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黒酢牛乳

黒酢って美味しいけど独特な香りですよね。それがいいのですが。

「静か…?」


リアが驚くのも無理はない。

大通りに出てみると人通りはいつもより少し少ないくらいだが、ちゃんと街の人達はいつも通りの生活をしていたのだ。八百屋も果物屋も道具屋も、店を開いていて店頭に人も立っている。買い物客も商品を手に取り、財布からお金を取り出し店員に渡している。荷物を運ぶ人々が行き交い、赤ちゃんを抱いて通り過ぎる母親だっている。しかし誰もが声を発せず、まるで操り人形のように淡々と行動している。そんな雰囲気だった。


「人がこんなにいて、ちゃんと生活しているのに、こんなに静かになるなんて不思議。」


首を傾げるリアに思わず賛同する。


「本当だな。でも街の人達どうしちゃったんだろう?とりあえず店まで行ってみるか。」


検問所へと行ってみると本日はお休みで、たまにある入国不可の日とのこと。職員を休ませるため、たまに検問所を開かない日があるのだそうだ。だそうだ、という言い方をすると職員に聞いたように聞こえるだろうが、お休みのお知らせの看板と休みのルール、次はいつ入国できるかなどの情報が張り出されていた。


「検問所って休みがあるんだなぁ。でも注文受けた分どうしたものか…。」

「クル、お届けする?」


悩んでいたらクルがお仕事?と訪ねてくる。


「お届けかぁ。うん、そうだなクル。みんなに届けてあげようか。昨日無断で休んで迷惑かけたしな。一緒に届けに行ってくれるか?」

「クル!」

「みんなはどうする?」

「お腹空いたら困るから、ついていく。」

「お腹空いたら困るから…かい。」


実にこだまらしい理由。ついてきてくれるようだ。


「オラ、パトロールついでについていくぞ!」

「私も、街の様子が気になるから一緒にいく。」

「それじゃぁみんなでお客さんのところに行ってみるか!まずは…ラジェールさん?」

「ラジェールならオラ知ってるぞ!街の端っこにある酸っぱい家だ!」

「酸っぱい家?」

「よし、出発だぞ!みんな、オラに続けだぞ!」


謎のキーワードを残し、どんどん進んでいくエティ。俺達も置いてかれないよう慌てて後に続く。

賑やかで栄えた街を抜けると畑などがポツポツと見えてくる。パッパさんが香辛料を売り歩いていただけあって、胡椒やクミンなどの香辛料の畑が多いように見える。そんな畑の間を尚もガンガン進んでいくエティ。畑が次第に少なくなっていき、一瞬もう国の外なのでは?と感じるほど長閑な雰囲気になってきた頃、ポツンと一軒家が見えてきた。街の端っこにあると言っていたが、ラジェールさんの家は本当に端っこに佇んでいた。


「ごめんくださーい!」


ラジェールさんの家は赤い煉瓦造りの可愛らしい造りだった。そしてエティが酸っぱい家と言った理由は訪れてみてすぐにわかった。家の奥の広場には大量の黒い壺が並んでいたのだ。そしてラジェールさんの家からは独特の酸っぱい香りがほんのり薫ってきている。


「ごめんくださーーーーーいぃ!!」


ノックし、声をかけてもなかなか返事がないので、今度は声を張り上げてみる。


「『なんじゃ、家に客人か?いやでも、ここ何年も客なんて来たことないし、気のせいかのぉ。』と言っている。」


こだまが奥の声を聞き取って教えてくれる。ここからその声聞き取れるってすごいな…。


「ラジェールさーん、僕たち何年かぶりの客人ですよーーーー!!」


独り言に答えるように声をかけると、ドタバタ音が聞こえてきて、程なくドアが開き鳥型の獣人が顔をひょこっと出した。顔は濃い緑色の羽、後頭部と尾っぽに白黒の鱗のような見事な紋様、体を覆う羽根は青、赤、黄、オレンジなど色鮮やか。鳥にはあまり詳しくないが、うる覚えな記憶から考えるに中国南西部とチベット南東に生息しているハッカンという鳥に見えなくもない。


「本当に客人だったとは。何かようかのぉ?」

「ハッカン?」

「おぉ、珍しいのぉ。左様、わしはハッカン鳥族のラジェールよ。わしでなくハッカンじゃぞ、わっはっは!」


ラジェールさん自身の糞親父ギャグにご満悦です。ひとしきり笑ったあと、我に戻り再び用件を聞いてきた。


「で、何かようかのぉ?いや、まずはおもてなしじゃ。なにせ数年ぶりのゲストじゃてのぉ!」


急にテンションを上げたラジェールさんは「ささ!」と俺たちを家の奥へと案内してくれた。


「もてなすと言ってものぉ、今なにもないんじゃて。黒酢でも飲むかのぉ?」

「黒酢って飲み物じゃないですよね!?ってか、外のあの黒い壺、やっぱり黒酢だったんですね!!」

「なんじゃ黒酢があると知って来たわけじゃないのか…。お前たち一体何しにきたんじゃ?」


分かりやすく落胆した様子のラジャールさん。一人でちびちび黒酢を飲んでいる。いや、黒酢って直接飲むものじゃないよね??


