声をかけたからかどうかは分からないが毛玉がゆっくりと目を開け、クンクンハンバーグを嗅ぐ。そしてペロリとひと舐めしたかと思うとガツガツ食べ始めた。結構大きめのハンバーグを作ってきたのだがあっという間に食べ切ってしまう。そして今度はホットミルクをガブガブ飲む。こちらもあっという間に飲み干し、そしてじっと空の皿を見つめる。もうなくなっちゃった…。そんな声が聞こえてくるぐらい寂しそうな顔をしている。そしてクルも俺の方を見て悲しそうな顔。俺は再びお家にダッシュすることとなった。大きめなハンバーグとホットミルクをおかわりし、漸く満腹になった毛玉は今度は目がとろーんとしてきた。そしてその場でくるんとまるまり目を閉じる。


「寝ちゃったの?」

「…そう見たいね。」

「お腹一杯になると眠くなるもんな。でもこんなに人に囲まれたまま寝るなんて…無警戒なやつだな。」

「オラも眠いんだぞ!」


人に影響されやすいエティは気持ちよさそうに眠る毛玉を見て眠くなったらしい。眠いとは思えないくらい元気に眠い宣言してますがね。まぁ、ここは魔物が迷い込まないように柵で囲んであるし毛玉はここに放置して俺達も休むとするか。明日元気になっているようなら野に返そう。念のためこいつが目覚めてサテュロスの方に行かないように柵を追加しておこう。こだまに毛玉を囲う柵を作ってもらい家へと戻ることにした。いろいろあったが、お騒がせした爺さん達にも謝ってラグジュン平原の1日目を終えた。

どうでもいいけど、こだまと毛玉…なんか紛らわしいな。

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