ラグジュン平原2
さっそく魔物に見つかってしまったようです。
「こだま右だ!クル左に、爺さん達から離れるな!リア、エティのフォロー頼む!エティ…とにかくぶちまけろ!」
「「「「らじゃー!」」」」
シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
はい、絶賛魔物に襲われ中です。めちゃくちゃ悪魔みたいな奴に。氷の塊に骨みたいな腕と羽が生えている。あんな翼じゃ飛べるはずがないのに奴は羽をパタパタ、宙に浮かびあがる。空気抵抗どうなっているんだ?手にした巨大な氷の鎌をブンブン振り回し、シャーシャーいいながら追いかけてきている。しかも大群で。
煙突から立ち昇る煙で魔物に見つかってしまったのではないかと思う人がいるかもしれない。しかし俺たちの温度偽装はうまくいっていたと言える。ではなぜこんな事態に陥っているのか。そんなのうちのお調子者の所為に決まっている。
遡ること小一時間前。
「面白くないぞ!」
「エティ、俺達は急いで移動しているだけだ。そこに面白いも面白くないもないぞ。」
「白すぎるんだぞ。」
「よく見てみろ。素晴らしい白のコントラストじゃないか。現代アートと思えば美しいぞ。」
俺達はもうだいぶ長いこと銀白の世界を走り続けていた。最初は白すぎて映画Nothingの世界みたいだと楽しかったが、白すぎて岩に気づかずぶつかってからは楽しくなくなった。時間をかけて育てていたスープが台無しになってしまったからだ。変わることのない景色に進んだ実感も無いし、景色に同化している障害物に気をつけなきゃだしで神経をやたらと使わなければいけない時間を過ごしていた。
「色が必要なんだぞ!白いキャンパスはカラフルにするためにあるんだぞ!」
「お前なんでキャンバスなんて言葉知ってるんだ?おわっ!」
エティが突然ハスの花砲を辺りに乱れ打ちし始めた。魔法で色をつけ、赤や青、黄色や緑、色とりどりの玉が岩や木々にぶつかり色づいていく。オンラインゲームでこんな光景見たことある気がする。
「パレードだぞ!」
景色の色塗りに飽きると今度はハスの花砲を真上に向け、炎の魔法を纏わせる。すると火をまとった氷の玉が次々空へと打ち上がり、上で爆発。魔法だからか消えにくい炎はあたり一面に飛び散り緩やかに消えていく。まるで花火だ。
「おい、エティ炎はダメd」
シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
「お前さん達、魔物に見つかったぞ!走るんじゃ!!」
爺さん達の声に辺りを見回すと、先に述べた氷の塊みたいな魔物が四方八方から近づいてくる。走り出す爺さん達を追うようにクルも速度を上げる。
「エティ、あいつらを狙うんだ!もちろん炎はなしだぞ!?」
「おぉ!オラに任せるんだぞ!」
お調子者が張り切る。爺さん達は四方八方から現れた魔物を縫うようにルートを次々変えていく。
「ノマディ族賢い。」
「賢いって?」
爺さん達を観察していたリアが思わず感嘆の言葉を呟く。
「敵を惹きつけるように移動して集めている。」
「敵を集めている?」
「そう。魔物はあちこちから来ている。逃げ切るのは難しいから集めながら逃げられる道を作ろうとしている。」
「なるほど。敵を一纏めにできれば逃げ切れるルートも見えてくると。」
「そう。でも…敵が多すぎる。」
「敵を一気に集めればいいのか…。そうだ!」
俺は空き瓶を集めてきて揚げ物をした後の使用済み油を注いでいく。そして古くなったタオルを細く短冊切りして一本づつ瓶に入れていく。
「それは?」
「これはジャパニーズ火炎瓶さ!」
