街の異変
さぁ新しい事件の始まりです。
「コーヒー飲む人ー?」
「こだまは紅茶がいい。」
「私もジャム入り紅茶をいただきます。あと、レアとブルーには常温のミルクをお願いします。」
「オラコーヒー牛乳がいいぞ!」
「クルはオレンジジュース!」
「楽様、私ロイヤルミルクティが良いです。」
「はいはい、全員違う飲み物なのね…。あと、アンジェ、フィギュアなのに飲めるの?」
「ご主人様とお茶会を楽しむこともプログラミングされてます故。」
「お茶会って…。消化とかいったいどうなってるんだ?」
「体内で分解、完全エネルギー化します。“テンシたんシリーズは排泄なんてしない設計”です。」
「…昭和のアイドルかよ!」
久しぶりに全員、いや新しいメンバーを加えた我が家は賑やかな朝食を迎えていた。
元々あったダイニングテーブルでは狭くなってしまって、テーブルを2つ並べてみんなで囲んでいる。因みに2つ目のテーブルはこだまによる複製魔法だ。あれ、複製できるなら『匂い取る君』製造ラインいらなかったんじゃ…。
「楽、甘いの追加。」
「あぁ、はいはい。甘いホットケーキのタネね。」
追加分のボウルを置いたテーブルの上には大きいホットプレートが2つ鎮座している。そしてその脇には甘さ違いでホットケーキのタネを入れたボウルが3つ。好みがバラバラのみんなの朝食を作っていると時間がかかりすぎるので、各々好きに作ることにしたのだ。朝から大ホットケーキ大会。
こだまは甘くないタネで生地を2枚作り、ハンバーグを挟んでバーガーのようなものを作っている。時折甘い記事を足しているので、ハンバーグに合う甘さを研究しているようだ。間に挟んだり乗っけたりするリクエスト具材は横で俺が調理している。
リアはプレーンのパンケーキと紅茶。少し生地を千切ってはレアとブルーにもお裾分けしている。そんなレアとブルーはリアの足元で並々注がれたミルクの皿に顔をツッコミすごい勢いで飲んでいる。お裾分けしてもらったホットケーキもミルクに入れて柔らかくして食べている。赤ちゃんらしくてほのぼのするな。
エティは作るのが楽しくなったのか、タネでキャラクターを描いてはバターをたっぷり塗って頬張っている。その横でアンジェがニコニコしながら紅茶を啜っている。
クルは甘さ強めの生地で小さいパンケーキをいくつも作り、好きなフルーツを乗せて食べている。いろいろな果物を試したいようだがそんなにいっぱいは食べれない。そこで、少し齧っては俺のお皿に乗せていっている。強制シェアスタイルだ。
俺は朝食はあまり食べない派なのだが、クルが乗せてくる食べかけを齧りながらコーヒーを楽しんだ。本当はコーヒーあまり選ばないのだが、今日はなんとなくパパ気分。パパといえばコーヒー?と思って選んでみた。苦いから砂糖多めだが。
久しぶりの大所帯はやはり楽しいし気分が良い。エティの悪意ある俺の似顔絵パンケーキもゲンコツだけで許してあげられた程だ。そんな朝食を終え、おうちYEAHから宿泊している部屋に出てみると朝食の平和さに反し、宿の部屋は殺伐とした空気が流れていた。
「うん。荒らされてるね。それも見事に徹底的に。寝る前はこんなじゃなかったもんね。」
「夜のうちに襲撃を受けているということは、私達を直接狙ったってことよね。」
リアの推測に大きくうなづく。
「その可能性はあるね。見つからなかったからの腹いせか、見せしめか、丁寧に荒らしていったって感じかな?」
ベッドが何か大きな鈍器で殴られたように砕けていて、シーツもカーテンもビリビリに。テーブルも椅子も四つ足がきっちり折られていてテーブルの上にあった水差しだったものの残骸が床に散らばっている。侵入経路は窓だったようだ。窓枠ごと取り外されていて、窓枠は外、屋根の部分に置かれていた。
「まぁ!…何があったんだい?」
そこに宿屋の女将さんがやってきた。荒らされた部屋を見て驚いているところを見ると昨日の夜の騒動には気づいていないようだ。
「実は昨日の夜は出かけていて部屋に居なかったのですが今朝戻ってきたらこんな有様で…。女将さん、昨日の夜何か不審な音聞きませんでしたか?」
「あたしゃ、いったん寝ちゃうとちょっとやそっとじゃ起きないかねぇ。何も気づかなかったよ!」
すまないねぇとカラカラと笑う女将さん。商売道具の部屋がこんななのに笑ってていいのでしょうか?
