マイナス120℃、ラグジュン平原へ行こう
なし崩し的に先に進むようです。
亀脱出のチャンスは思いのほか早く、そしてあっさりやってきた。休憩が終わり再び移動を開始した黒男一行。さすがにずっと亀を持ち歩くつもりはないらしく、商人の一人に亀を押し付けたのだ。そして商人は見習いの部下に保管を命ずる。図体ばかりでかくて容量の悪いこの部下は荷物持ちの命令ばかりされ、既にパンパンのずた袋に亀を頭から押し込む。そしてバックパッカーのように背中に背負いどすどす後をついていく。その一歩目で俺達は脱出に成功した。
「クル!クル!クル!」
ホログラム亀に乗っていたクルがクルクル言いながら突然羽ばたくように腕をバタバタし始めた。何事かと画面を覗き込んでみれば画面はスローモーションで落下している所だった。そして同時にどすどす歩く大袋を担いだ大男の後ろ姿が見える。大袋は分かりやすく詰め込みすぎで亀があそこから落下したのは明らかだった。
「クル、なんで羽ばたいてるんだ?」
「落ちたら亀さん痛いの。でもゆっくり落ちたら痛くないの。」
「羽ばたいたら飛べるのか?」
「クル!」
見てみろと言わんばかりに再び羽ばたくと画面から見える景色が少し浮かび上がる。
「え、亀が羽ばたいて浮いてるって事?すごいな!」
「うん、亀さんすごいの!」
クルが羽ばたくのを止めると再び画面が定位置の高さに戻る。すると後ろからたくさんの兵士達が亀を跨いで通り過ぎていく。浮かんでいたらきっとぶつかっていただろうから一応間一髪といったところなのだろう。しかし誰も亀を拾うつもりがないようだ。まぁ、兵士達感情抜け落ちているから無理もないが。踏み潰されないか冷や冷や見守っりながらしばらく見ていたが無事置き去りとなった。
「おぉ、何もせずに脱出成功じゃないか!棚ぼた棚ぼた。そんじゃ早速ラグジュン平原だったっけ?向かいますか!」
「今出たら気配で黒男にバレちゃうよ?まずは亀に向かってもらおう?」
ドアに手をかけた俺をリアが慌てて止める。
「そ、そっか。でも亀のスピードだよ?時間かかってしかたないよ…。」
「クル!」
クルが前進を指示すると亀が移動を開始したようで画面も、のそり、のそり、と動き出す。亀の歩みで。
「クルクル!」
うん、若干スピードアップした。亀の駆け足。ナイスファイトだクル。しかし玄関でずーっと時間をつぶすのも辛いので俺はクルを亀ごと掴んでリビングへ。
「お外見れなくなっちゃうよ?」
「大丈夫だぞ、クル。ePadとリビングのテレビを画面共有すれば多分見れる。」
よく動画サイトを画面共有でみていたからイケると思う。俺はクルon亀をリビングのテーブルの上に置きテレビと共有設定をしてみる。すると見事に外の様子がリビングの大画面に映し出される。まるで監視カメラの管理棟のようだ。
「おぉすげーな!楽の世界は便利なもんで溢れてるんだな。一度行ってみたいぞ。」
「まぁ魔法なんてチートなものは使えないけどな。とにかく感知されない距離まで離れるまではこのままか…。因みにそのラグジュン平原ってどんな感じのところなんだ?」
「「「すごく寒い(わ)(ぞ)」」」
「…他には?」
「「「知らない(わ)(ぞ)」」」
「魔物が出るんだよね?」
「「「そうらしい(わ)(ぞ)」」」
「誰も知らないの?」
「「「寒いの嫌い(わ)(ぞ)」」」
「へ、へぇ…。」
なぜかユニゾンで答えてくれるリアとガルゥボーイとウィリデ。みなさん寒いのが嫌いだから近づいたことない。だから知らないのだという。リアはともかく精霊コンビは長生きなんだし、避けすぎるのはどうなんだろ?一応世界の均衡を保つ役割を担ってるって言ってなかったっけ?
「ねぇ、遠くにおっきい壁があるよ?」
精霊コンビが気まずそうに顔を背けていたらやさしいクルが話題を変えてくれる。
「壁?」
クルが指差す画面を見るとだだっ広い平原の遠くの方にうっすら青いものが見える。
「…なのかな?」
遠すぎて壁かどうかは判別できないが青いものは天高く伸びている。
「あそこからがラグジュン平原になる。あそこは寒すぎて空気も凍りつくから外からは青く見えるって話だ。」
「あーやだやだ。見ただけで寒くなっちゃう。ガルゥ私たちそろそろ…。」
「おい!」
「そうだった、そうだった。俺たち忙しいんだった。楽、また到着する頃来るな!じゃ!」
「おぉおい!…チッ。」
引き留めようと手を上げた瞬間ブォンっと姿を晦ますガルゥボーイとウィリデ。
俺だって寒いのは嫌ではあるけど逃げるのは流石に大袈裟じゃないですか?
そこからは暫く亀に頑張ってもらって、念には念を入れて時間をあけたあと漸く外の世界に出ることができた。
「寒っ。まだラグジュン平原に着いてないっていうのにもう寒いな…。」
「寒さ対策ちゃんとした方がいいと思う。」
「…なぁ、そもそも行く必要あるのか?精霊コンビもいないし…。」
「ダメ。」
寒いのに無理して黒男達を追いかける理由ってなんだっけ?言い出しっぺのガルゥボーイがいないなら行かなくてもいいのではと思うのだが。
「ガルゥ様が行った方がいいって言ったから行くの。」
そうだったそうだった。リアさん信者だった。甘いものにがめついのは見て見ぬ振りするのに、今回は見逃してくれないようだ。
「でも黒男の驚く顔を見たいって、意味ある?」
「…ガルゥ様にはお考えがあるの。きっと。」
「リックのお父さんは?」
「…クル、寒さ対策しっかりして行こうな!」
王が同行しているんだった。理由が出来ちゃったし、行くしかないようだ。
「ちょっとルートから外れるけど、近くに補給できる村がある。そこで寒さ対策する。」
「へぇ、補給できる村があるんだ。」
「ラグジュン平原へ入るための村じゃないけど。寒いところで野菜を作っているんだって。特別な野菜だって聞いたことある。」
「寒冷地の野菜かぁ。俺の国にも越冬させて甘さを引き出す技術があるから、そんな感じかな?」
「うん。そこの野菜は甘くておいしいって。」
「それじゃ、野菜もゲットしよう。良く考えたら食材も補充しておいた方がいいからな。」
そんな事を話しながら、ラグジュン平原を目の前にして西へとルートを変える。程なくして村らしきものが見えてきた。
「こんにちはー。」
「あれま、旅の人かい?こんな村に来るなんて珍しいねぇ。」
村の入り口付近ですれ違った村人に声をかけてみたら余程旅人が珍しいのかかなり驚かれた。みごとなずんぐりむっくり体型のペンギン人だ。
「あんた達も戦いに行くのかい?なんだか物騒な世の中になったもんだねぇ。嫌だわぁ。」
「え、戦い?」