何を持ってジャパニーズなのかはさておき、瓶から飛び出た布に火をつけるとすぐさま後方部に向かって全力投球。すると火炎瓶は弧を描き飛んでいき、落下、割れるや否や中の油が飛び散り辺りに炎が広がる。しかしすぐさま魔物が集まるとあっという間に炎が消えてしまった。
「流石にこの寒さだと、長くは持たないか…。しかし魔物が集まることは確認できたな。」
「お前さん、それまだたくさんあるか?」
火炎瓶を見ていた爺さんが近づいてきて訪ねてきた。
「空き瓶はまだ20本くらいありますよ。」
「ふむ。なら、その瓶を何箇所かに置いて一気に火をつけるんじゃ。魔物達の注意が逸れた瞬間に森へ逃げ込めば姿を隠すことができる。温度さえ隠せれば逃げきれぬやも知れんぞ。」
「そっか、温度だけじゃなく、視認されても追いかけられるか…。うっかりしてた。なら森と逆方向の場所に火炎瓶設置しましょう!」
「よし、ルートは任せるんじゃ!」
爺さん達は逃げながら大きく旋回しはじめる。それに合わせて俺達も旋回。指示に従って次々と火炎瓶を設置していく。後はタイミングを見計らって遠くから火炎瓶に攻撃、火をつけるだけだ。エティにもここぞとばかりに炎系の攻撃に切り替えてもらおう。
こうして冒頭の追撃戦へとつながったのだ。
「こだま右だ!クル左に、爺さん達から離れるな!リア、エティのフォロー頼む!エティ…とにかくぶちまけろ!」
「「「「らじゃー!」」」」
シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
突然あちこちで高温の炎が立ち昇る。もしかしたら他の魔物もおびき寄せてしまうかもしれないが、今はそんなことを言っている場合ではない。森と並行に移動していた俺たちは、魔物達が炎の方に視線を向けた瞬間一気に横っ飛び。森の中へ入ると爺さん達は木の影へ。ホバーボードハウスは大きすぎて木の影には隠れられないので急上昇。枝の中に隠れることにした。
シャッ!シャーーッ!シャーーーーッ!
炎に飛びついてみたが獲物ではなかったと気づいた魔物達は辺りを見回す。しかし既に俺達は森の中。しつこく様子を伺っていたが獲物を逃したと悟ったのかふわふわと去っていった。
「ふぅ。危ないところだった…。」
「面白かったんだぞ!」
「お前は少しは反省しろ!次許可なく炎系使ったらメシ抜きだからな!」
「楽が魔物に見えてきたぞ!おぉぉぉぉ、い、痛いんだぞ!!」
こめかみを全力でグリグリしてお仕置きしてやる。流石に反省したのかしゅんとするエティ。まぁどうせすぐ復活するんだろうが。
「危ないところじゃったわい。お前さん次からは魔物を集めない遊びにするんじゃぞ?」
「分かったぞ!」
ほら、もう復活している。爺さん達は小さい子達には甘いのかあまり起こっていない。できた人達だな。
「全力疾走させて疲労も溜まってることだし、今日はこの森で休むことにするかのう。」
「そうじゃそうじゃ。腹も減ったしの!」
爺さん達が満場一致したこともあり今日の旅はここまでとなった。
「みなさん、寝床と食事は任せてください。」
「それはありがたいが、いいのかい?」
「迷惑かけちゃったし、料理はみんなで食べた方が美味しいですから!」
「すまんのぉ。でもあんまり無理して火を焚くんじゃないぞ?」
やらかしてる直後だからか念を押されて注意されてしまった。しかし温かいものが食べたい。寒いところでは体力もぐんぐん削られてしまうしね。
「森にいるなら寝床作りは気を有効活用しようかな。こだま、高床式の寝床お願いな!」
もちろん作るのはこだまだ。ホバーボードハウスも木の枝の中に紛れ込ませているので同じように木の上のほうに寝床を作ろう。これなら寝ている間に魔物が近づいても届かない。飛べるのは流石に無理だけどね。俺は食事の準備だ。寒い地域の食事といえばやっぱり【ボルシチ】だろう。
【ボルシチ】
材料
・牛肉