「そうですか…。」
「でも部屋がこんなことになっちゃったらとてもじゃないけど泊まれないねぇ。けど他の部屋は空いてなくってねぇ…。悪いけど他の宿を探してもらってもいいかい?」
「こちらも仲間がみんな戻ってきちゃって大所帯になっちゃったのでそれは構わないですが…なんか、このまま部屋を引き払うのは申し訳ないですね…。」
部屋の惨状をあまり気にした様子のない女将だが、しかし明らかにズタズタで、このまま、はい返却というのは忍びない。
「まぁ派手にやられちゃってるけど、たまにあることだし、あんたにはいいもの、『匂い取る君』って言ったっけ?貰ったからねぇ。あれ街で話題になってるらしいじゃない?だから気にしなくていいわよ。」
「はぁ、話題になってるんですか?喜んでいいのやら悲しんでいいのやら複雑だな…。」
「売れてるんだ、喜ばなきゃ!」
もっと頑張れと言わんばかりに背中をバンバン叩いてくる女将さん。あまりお金の持ち合わせもないので、気に入ってくれたのならとお言葉に甘えることに。あげたのはサンプルの1本だけだったので、追加で『匂い取る君』を一箱贈呈しておいた。
「それにしても俺たちを狙うって何が目的だろう?」
「わからない。でも商人、私を捉えようとしたから…私たちのこと珍しい奴隷に見えているのかも。」
「えっ!リア襲われたの!?大丈夫だったの??」
「問題ない。ただ油断していて事前に気づけなかったから、みんなこれから注意したほうがいい。」
狙われたというのに涼しい顔をしているリア。まぁリアめちゃくちゃ強いから大事には至らなかったのだろう。確かにリアはエルフだし、こだまは…エティも得体が知れないし、クルも珍しい上にめちゃくちゃ愛くるしい。狙われてもおかしくないのかも知れない。
「そっかー。でも白昼堂々人攫いなんてしたら問題にならないのか?」
「……。多分人族に似た人と行動を共にしているから…。」
「えぇ!?また俺のせいかー…。確かに人族の仲間なら誰も問題視しないのかも…。なんか、ごめんな。」
「謝る必要ない。商人は人を操る香りを使っていた。『匂い取る君』を使っていたから私もレア、ブルーも大丈夫だった。楽が助けてくれたようなもの。」
「そっか。でも、いい加減人族こらしめないとだなぁ。こだまとエティとクルも気をつけろよ?」
「こだまは大丈夫。」
「香りはエチケットなんだぞ!だからオラだって大丈夫なんだぞ!」
「クル今日ちゃんと甘いの使ったよ!」
そう。何を隠そう、朝出かける前みんなで好きな香りを選んで使用していた。我が家では香りのエチケットがしっかり習慣化してきていた。
そんな雑談をしながら宿を出ると、外の雰囲気も昨日とはどこか違った様子に感じられた。
「…静か?」
そう、街がものすごく静かになっていた。いつもは道に誰もいなくても人の気配、活気付いた街の気配がして、商業都市自体が生きているような雰囲気があった。宿は奥まった場所に位置していて、人が3人位並べばいっぱいになってしまうような細い道に面している。そんな細い道でも意外と行き交う人が多いのだが、楽たちが外に出てみるとひとっこ一人見当たらない。
「たまたま誰もいないタイミングで外に出たのかもしれないけど、鳥の泣き声すら聞こえない?」
「本当。人の気配は感じられるし、移動している人だっているみたいだけど、まるで誰もおしゃべりしていないみたい。」
人の気配は感じるらしい。しかし、まるで町全体が息を潜め、音を立てないように活動しているようとのことだ。一体何が起こっているのだろうか?俺達はとりあえず、いつも店を広げている検問所へと向かってみることにした。




