飯テロ⑨逃げるは恥だが勝ちになる、でしたっけ?
しれっと飯テロは終わるようです。
ドゴーーーン!
ガゴーーーン!
ズゴーーーン!
ただいま絶賛逃走中です。
背後からはデーモn…人族、黒づくめの男が降臨ポーズで追いかけてきます。ちょっと浮いてて某銀座寿司屋オーナーのざんまいポーズで迫ってきます。恐怖でしかないですよね?
「楽、こっち。」
「エティ、お前あいつなんとかしろ!」
「あいつしつこいから嫌だぞ!」
「冷たいのと熱いのどっちがいい?」
「クル、アイス好き!」
「分かった。」
なるべく街の人達に被害がでないようリアが先導し、俺とエティは相変わらずの押し付け合い。こだまはクルと呑気におしゃべりしていたかと思うと、手をかざし、
「キエサーオログ」
謎の言葉を発したかと思うと目の前が急に寒くなり、分厚い氷の壁が現れる。黒づくめの男は怯むことなく氷の壁に向かって炎魔法を放つがどういう原理か当たった瞬間炎がその形のまま固まっていく。
「こだま、何あれ?」
「冷気の魔法。」
「魔法って呪文いるんだっけ?」
「楽、魔法は基本呪文が必要だよ。」
俺の疑問に首を傾げるこだま。リアが見かねて教えてくれる。
「え、でもこだまもエティも…リアだって今まで呪文唱えてなかったよね?」
「私達は…無詠唱でも使えるから。」
「へー。じゃなんでこだま唱えたの?」
「クルが教えてって。」
「キエサーオログ」
クルがこだまの頭の上で呪文を唱える。すると手に持っていたいちごが見る間に凍っていく。そしてその凍ったいちごをおいしそうに頬張る。
「これでいつでもアイスが食べられるの。」
「お、おう…。」
魔法って一回見ただけで使えるようになるものなの??俺は魔力がないようなので考えたこともなかった。そして皆さんお決まりの無詠唱だったのね。あとクルさん、今一応追われてる最中だから呑気におやつ作って食べてる場合じゃないよ?そもそもそれはフローズンいちごであって、アイスとは違うし。うん、後でちゃんとアイスの作り方を教えてあげよう。
「おぉわっと!」
一瞬俺まで呑気に思考タイム突入しちゃってた。氷の壁が突破できないと分かるや否や回り込んで追いかけてくる黒づくめの男…面倒だから黒男でいいか。黒男がいつの間にか放っていた攻撃の爆風で思わずバランスを崩す。すかさずリアが首根っこを掴んでくれてホバーボードに戻してくれる。クルはこだまの頭の上にいるが俺達はそれぞれの攻撃をかわしながら街の外へ向けてホバーボードを飛ばしている。初めての全力疾走だがなかなかホバーボードは安定してよい仕事をしてくれている。横を見るとこだまとくるはホバーボードに座り込んでフローズンいちごを食べながら飛んでいる。絵面だけみるとほぼピクニックだ。いちごを食べ出した辺りから黒男の攻撃がこだまに多く集まってきているように感じる。黒男の心中お察ししちゃうね。
そんな感じで鬼ごっこを繰り広げていたら街の外の森が見えてきた。正直ここまできたらこっちのもんだ。森に入ると俺達は打ち合わせ通り三々五々散らばる。更に今までは逃げるだけだったかがここからは攻撃も加えていく。といっても俺はボーガンしか使えないのでエティと連携し、エティを投げては透かしっぺみたいな魔法で視界を奪っていく。投げることで予測不能な方向へ急展開できて表情は窺えないが黒男のイライラ値が上昇しているようにみえる。リアは風魔法を駆使して木の葉を舞い上がらせての目隠し。こだまとクルは細い隙間ばかりをルートにとって行方を晦ます。
ある程度撹乱し、黒男が丁度リアに攻撃を加えようとする瞬間を見計らって俺はリアとこだまへ目配せ。そして太く立派な大木の裏へと回り込む。木の幹には手ごろな平らな石がありこの石の上にどこでもYEAHを取り出し設置、中に飛び込んだ。続いて投げたエティがバウンスして戻ってくるように飛び込む。リアとこだまは黒男を中心に時計回りと反時計回りに猛スピードで回り込み、同時に中心にいる黒男に向かって攻撃を繰り返す。何度も何度も交差しながらグルグル周り、ついに交差する場所がどこでもYEAHを設置した大木の裏になった瞬間家へと飛び込んだ。俺はすかさず扉を閉め鍵をかける。すると石の上に設置された扉はすっと消え見えなくなってしまう。
ピタッ。
あれほど賑やかにビュンビュン風を切っていた音が、目眩し・音騙しとばかりに派手に攻撃していた音が、突如として消える。もちろん俺たちの気配と共に。
「む…。」
黒男も流石に異変に気付く。方方にあった敵の気配が突如として消えたのだ。手練れなら気配を消すこともできよう。しかしあのリーダーと思しき男にできるとは思えない。今まで森に轟いていた音達の余韻が引くのを神経を研ぎ澄ませながら待つ黒男。しかし待っていたのは拍子抜けするぐらいの静けさだった。騒がしさに森に住む動物や魔物達も逃げ出し、聞こえてくるのは川のせせらぎと風が葉を擦る音のみ。