「ねぇ楽、あれ美味しいの?」


クルが興味津々で袖を引っ張ってきます。


「黒酢は直接飲むのはやめたほうがいいと思うが、黒酢で作る黒酢ドリンクは結構うまいぞ。」

「黒酢ドリンク、クル飲んでみたい!」


うまいに反応し可愛くアピールしてくる、クル。俺はクルに甘いので、早速黒酢譲ってもらえないか聞いてみよう。


「ここに黒酢があることは知らなかったんですが、黒酢って少し譲っていただくことって可能ですか?」

「おぉ!黒酢が欲しいのか!!何樽じゃ?何樽買ってくれるんじゃ??」

「そうですね、結構買って行ってもいいかなって。でも味次第ですね。今ここで飲む分少しいただけますか?」

「おぉ、テイスティングじゃな!いくらでも飲んでくれ!」


そう言うとテーブルの上に一升瓶サイズの瓶をどんと乗せるラジャールさん。いや、ストレートで飲まないんでそんなに要りませんよ?


「リアすまないけど冷蔵庫から牛乳と蜂蜜、あとジャムも持ってきてもらっていいかな?」

「うん、わかった。」


ここでおうちYEAHを出すわけにはいかないので、リアに必要な材料を持ってきてもらう。その間、実際に黒酢をテイスティングしてみることに。


「これは!香りもすごくいいし、コク深いすばらしい黒酢ですね。」

「おぉ、黒酢の味がわかるのか!流石人族じゃのぉ!」


品質を褒められテンション爆上がりのラジャールさん。しかし、最後の言葉が引っかかる。


「俺、見た目はこんなですけど、皆さんの言う人族じゃないですよ?」

「ん?そうなのか?」

「この国の人は俺のこと知ってる人が多かったから、ラジャールさんも知ってて驚かないのかと思ってました…。」

「わしはみんなみたいに情報通じゃないからのぉ。そうかそうか人族じゃなかったのか。でも黒酢の良さは知っている!それだけわかれば十分じゃよ、わっはっは。」

「…ラジャールさんは人族嫌いなんじゃないんですか?」

「わしは細かいことは気にしないたちじゃてのぉ。わっはっは。」


そう言いながら豪快に笑うラジャールさん。

そこにリアも材料を持って戻ってきたので気を取り直して黒酢ドリンクを作ることにした。


「じゃぁ、【黒酢牛乳】作るな。」


【黒酢牛乳】


材料

・牛乳

・黒酢

・蜂蜜

・お好みでジャム


と言っても、作り方というほど手が込んだものではない。牛乳・黒酢・蜂蜜を10・2・1で割るだけだ。お好みでジャムを入れてもいい。


「おぉ、これは不思議じゃ!牛乳がヨーグルトみたいにトロトロになったぞ。味も甘い中にほのかな黒酢の酸味と香り、うまいじゃないか!」


何故か真っ先に飲んだのはラジャールさんだった。そして目を見開き舌触り、味などを評価していく。


「ごくごくごくごく」

「オラ、ジャム入りの方が好きだぞ!」

「クルもクルも!ジャムいっぱい入れて?」

「滑らかな舌触り。おいしい。」


うちの子たちも大満足、そしてやはりジャム入りが好評だった。


「お酢と牛乳を混ぜるととろっとした感じになるんだよ。飲みごたえもあるし、なかなかいけるだろ?」

「うむ、見事な味わいじゃった。お主人族じゃないのに黒酢のこの使いこなし、何者じゃ?」

「俺の故郷では黒酢結構使ってたんで。黒酢料理俺結構好きでしたよ。でも黒酢を作ってるって、ラジャールさんは麹を知ってるんですか?」

「知っておるぞ。昔人族の国に潜入した時に知って、その技術を盗んできたのじゃ。」

「えぇ潜入ってそんな危険なことを??」

「うっかり迷子になってしもうてのぉ。気づいたら人族の村じゃったわい。わっはっは!」


うっかりって、本当に豪快な人だな。


「それで、黒酢作りを始めたんですね。」

「そうじゃ!この酸っぱさがたまらなくてな!しかしさっぱり売れんのじゃ!」

「まぁ、この香りも独特ですしね…。」

「そうなのじゃ…。ふむ、黒酢を使った料理も知っておると言っておったな。お主なら黒酢を広めることがかのやもしれぬ。頼む!黒酢を広める手伝いをしてくれ!」

「手伝ってくれって…。俺達も仕事が忙しいからなぁ。」


すごい勢いで迫ってくるラジャールさん。しかし、忘れてはならない。俺達は『匂い取る君』でていっぱいだ。今日はお客さんのところを回らなきゃいけないからそんな暇ない。


「仕事?そう言えばお主ら何しにきたんじゃ?」

「ラジャールさん『匂い取る君』の注文しましたよね?今日お店開けなかったんで直接お届けに来たんです。」

「おぉ!『匂い取る君』か!!そうじゃ、あれがわしの頼みの綱なんじゃ!」

「頼みの綱?」

「そうじゃ、頼みの綱じゃ!街にあるヌドルっちゅう麺屋があるじゃろ?」

「いや、聞いたことないですね。」

「知らぬのか!街一番のうまい麺料理を出すお店じゃぞ!わしはそこの看板娘のフィーハにほの字なのじゃ。」

「ほの字って…久しぶりに聞いたよ…。」

「じゃがフィーハは匂いに敏感でな、わしから漂う黒酢の匂いが苦手なのじゃと…。」

「あぁ…それで。」

「そうじゃ、『匂い取る君』があればわしの恋も即進展じゃ!わっはっは!」


果たしてそんなにうまくいくのだろうか…。しかし麺料理か。ちょっと興味が出てきたかも。

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