・じゃがいも
・玉ねぎ
・にんじん
・キャベツ
・トマト
・ビーツ
・コンソメ
・バター
・ローリエ
・塩
・胡椒
・サワークリーム
家庭料理だけあって作り方は超シンプル。鍋にバターとオリーブオイルを入れ一口大に切った牛肉を炒める。ざっくり火が通ったらにんにく、一口大に切ったじゃがいも、玉ねぎ、キャベツを入れて炒める。全体が馴染んだら水、トマトを潰し入れ、一口大に切ったビーツ、コンソメ、ローリエを入れてコトコト煮込む。キャベツはざく切りに。鍋に水と食材、コンソメとすりおろした生姜を入れてコトコト煮込む。最後に塩、故障で味を整えて完成だ。サワークリームは食べる直前にのせるんだぞ。以上。
「スープだけ?」
横で楽しそうに見ていたクルが悲しそうに聞いてくる。完成完成と、終了モードになっていたのに気づいたようだ。
「そ、そうだな…。スープだけだと体は温まるがエネルギーが足りないから、煮込んでる間に【ピロシキ】でも作るか?」
「デザートは?」
「んーデザートか。じゃ【シルニキ】も作るか!」
「クル!」
と言うわけで今日はロシア料理しばりでいくことになった。【ピロシキ】は有名だと思うから説明不要かな?【シルニキ】はカッテージチーズを使ったパンケーキだ。
【ピロシキ】
材料
・挽肉
・玉ねぎ
・グリーンピース(お好み)
・カレー粉(お好み)
・パン生地
パン生地は面倒なので作り置きして置いたものを使うことに。発酵待つの面倒だから作っておいたのをこだま庫に保存してある。時間が止まる倉庫ってつくづく便利だ。
気を取り直して、フライパンで挽肉とみじん切りにした玉ねぎを炒める。タネを半分にし、苦手な人が多いらしいグリーンピース、俺は大好物なのでグリーンピース入りと、カレー粉入りを作ってみた。
パン生地を1cm角に小分けにし薄く伸ばし餃子みたいに包んでいく。後は160℃、ちょっと低めの油で上げていくだけだ。狐色になったら完成。
【シルニキ】
材料
・カッテージチーズ
・バター
・砂糖
・バニラエッセンス
・小麦粉
・卵
・ナッツ(お好みで)
・紅茶(お好みで)
・シナモン(お好みで)
カッテージチーズに砂糖、バニラエッセンスを加えてよく混ぜる。続いて小麦粉を振るい入れ、溶き卵を入れて混ぜたら生地ができる。この生地を三等分し、ナッツ、紅茶、シナモンをそれぞれ混ぜて3種類の生地にする。後は小さく丸めてフライパンで焼いていくだけだ。サワークリームを添えたり、ジャムなんか添えてもよいと思う。クルあたりはこっちの方が好きだろう。
「なんじゃ!?すごい寝床じゃ!木の上に作ったのか??」
「うん。これなら安全?」
「確かに…高台の方が安全じゃが、お前さんちっこいのに凄いのぉ!」
「それに、凄くいい匂いがするの?」
サテュロスの世話を終えて戻ってきた爺さん達は木の上にできたツリーハウスに驚き、入ってみて料理の匂いに更に興奮する。
「丁度ご飯も準備できましたよ。熱いうちに食べましょう!」
「外からは火が見えなかったと言うのに、こんな熱々の料理が待っているとは…。お前さん達ほんに規格外じゃわ…。」
「うまうまうまうまうまうま。」
「カレーうまいぞ!緑の豆…、リア上げるんだぞ!」
「ジャムもっとかけて?」
爺さん達が感動し終わるのを待ちきれず既に食べ始めている子がいますが、早速みんなで夕食です。こだまは美味しそうに食べているがエティはグリーンピース苦手なようだ。うまいのに。あと、クルデザートから食べてるの?
「おぉ!うまいぞ!」
「本当じゃ本当じゃ!」
「しかも体の芯から温まる!」
「まさかこの地でこんなものが食べれるとは…。」
みんなのお口にあったようでなによりだ。
そのまま食事は宴会のような賑やかさに。寒い地で食べる熱々料理は別格でした。