「奴らどこへ…?」
黒男は周辺を徹底的に調べる。しかし気配はおろか、何の痕跡も見つけることはできなかった。
森を睨みつけながらもしぶしぶ撤退する黒男。
屋敷に戻ると、途中経過報告にと戻ってきた商人達の服従香解除の原因未だ掴めずとの報告に、再び深いため息をつく事に。方法はどうあれ、あの者達が少なからず関わっていると考えるのが妥当だ。そうとなれば取り逃したのが悔やまれる。服従香による国民奴隷化計画は失敗に終わった。しかし、黒男はすぐに切り替える。服従香の作戦は所詮はあわよくばの作戦。あの者達が再び邪魔をしてくる前に本来の作戦を遂行するべきである。そう決めてしまえば直ちに実行するのみ。伊達に隊長の座を守っていないのだ。黒男は出陣の準備を加速させるべく指示を飛ばしていく。
一方その頃どこでもYEAHでは。
「いやー疲れた疲れた。ほんと、しつこい男は嫌われるよね?」
「あいつ倒さなくてよかったのか?ヒーローは逃げたりなんてしないんだぞ!」
大袈裟にソファーにもたれかかる俺に対し、作戦に協力したものの逃げる事には不満だったエティが抗議してくる。
「いいかエティ、俺の国では『逃げるは恥だが勝ちになる』っていう言葉があるんだ。一見恥に見えるかもしれない。でも目的を見誤ってはならない。だって勝つのがヒーローだろ?」
「そうだぞ!ヒーローは負けないからな!」
「だったら勝つためには時には逃げなきゃ。つまり俺達は逃げた事で勝ったんだ。」
「おぉ!そうなのか!」
「「「…………」」」
一瞬で納得して喜ぶエティに生暖かい視線のこだま、リア、クル。
「兎に角、あいつがいなくなるまでここで休憩だな。」
「楽、ハンバーグ。」
「え、こだまもうお腹すいたの?」
「朝ごはん食べてから何も食べてない。お腹すいた。」
「いや朝ごはん食べてからって…朝ごはんついさっきd」
「オラも朝ごはん食べてから何も食べてないぞ!」
「朝ごはんついs」
「「お腹すいた(ぞ)」」
燃費が外車並みの子供達に早めの昼食を強要される。まぁ、時間潰しにもなるからいいけど。いいのだけど。俺は早速昼食作りに取り掛かる事にした。とりあえずハンバーグを作りながら何を作るか考える。そうだ、お手軽だし久しぶりにあれにしよう。ひき肉をこねてたら食べたくなったのだ。餃子が食べたいけど面倒ってときに作ってたアレ、【餃子丼】。あと、クルにアイスの作り方を教えてあげよう。
【餃子丼】
材料
・キャベツ
・ニラ
・豚ひき肉
・ニンニクのみじん切り
・生姜のすりおろし
・醤油
・鶏がらスープの素
・お酒
・片栗粉
・塩
・胡椒
・ごま油
・卵
・ご飯
キャベツとニラは予めみじん切りにしておく。というか、リアに切っておいてもらおう。
フライパンにごま油をひいて豚ひき肉、ニンニクのみじん切り、生姜のすりおろしを入れて炒める。ひき肉に火が通ったらキャベツ・ニラ・醤油・鶏がらスープの素・お酒を入れて炒め、塩胡椒で味を整える。最後に水溶き片栗粉でとろみをつけまとめる。
あとはご飯の上に盛り付け、卵を半熟目玉焼きにして乗せれば完成だ。お好みで酢醤油やラー油を垂らそう。
今日は贅沢にハンバーグも添えるぞ。実に肉だらけである。
「うまうまうまうまうま。」
「おぉ!餃子の具がかかったご飯だぞ!」
「たまごおいしいね。」
「そうね、餃子と卵は一緒に食べた事ないけど、これすごくあう。あ、クルそんなに乗り出したらお皿に入っちゃうよ?」
まさに、餃子の具を乗っけただけ、それが【餃子丼】。豪快系料理研究家の人が、料理なんて口の中に入ったときに味が一緒ならそれでいいのよ!って言ってたっけ。しかし、リアが言うように確かに餃子と半熟卵合わせた事なかったな。でもこの【餃子丼】は半熟卵とのマリアージュがたまらない。
「おかわり。ハンバーグ増し増しで。」
「オラもおかわりだぞ!」
おい、こだま増し増しって言葉どこで覚えたんだ?
「いいけど、このあとデザート作るからその分の胃のスペースあけとけよ?」
「「「「デザートは別腹だから大丈夫。」」」」
あれ、リアとクルまでシンクロしてる。ちなみに別腹、俺は都市伝説だと思ってたけど科学的根拠あるらしい。好物の甘いものを目にすると脳内でオレキシンというホルモンが分泌され、満腹でもさらに食欲がわくようになるらしい。そこで脳からのホルモン司令を受け取った胃は必死に消化を早めて、甘いものが入るスペース確保に全力を尽くすのだそうだ。みんなオレキシン分泌しまくるんだろうなぁ…。ガンガン消化されるみんなの姿を思い浮かべちょっと身震いしてしまう。俺はそこまで甘いものが好物って訳ではないのでオレキシンが分泌されない。予めスペースを残しておく事にしよう。




