お酢の意外な効果
お酢って体にいいこと尽くめなようです。
ちなみに私は冷麺にはお酢をドバドバかける派です。
『匂い取る君』を大量購入し、早速試すラジャールさん。効果を確認し、突然新しい服に突然着替えだした。聞けば早速フィーハさんに会いにいくのだと言う。
「お主らも来い。街一番の麺食わせてやるぞ!」
「うん、行く。」
「うまい麺たのしみだぞ!」
「クルも!クルも行くの!」
ラジャールさんの提案に即乗っかるみんな。リアと顔を見合わせながらため息をつく。きっとお客を連れて行ってポイント稼ぎたいだけなのだろうが。まぁ、次の配達するにも街には戻らなきゃだし、付き合ってやるか。
「さっさと壺をしまえ!急がないと売り切れるぞ!」
急かすわりにはきっちり大量の黒酢を買わされた。そしてどんどんこだま収納に放り込んでいく。大切な商品をそんな扱いで良いのか疑問だが、早く行きたい様子のラジャールさんは物凄くソワソワしている。
「そうだぞ!麺が伸びちゃうんだぞ!」
伸びるってどういうこと?何故かエティ達まで急かしてくる。煽り立てられながら戻ると街は相変わらずの静かさだった。
「なんじゃ、今日はやけにみんな大人しいのぉ。」
「変ですよねー。今朝からこんな感じなんです。みんな普通に生活しているのに喋らず淡々としてて。」
「ふん!煩くなくていいわい!それよりフィーハじゃ!」
街の変な様子も全く気にしないラジャールさん。まっすぐ店へと向かっていく。
「おーい、ラジャールじゃないか!!」
「なんじゃ?」
静かな街に突然声が響き渡る。声の方に振り向くと、お世話になっている入国審査官のモハウクさんが何人かを引き連れこちらに向かってきていた。
「ラジャール、お前楽達と知り合いだったのか?」
「おぉ、そうだぞ!…お前、楽って言うのか?」
「なんだ、知り合ったばっかか。でも良かった、お前さんはいつも通りだな。楽達も変わりなさそうで。」
「当たり前じゃ。わしはいつでもわしに決まっておるわい!」
妙な自信を持ってラジャールさんが胸を張る。この人エティ系だな。気をつけよう。
「俺達は特に変わりなくですが、街の人達どうしちゃったんですか?」
「それがわからねーんだ。朝起きたら殆どのやつがあの調子。いつも通りの行動はしているんだが喋りかけても無反応で…不気味でしょうがねーよ。」
モハウクさんとその後ろの人達は無事だったようで、おかしくなってしまった街のみんなの原因を探るべく、街を調査していたのだという。
「みんな声を掛けても全く反応しないんだ。しかも今のところここにいるやるら意外は全滅って感じだ。」
「なぬ!フィーハもか!?」
「あぁ、ヌドルの店のみんなも変になっちまってたな。」
「なぬ!!それはいかん!フィーーーーーハーーーー!!!!」
某調味料系芸人みたいな叫び声を上げながら突然走り出すラジャールさん。
「フィーーーーーハーーーー!!!!」
叫び声が気に入ったのか、叫びながらエティも後に続く。
「ちょ、エティ!!モハウクさん、俺ラジャールさん追いかけるんで!何か分かったら伝えます!!」
「お、おう、よろし…。行っちまったか。伝えるって、どうやって伝えるつもりなんだあいつ?」
置いてきぼりを食らったみたいで、微妙な気分になるモハウク。
「ま、俺達は俺達で、原因探すぞ!」
「「「そうだな…。」」」
一瞬でモハウクさん達と別れたあとは、大通りに面してはいるが比較的小さめのこじんまりとした店へと直行した。
「はぁ、はぁ、はぁ…ここが、ヌドルですか?」
「お、おう…。」
勢いよく走って行ったラジャールさんだったが中に入るのには緊張するのか、店の前でもじもじしていた。いい大人がもじもじしてるって気持ち悪いな。
ヌドルという店は、赤レンガの壁、緑の屋根、入り口の横には大きな木の立て看板に手書き文字で『ヌドル』と書かれた、下町中華屋さんみたいな雰囲気の店だった。店からはスパイシーな香りが漂ってきている。
「入らないんですか?先行っちゃいますよ?」
「いや、息を整えてからじゃないと失礼にあたるからだな…。」
ガチャリ。
俺はラジャールさんの返事を待たず店の扉を開いた。
「お、おい待て…。」
ラジャールさんも慌ててついてくる。
店の中には4人掛けのテーブルが6つ並んでいて、壁にはメニューの札が一列に釘で打ち付けられている。
そして、中央には女性の店員が立ち尽くしている。
「フィ、フィーハ?」
どうやらこの店員がフィーハさんだったようだ。しかし俺を先頭に6人の客が入ってきたというのにフィーハさんは無表情のまま。そして無言で席へと案内する動きをする。その人形のような様子にラジャールさんも困惑の表情だ。店の中を見渡すと、驚いたことにお客がいた。しかし、こちらも人形のように淡々と食べている。人ってこんなに静かに食事ができるんだなって思わず感心してしまう。
「楽、匂う…。」
リアが突然後ろから囁いてくる。
「え、耳??まさか耳の辺り!??それ以上近いちゃだめ!」
加齢臭対策で朝あんなに耳の後ろ洗ったのに…。耳打ちするために顔を近づけてきたリアから距離を取るために反射的に体を反らす。そんな俺の行動が理解できないのか顔を傾げるリア。
「あの人、微かにだけど、香ばしい香りがする。」
「あ、あぁ…あの人のことか…。そりゃ食堂だもん、スパイスの香りはするだろ?街だってスパイスの香りがあちこち香ってくるしさ。」
「ううん、この香りはスパイスじゃない。」
「それはおかしいぞ。この店は、香りを大切にする店。わしの黒酢の匂いも嫌がるぐらいだからのう。スパイス以外の香りがするはずがない!」
「でも微かにする。この匂いどこかで…。」
リアが考え込んでいると、後ろでまだ黒酢牛乳を飲んでいるこだまと、こだまの頭の上のクルがフィーハさんに近づいていく。
「黒酢牛乳飲む?美味しいよ。」
無表情のフィーハさんに喜んで貰いたいと思ったのだろう。かわいすぎるぜ。しかしクルが黒酢牛乳を近づけると一瞬眉間にシワを寄せたかと思うとコップを振り払ったのだ。
「な!クル大丈夫か!!??」
「フィーハ、なんてことを…お主子供が好きって言っておったではないか…。」
突然のフィーハさんの行動にみんなが驚く。振り払われた衝撃で落ちてきたクルを間一髪キャッチしたが、黒酢牛乳の入ったコップはそのまま床に落下。床でコップが割れ、一面に黒酢牛乳が飛び散ってしまった。すると黒酢独特の酸味が広がる。その香りに敏感に反応したのはフィーハさんとこの店の店員達、そして音もなく食べている客達だった。みな、酸味を避けるように部屋の端に逃げてしまったのだ。
「分かった!服従香に似ている。」
考え込んでいたリアが香りの正体を思い出したようだ。
「服従香?」
「商人が私を洗脳しようとして嗅がせてきたの。私もレア、ブルーも『匂い取る君』使ってて効かなかったみたいだけど、嗅いだ人は人形みたいになってた。」
「なにその物騒な香り。でも、てことはフィーハさん達は服従香で洗脳されてるってこと?」
「なんだって!誰だ!誰の仕業だ!!?」
俺の推測にラジャールさんが俺の襟首を掴んで詰め寄ってくる。
「く、苦しい…。あくまでも可能性の一つだし、あってたとしても流石に分かりませんよ…。」
襟首を掴む腕を必死でタップし、開放してもらう。
「街の人も操られてる?」
こだまが俺の袖を引っ張って聞いてくる。
「こだま、その可能性はあるな。みんな人形みたいだったもんな。でも変わらなかった人もいたよね?」
「みんな『匂い取る君』使ってた?」
「確かに…。女将さんもモハウクさんも『匂い取る君』ユーザーだな。でもラジャールさんは?」
ラジャールさんは『匂い取る君』販売前だった。影響を受けなかった理由が思い当たらない。するとリアが黒酢牛乳の残骸を眺めながらつぶやいた。
「もしかしたら、酸っぱい匂いが原因…?フィーハさん達過剰に反応してたし。」
確かに、フィーハさん達のリアクションを考えれば可能性はある。なら試してみよう。
「あ、ごめん!」
俺は持っていたハンカチに黒酢を染み込ませ、見事な大根役者っぷりで謝りながらフィーハさんに覆いかぶせる。
「な、お主フィーハに何をする!!」
当然ラジャールさんが掴みかかってきたが、それよりも早くフィーハさんが反応した。
「す、す、す、すっぱーーーーーーーい!」
「フィ、フィーハ?お主も大丈夫か?」
「ん?ラジャールじゃない?ってか何この布!すっごい酸っぱい匂いする!!」
「おぉ!フィーハが元に戻ったのじゃ!」
フィーハが正気を取り戻したことで俺の首も無事ラジャールさんから解放された。そしてここに、服従香がお酢の強い香りに打ち勝てることが実証されたのだった。
「なるほど、ラジャールさんはお酢の香りが強すぎて服従香の効果を打ち消されてたってことか。まさかお酢にこんな効果まであったとはね。」
「楽、『匂い取る君』でも元に戻せるのかな?」
確かに、『匂い取る君』でも戻せるかも知れない。俺達は早速他の人達で『匂い取る君』でも実験してみた。しかし何故か『匂い取る君』では正気に戻らなかったのだ。
「なるほど。『匂い取る君』は洗脳の予防効果はあるが解くほどの力はない。しかし黒酢なら洗脳を解くことが可能なんだな。しかし本能的にこの匂いを避けようとするのは厄介だな…。」
『匂い取る君』を洗脳された人に近づけても黒酢牛乳を近づけたときのフィーハさんのように、匂いを避けようとする回避行動は起こらなかった。しかし、黒酢を近づけると激しく抵抗したのだ。みんなで取り押さえてなんとか全員元に戻すことができたが、街中の人たちとなるとかなり苦労しそうだ。
「楽!!!楽は居るか!!!大変なことが起こっちまったぞ!!!!」
なんとか店にいる人達全員の洗脳を解くことに成功したとき、モハウクさんが慌てて店に飛び込んできた。
「大変なこと?」




